明晰夢工房

読んだ本の備忘録や日頃思ったこと、感じたことなどなど

小説

【感想】異世界転生版ゲームオブスローンズとして読める?『転生令嬢と数奇な人生を1 辺境の花嫁』

転生令嬢と数奇な人生を1 辺境の花嫁【電子書籍限定 特典イラスト付】 作者:かみはら 早川書房 Amazon 早川書房が「異世界転生版ゲームオブスローンズ」と宣伝している『転生令嬢と数奇な人生を1 辺境の花嫁』を読んだ。 ゲームオブスローンズは最初のほう…

グイン・サーガがKindle Unlimited入りしたと聞いてノスフェラスの思い出がよみがえってきた

www.hayakawabooks.com そうか、とうとうグインサーガもKindle Unlimited入りか……と、この記事を読んでしばらく感慨にふけってしまった。正編と外伝合わせて150巻以上、栗本薫が生前書いたものが読み放題対象になっている。これを全部紙の本でそろえるのは大…

行動ダイアリーをつけてみたら読書量がかなり増え、日々の充実感もアップした

最近、余暇の時間に何をしても充実感を感じられない日々が続いていた。状況を打開するため、「行動ダイアリー」をつけ始めた。行動ダイアリーとは認知行動療法の創始者アーロン・ベックの考案したもので、実践方法は簡単。日々の行動について、1時間ごとに「…

ソード・ワールド短編集がKindle Unlimitedで読み放題対象なので『レプラコーンの涙』を読んだ

ソード・ワールド短編集 レプラコーンの涙 (富士見ファンタジア文庫) 作者:水野 良 KADOKAWA Amazon ファンタジー小説は作品ごとに世界観も設定も違うので、読みはじめるハードルが少し高い。でも慣れ親しんだ世界観ならすぐストーリーに入っていける。それ…

ゲームブックはファミコンを買ってもらえなかった子供たちの心の隙間を埋めてくれた

www.4gamer.net イアン・リヴィングストンとスティーブ・ジャクソン、このゲームブックの両巨頭の名を懐かしく思い出す人は多いだろう。80年代後半、日本にファンタジーというジャンルが根付きつつあった時代、ゲームブックもこの世界への入り口として大きな…

【感想】逢坂冬馬『同志少女よ、敵を撃て』

同志少女よ、敵を撃て 作者:逢坂 冬馬 早川書房 Amazon 本作の帯には桐野夏生の「これは武勇伝ではない。狙撃兵となった少女が何かを喪い、なにかを得る物語である」という一文が書かれている。「喪い」が先に来ているのは、この物語が大きな喪失で幕を開け…

【感想】最強の石垣職人vs至高の鉄砲職人の戦いの行方は?今村翔吾『塞王の楯』

塞王の楯 (集英社文芸単行本) 作者:今村翔吾 集英社 Amazon 今村翔吾がまたやってくれた。『じんかん』では「悪人」ではない松永久秀の激烈な生涯を描いた作者が今回主人公に据えるのは、「穴太衆」とよばれる石工の青年・匡介。幼いころに信長に故郷の一乗…

【感想】五胡十六国時代を舞台に、人型の麒麟と遊牧民の青年の友情と戦いを描く『霊獣記 獲麟の書(上)』

霊獣紀 獲麟の書(上) (講談社文庫) 作者:篠原悠希 講談社 Amazon 晋の統一ははかない。三国時代がようやく終わり、一見中華は平穏を取り戻したかにみえるが、少しづつ内乱の足音が近づいてくる。気候の寒冷化も進み、半農半牧の生活を送る遊牧民の青年・ベ…

【感想】火坂雅志『軒猿の月』

軒猿の月 (PHP文芸文庫) 作者:火坂 雅志 PHP研究所 Amazon 最近kindle unlimitedを使っているので、ここで読んだものの感想をいくつか。 『軒猿の月』は火坂雅志作品としては異色の作品集になる。大河ドラマ化された『天地人』をはじめとして骨太な歴史小説…

【感想】道尾秀介『雷神』

雷神 作者:道尾秀介 新潮社 Amazon 「ラスト1ページの衝撃」を売りにするミステリはけっこう見かけるが、この一文はこの作品にこそふさわしい。道尾秀介が「これから先、僕が書く作品たちにとって強大なライバルになりました」と自負する『雷神』は、ラスト…

