明晰夢工房

読んだ本の備忘録や日頃思ったこと、感じたことなどなど

世界史

古代ギリシア民主政の真実とは?歴史学者が「衆愚政」への異議を唱える

古代ギリシアの民主政 (岩波新書 新赤版 1943) 作者:橋場 弦 岩波書店 Amazon 古代ギリシアの民主政は、しばしば「衆愚政」とセットで語られる。だが『古代ギリシアの民主政』によれば、『歴史学者が「衆愚政」という、価値判断の込められた語を用いてギリシ…

古代ローマ人が奴隷の買い方からマネジメント法・解放の仕方まで教えてくれる貴重な一冊『奴隷のしつけ方』

奴隷のしつけ方 作者:ジェリー・トナー マルクス・シドニウス・ファルクス 太田出版 Amazon 古代ローマにおいて、人口の二割程度は奴隷だったといわれる。奴隷なくしてローマ社会は成り立ないので、彼らにきちんと働いてもらわなくてはいけない。といっても…

ローマ帝国軍に入隊したい人のための懇切丁寧なガイド『古代ローマ帝国軍非公式マニュアル』

古代ローマ帝国軍 非公式マニュアル (ちくま学芸文庫) 作者:マティザック,フィリップ 筑摩書房 Amazon 「帝国は諸君を必要としている!」という帯の文句に惹かれ手に取ってみると、かなり内容の充実した一冊だった。これを読めば、ローマ帝国軍の入隊手続き…

世界史の鼓動が聴こえてくる漫画『天幕のジャードゥーガル』2巻までの感想

天幕のジャードゥーガル 1 (ボニータ・コミックス) 作者:トマトスープ 秋田書店 Amazon 天幕のジャードゥーガル 2 (ボニータ・コミックス) 作者:トマトスープ 秋田書店 Amazon これはある意味、世界史そのものを描いた作品だ。かつてモンゴル史家の岡田英…

ソグド人は唐建国や玄武門の変にも関わっていた──森部豊『唐 東ユーラシアの大帝国』

唐―東ユーラシアの大帝国 (中公新書) 作者:森部豊 中央公論新社 Amazon ソグド人といえば、シルクロードで東西交易に従事した民族というイメージが強い。だが『唐──東ユーラシアの大帝国』を読むと、唐の政治・軍事にも深くかかわっていることがわかる。この…

【書評】脚光を浴びたことのない古代ローマ人50人の生活を描く『古代ローマごくふつうの50人の歴史 無名の人々の暮らしの物語』

古代ローマ ごくふつうの50人の歴史 ―無名の人々の暮らしの物語 作者:河島思朗 さくら舎 Amazon 古代ローマの生活史の本は何冊か出ているが、中でもこれは充実している。古代ローマ時代を生きた無名の人々が50人も紹介されているので、これらの人々の暮ら…

『中世への旅 都市と庶民』『中世への旅 農民戦争と傭兵』も復刊決定!

『中世への旅 騎士と城』につきまして、皆様本当にありがとうございました。と、いうわけで。『中世への旅 都市と庶民』『中世への旅 農民戦争と傭兵』も復刊のはこびとなりました。詳細きまりしだい告知いたします。#ヒストリ屋#中世ヨhttps://t.co/a8JMYsU…

「カール禿頭王は本当に禿げていたか」を考察した論文があった

saavedra.hatenablog.com 中世ヨーロッパはあだ名の時代だ。似たような名前が多くて区別しにくいので、カロリング朝時代には単純王や短躯王、敬虔王など、さまざまなあだ名が歴史書に登場してくる。これらカロリング朝諸王の中、とりわけ印象に残るのは「禿…

『中世への旅 騎士と城』が無事重版決定したので内容を紹介する

『中世への旅 騎士と城』(H.プレティヒャ/平尾浩三/白水社)書泉限定復刊!新刊での入手が困難だった本書がこの度、弊社限定で大復活!!騎士文化最盛期、12世紀から13世紀のドイツを中心に、騎士たちの日常を生き生きと描き出す最良の手引書!#中世ヨ#ヒス…

【書評】まるで見てきたように古代アテネの一日を再現する一冊『古代ギリシア人の24時間 よみがえる栄光のアテネ』

古代ギリシア人の24時間: よみがえる栄光のアテネ 作者:フィリップ・マティザック 河出書房新社 Amazon 歴史本のジャンルではここ最近、生活史を扱った本が増えてきた。この『古代ギリシア人の24時間 よみがえる栄光のアテネ』古代ギリシア人の生活に光を当…