【感想】火坂雅志・伊東潤『北条五代(上)(下)』

北条五代 上 作者:火坂 雅志,伊東 潤 発売日: 2020/12/07 メディア: Kindle版 火坂雅志が執筆中に急逝したため未完になっていた作品を伊東潤が引き継ぎ完成させた『北条五代』を読んだ。後北条氏五代の興亡を描くこの作品で、火坂雅志は三代目当主・北条氏康…

【感想】謎解き×怪異×人情全部入りの宮部みゆきよくばりセット『きたきた捕物帳』

きたきた捕物帖 作者:宮部みゆき 発売日: 2020/05/29 メディア: 単行本 宮部みゆきの時代ものには怪異要素のあるものとないものがある。怪異入りなのは『三島屋変調百物語』『荒神』『あかんべえ』などで、これらの作品は捕物ではない。いっぽう怪異なしの作…

【感想】今村翔吾『くらまし屋稼業』

くらまし屋稼業 (時代小説文庫) 作者:今村翔吾 発売日: 2020/05/15 メディア: Kindle版 松永久秀を主人公とする『じんかん』で話題になった今村翔吾の人気シリーズの第一作。希望する者を江戸の外に逃がす「くらまし屋」を裏家業とする堤平九郎が主人公。『…

【感想】佐藤厳太郎『伊達女』にみる歴史研究と歴史小説の幸福な関係

伊達女 作者:佐藤 巖太郎 発売日: 2020/11/06 メディア: 単行本 歴史小説には「そう来たか」がほしい。ここで言う「そう来たか」とは、史実(とされているもの)を意外な方向で解釈する、ということだ。この作品を読む人の多くは、伊達政宗の生涯についてお…

【感想】千葉ともこ『震雷の人』

震雷の人 作者:ともこ, 千葉 発売日: 2020/09/17 メディア: 単行本 安史の乱の混乱に巻き込まれ、敵味方に分かれた兄妹の運命を描く大河小説。主人公の采春は男以上に剣や弓を操る女傑で、安禄山の眼前では足で弓を射る腕前を披露する場面もあるなど、武侠小…

【感想】葉室麟『蛍草』

螢草 (双葉文庫) 作者:葉室 麟 発売日: 2015/11/12 メディア: 文庫 葉室麟作品の中でも『蛍草』はもっともストーリーがシンプルな部類の作品だ。武家の娘が女中になり、世話になった優しい主人夫婦の恩に報いるため、主人の危機を救おうと奔走する。最後には…

【感想】水野良『ロードス島戦記 誓約の宝冠1』は純然たる「戦記」になるか?

ロードス島戦記 誓約の宝冠1 (角川スニーカー文庫) 作者:水野 良 発売日: 2019/09/01 メディア: Kindle版 前作が神話や伝説だったとすれば、こちらは現実の歴史そのものというイメージになる。今回、ロードス島には英雄と呼べる人物はもういない。『ロードス…

【感想】じゃき『最凶の支援職【話術士】である俺は世界最強クランを従える』は今一番おすすめのなろう小説

最凶の支援職【話術士】である俺は世界最強クランを従える 1 (オーバーラップ文庫) 作者:じゃき 発売日: 2020/06/25 メディア: Kindle版 一言でなろう小説といってもいろいろなものがあるんだな、というのが一読しての感想だった。本作『最強の支援職【話術…

【感想】天野純希『燕雀の夢』

燕雀の夢 (角川文庫) 作者:天野 純希 発売日: 2020/01/23 メディア: Kindle版 織田信秀、武田信虎、松平広忠など「英雄の父」を主人公とした短編集。6つの短編はどれも読みごたえがあるが、中でも『虎は死すとも』と『楽土の曙光』の二編がとくに印象に残っ…

【感想】宮部みゆき『ぼんくら』の善人描写の巧みさについて語る

ぼんくら(上) (講談社文庫) 作者:宮部 みゆき 発売日: 2004/04/15 メディア: 文庫 ぼんくら(下) (講談社文庫) 作者:宮部 みゆき 発売日: 2004/04/15 メディア: 文庫 いまさら言うまでもなく、宮部みゆきはすぐれたミステリ作家だ。だからもちろん『ぼんくら…