【書評】人を悪行に駆り立てるのは共感だった──ルドガー・ブレグマン『Humankind 希望の歴史(下)』

ランキング参加中読書 Humankind 希望の歴史 下 人類が善き未来をつくるための18章 (文春e-book) 作者:ルトガー・ブレグマン 文藝春秋 Amazon 『Humankind 希望の歴史』上巻においてルドガー・ブレグマンはスタンフォード監獄実験やミルグラムの電気ショック…

ミイラ職人や陶工・書記・農夫など古代エジプト人の生活が物語風にわかる本『古代エジプトの日常生活』

古代エジプトの日常生活: 庶民の生活から年中行事、王家の日常をたどる12か月 作者:ドナルド・P・ライアン 原書房 Amazon 原書房からは古代ローマやギリシャ・中世イングランド・古代中国などの日常生活を扱った本が出版されているが、今冬『古代エジプトの…

チェコとスロヴァキアの歴史を一冊で学べる良書『図説チェコとスロヴァキアの歴史』

図説 チェコとスロヴァキアの歴史 (ふくろうの本/世界の歴史) 作者:薩摩秀登 河出書房新社 Amazon チェコとスロヴァキア、両地域の歴史を通覧できる良書。著者の薩摩秀登氏は中公新書から『物語チェコの歴史』を上梓しているが、こちらでカバーしていないス…

【感想】逢坂冬馬『同志少女よ、敵を撃て』

同志少女よ、敵を撃て 作者:逢坂 冬馬 早川書房 Amazon 本作の帯には桐野夏生の「これは武勇伝ではない。狙撃兵となった少女が何かを喪い、なにかを得る物語である」という一文が書かれている。「喪い」が先に来ているのは、この物語が大きな喪失で幕を開け…

【書評】ウクライナ史を新書一冊で概観できる良書『物語ウクライナの歴史』

物語 ウクライナの歴史 ヨーロッパ最後の大国 (中公新書) 作者:黒川祐次 中央公論新社 Amazon この本のまえがきでは、「ウクライナ史最大のテーマは国がなかったこと」というウクライナ史家の言葉を紹介している。多くの国家においては歴史最大のテーマが民…

キエフ・ルーシ公国の後継者はウクライナかロシアか──黒川祐次『物語ウクライナの歴史 ヨーロッパ最後の大国』

物語 ウクライナの歴史―ヨーロッパ最後の大国 (中公新書) 作者:黒川 祐次 中央公論新社 Amazon いま注目の既刊、黒川祐次著『物語 ウクライナの歴史 ヨーロッパ最後の大国』。ロシア帝国、ソ連時代を経ても、独自の文化を守り続けたウクライナ。本書は、スキ…

【書評】秦の軍事制度から古代中国の性差まで多彩な論文を収録した『岩波講座世界歴史05 中華世界の盛衰』

中華世界の盛衰 4世紀 岩波書店 Amazon 今年10月から岩波講座世界歴史新シリーズの刊行がはじまった。刊行二冊目になる『中華世界の盛衰 4世紀』では、殷から西晋末にいたるまでの中華世界およびその周辺世界を扱っている。通史を扱っているのは『「中華帝国…

【感想】自己皇帝感あふれるビザンツ皇女アンナ・コムネナが主人公のフルカラー4コマ『アンナ・コムネナ』

アンナ・コムネナ(1) (星海社コミックス) 作者:佐藤二葉 講談社 Amazon 開幕一秒で弟に「お前を消せばいいわけね」と言い放つヒロインもめずらしい。本作の主人公アンナ・コムネナは父アレクシオスが皇帝なので、自分もビザンツ皇帝をめざしていたが、弟…

【書評】阿部拓児『アケメネス朝ペルシア 史上初の世界帝国』

アケメネス朝ペルシア- 史上初の世界帝国 (中公新書, 2661) 作者:阿部 拓児 中央公論新社 Amazon 読みやすくわかりやすいアケメネス朝史の概説。キュロスの建国からアレクサンドロスの東征による滅亡まで、アケメネス朝ペルシアの220年の興亡を王の列伝形式…

【感想】修道女フィデルマシリーズ長編第一作『死をもちて赦されん』

死をもちて赦されん (創元推理文庫) 作者:ピーター・トレメイン 東京創元社 Amazon 若くて美貌、学識豊かで弁護士資格を持ち頭脳明晰……と超ハイスペックな修道女フィデルマが難事件を解決するフィデルマシリーズの第一作。本作『死をもちて赦されん』ではイ…

ゲームさんぽの藤村シシンさんの動画は古代ギリシャ文化入門として圧倒的におすすめ

www.youtube.com ゲームさんぽの動画は面白いものが多いですが、藤村シシンさんはゲームさんぽに出演することを目的にしていただけあって、藤村さんが出ている回は解説の巧みさと気合の入り方が見事です。 一番新しい上の動画ではアサシンクリードオデッセイ…

ソクラテスの妻クサンティッペの「悪妻伝説」はどのように生まれたか

ソクラテス (岩波新書) 作者:田中 美知太郎 発売日: 2019/11/28 メディア: Kindle版 ソクラテスの妻クサンティッペは「悪妻」だったといわれる。彼女はときにソクラテスに水を浴びせかけたり、上着をはぎ取ったりしたという。そんな扱いを受けてもソクラテス…

岩波新書『シリーズアメリカ合衆国氏』『シリーズ中国の歴史』が電子書籍化

岩波書店の電子書籍、12月はすごいことになっています。『孤塁』『ブルシット・ジョブ』といった単行本から、少年文庫70点(!)、そして新書は『シリーズアメリカ合衆国史』『シリーズ中国の歴史』の配信が始まります。https://t.co/1t8HOadMsi pic.twitter…

ヴァイキングは人間を生贄に捧げていたか

ドラマ『ヴァイキング』ではウプサラで人が神の犠牲に捧げられるシーンがある。アセルスタンもシーズン1ではここで殺されかけていたが、まだキリスト教を信じていることを見抜かれて犠牲になる資格がないということになり、助かった。 シーズン2ではアセルス…

【感想】『ヴァイキング』シーズン2(1話)でさらにヴァイキングの略奪の理由付けが明確になった

Vikings: Season 2 [DVD] [Import] メディア: DVD ドラマ『ヴァイキング』はシーズン1のドラマ終盤に入るとラグナルの兄、ロロの存在がクローズアップされてくる。ロロはヴァイキングの英雄として名声を勝ち得る弟に対し、いまひとつ冴えない己の現状に忸怩…

【感想】ドラマ『ヴァイキング』(シーズン1)はヴァイキングの残酷さとの距離の取り方が絶妙な歴史ドラマ

Vikings: Season 1/ [DVD] [Import] アーティスト:Vikings 発売日: 2013/10/15 メディア: DVD このドラマを観る前は、感情移入が難しいのではないかと思っていた。ヴァイキングを主人公に据える以上、どうしても略奪を描かざるをえない。ヴァイキング側から…

【書評】パニコス・パナイー『フィッシュ・アンド・チップスの歴史』

フィッシュ・アンド・チップスの歴史: 英国の食と移民 (創元世界史ライブラリー) 作者:パニコス・パナイー 発売日: 2020/09/17 メディア: 単行本 イギリス料理といえばフィッシュ・アンド・チップスをまず思い浮かべる人は多い。イギリスを代表する国民食で…

なぜ清朝の中国では産業革命が起きなかったのか?岡本隆司『「中国」の形成』

「中国」の形成 現代への展望 (シリーズ 中国の歴史) 作者:岡本 隆司 発売日: 2020/07/18 メディア: 新書 岩波新書のシリーズ中国の歴史の最終巻になるこの本のまえがきでは、アジアと西洋の「大分岐」についてふれている。18世紀の終わりころからイギリスな…

【感想】加藤九祚『シルクロードの古代都市 アムダリヤ遺跡の旅』

シルクロードの古代都市――アムダリヤ遺跡の旅 (岩波新書) 作者:加藤 九祚 発売日: 2013/09/21 メディア: 新書 94歳で亡くなるまで発掘の最前線に立ち続けた加藤九祚氏が、アムダリア遺跡で出土した発掘品についてまとめたもの。一番興味をひかれたのはやはり…

【感想】鈴木董『大人のための「世界史」ゼミ』

大人のための「世界史」ゼミ 作者:鈴木 董 発売日: 2019/09/28 メディア: 単行本(ソフトカバー) この本には「文化」「文明」に独自の定義がある。シュペングラーやトインビー、サミュエル・ハンチントンなどあまたの知識人がこれらの言葉を独自に定義して…