【感想】佐藤巖太郎『会津執権の栄誉』

会津執権の栄誉 (文春文庫) 作者:巖太郎, 佐藤 発売日: 2019/07/10 メディア: 文庫 渋い。この一言につきる。本作は会津芦名家の興亡を描いた連作短編だが、それぞれの作品の主人公は皆あまりなじみのない人物で、大河ドラマの主人公になるような華々しい活…

【感想】青山文平『白樫の樹の下で』

白樫の樹の下で (文春文庫) 作者:青山 文平 発売日: 2013/12/04 メディア: 文庫 貧乏御家人の主人公村上登と冷静で温厚な青木昇平、少々ひねくれたところのある仁志兵輔という二人の友がくりひろげる江戸青春活劇──とまとめてしまうには、この作品はあまりに…

「小説にだけあってマンガや映画やアニメにはない魅力」を示せる人ってなかなかいないよね、という話

小説と同じメリットが漫画にもアニメにもある 小説は君のためにある (ちくまプリマー新書) 作者:藤谷 治 出版社/メーカー: 筑摩書房 発売日: 2018/09/06 メディア: 新書 藤谷治さんの『小説は君のためにある』を読みました。 若い読者に向けて、小説の魅力を…

ジャンル分け不能の怪作『絶対小説(講談社リデビュー賞受賞作)』が小説愛にあふれすぎていて最高だったので感想を書く

絶対小説 (講談社タイガ) 作者:芹沢 政信 出版社/メーカー: 講談社 発売日: 2020/01/22 メディア: 文庫 この小説を何と呼べばいいのだろう。 河童のような人間が出てくるから伝奇か。 いや、謎の肉食植物や四脚駆動のメカが登場するからSFか。 作品全体に漂…

【感想】テッド・チャン『息吹』をSFに苦手意識のある私が読んでみた結果

息吹 作者:テッド・チャン 出版社/メーカー: 早川書房 発売日: 2019/12/04 メディア: 単行本 テッド・チャン『息吹』は発売直後から絶賛されているが、私みたいにSFが得意とはいえない読者にもちゃんと読めるのだろうか?と気になっていた。海外SFを読んでい…

【感想】十二国記『白銀の墟 玄の月』3~4巻と「正史の隙間」の物語

白銀の墟 玄の月 第三巻 十二国記 (新潮文庫) 作者:小野 不由美 出版社/メーカー: 新潮社 発売日: 2019/11/09 メディア: 文庫 『白銀の墟 玄の月』1~2巻は、戴国がどれだけ悲惨かを書くことにほぼ費やされた。この2巻は、読者の忍耐力が試される巻だった。…

【感想】十二国記『白銀の墟 玄の月』1~2巻

白銀の墟 玄の月 第一巻 十二国記 (新潮文庫) 作者: 小野不由美 出版社/メーカー: 新潮社 発売日: 2019/10/12 メディア: 文庫 この商品を含むブログを見る 正直なところ、『白銀の墟 玄の月』の1巻については、これが十二国記でなければ最後まで読みとおせた…

【感想】藤沢周平『蝉しぐれ』が時代小説の最高傑作である理由

蝉しぐれ (文春文庫) 作者: 藤沢周平 出版社/メーカー: 文藝春秋 発売日: 2012/09/20 メディア: Kindle版 購入: 2人 クリック: 2回 この商品を含むブログを見る なんという完璧な小説だろう。藤沢周平作品にどれもはずれはないが、その中でもこれは最高傑作…

【感想】澤村伊智短編集『ひとんち』で知る、ホラーにおける小説の強み

ひとんち 澤村伊智短編集 作者: 澤村伊智 出版社/メーカー: 光文社 発売日: 2019/02/19 メディア: 単行本 この商品を含むブログを見る 『ぼぎわんが、来る』で有名な澤村伊智のホラー短編集。8つの作品はどれも味わいが違っててそれぞれに楽しめるが、やはり…

『氷と炎の歌』(ゲームオブスローンズ原作)を読んで考えた「小説の強み」

『氷と炎の歌』を先に読んでいると感じる違和感 最近、アマゾンプライムでゲームオブスローンズを観ている。 いまさら言うまでもなく、これは極めてすぐれた映像作品だし、これに多くの人が熱中しているのもよくわかる。 だが、原作小説『氷と炎の歌』シリー…