明晰夢工房

読んだ本の備忘録や日頃思ったこと、感じたことなどなど

読書

古代ギリシア民主政の真実とは?歴史学者が「衆愚政」への異議を唱える

古代ギリシアの民主政 (岩波新書 新赤版 1943) 作者:橋場 弦 岩波書店 Amazon 古代ギリシアの民主政は、しばしば「衆愚政」とセットで語られる。だが『古代ギリシアの民主政』によれば、『歴史学者が「衆愚政」という、価値判断の込められた語を用いてギリシ…

古代ローマ人が奴隷の買い方からマネジメント法・解放の仕方まで教えてくれる貴重な一冊『奴隷のしつけ方』

奴隷のしつけ方 作者:ジェリー・トナー マルクス・シドニウス・ファルクス 太田出版 Amazon 古代ローマにおいて、人口の二割程度は奴隷だったといわれる。奴隷なくしてローマ社会は成り立ないので、彼らにきちんと働いてもらわなくてはいけない。といっても…

【書評】御成敗式目を「歴史の覗き窓」として鎌倉時代を理解できる良書!佐藤雄基『御成敗式目 鎌倉武士の法と生活』

御成敗式目 鎌倉武士の法と生活 (中公新書) 作者:佐藤雄基 中央公論新社 Amazon 中世法は面白い!と感じられる一冊だった。これはすぐれた御成敗式目入門書であるだけでなく、この法を通じて鎌倉武士や地頭・女性・庶民の姿を浮かび上がらせてくれる良書だ。…

アフリカの国際ロマンス詐欺集団「ヤフーボーイ」たちの驚くべき実態を描く『ルポ 国際ロマンス詐欺』

ルポ 国際ロマンス詐欺(小学館新書) 作者:水谷竹秀 小学館 Amazon 「僕はあなたに100万回の笑顔を送っている、そのうちの1つは今日のために、もう1つは明日のために」こんな言葉を日本人から聞かされたら、どう思うだろうか。まず胡散臭い、という感情が先…

【書評】『土偶を読む』検証を通じて縄文沼に誘ってくれる良書『土偶を読むを読む』

土偶を読むを読む 作者:望月昭秀,小久保拓也,佐々木由香,山科哲,山田康弘,金子昭彦,菅豊,白鳥兄弟,松井実,吉田泰幸 文学通信 Amazon 『土偶を読む』で示された「土偶は植物の姿をかたどったもの」との読み解きは明快で斬新だった。だが斬新な説だから正しい…

「遼来来」は「張遼さんおいでおいで」という意味になってしまうらしい

三国志 運命の十二大決戦 (祥伝社新書) 作者:渡邉義浩 祥伝社 Amazon 遼来来。ご存じのとおり、張遼が来た!という意味だ。泣く子を黙らせるために使われた点では、日本における「蒙古が来た」と似たようなフレーズだが、実は「遼来来」では「張遼さん来て来…

「三方ヶ原の戦いは偶発的に起こった」という説

徳川家康の最新研究 伝説化された「天下人」の虚構をはぎ取る (朝日新書) 作者:黒田 基樹 朝日新聞出版 Amazon 三方ヶ原合戦の戦いについて、実態を伝える当時の史料はない。このため従来は『三河物語』の内容に基づき、家康が自領を通過する武田軍を見過ご…

かっこいいチョンマゲのやめ方

日本史を暴く-戦国の怪物から幕末の闇まで (中公新書 2729) 作者:磯田 道史 中央公論新社 Amazon 磯田道史氏は「江戸人はどんな手順でチョンマゲを切って新しいヘアスタイルにしたのか」と子どもに訊かれ、答えに窮したことがあったという。子供が考えた手順…

【書評】脚光を浴びたことのない古代ローマ人50人の生活を描く『古代ローマごくふつうの50人の歴史 無名の人々の暮らしの物語』

古代ローマ ごくふつうの50人の歴史 ―無名の人々の暮らしの物語 作者:河島思朗 さくら舎 Amazon 古代ローマの生活史の本は何冊か出ているが、中でもこれは充実している。古代ローマ時代を生きた無名の人々が50人も紹介されているので、これらの人々の暮ら…

『完訳 華陽国志』の巴志の部分が志学社のサイトで読めます

【試し読み公開】ご好評頂いている『完訳 華陽国志』、最初の「巴志」がまるっと読める約30ページ太っ腹の試し読みPDFをご用意致しました! 購入の検討にぜひお読み頂けましたら幸いです!!https://t.co/qD6tTWeoxi — 志学社 (@shigaku_sha) 2023年4月4日 …

『中世への旅 都市と庶民』『中世への旅 農民戦争と傭兵』も復刊決定!

『中世への旅 騎士と城』につきまして、皆様本当にありがとうございました。と、いうわけで。『中世への旅 都市と庶民』『中世への旅 農民戦争と傭兵』も復刊のはこびとなりました。詳細きまりしだい告知いたします。#ヒストリ屋#中世ヨhttps://t.co/a8JMYsU…

「カール禿頭王は本当に禿げていたか」を考察した論文があった

saavedra.hatenablog.com 中世ヨーロッパはあだ名の時代だ。似たような名前が多くて区別しにくいので、カロリング朝時代には単純王や短躯王、敬虔王など、さまざまなあだ名が歴史書に登場してくる。これらカロリング朝諸王の中、とりわけ印象に残るのは「禿…

緑色の表紙の本ばかり選ぶと何が読めるのか

togetter.com 表紙が緑色の本ばかり選ぶ人がいるらしい。緑が表紙のどれくらいの割合を占めていればいいのか、表紙とは背表紙も含むのか、などの疑問がわくが、そこはあまり細かく考えないことにして、「とにかく緑っぽい本」を選ぶと何が読めるのか試してみ…

『中世への旅 騎士と城』が無事重版決定したので内容を紹介する

『中世への旅 騎士と城』(H.プレティヒャ/平尾浩三/白水社)書泉限定復刊!新刊での入手が困難だった本書がこの度、弊社限定で大復活!!騎士文化最盛期、12世紀から13世紀のドイツを中心に、騎士たちの日常を生き生きと描き出す最良の手引書!#中世ヨ#ヒス…

「風流天子」徽宗皇帝の野心とチベットへの軍事行動

草原の制覇: 大モンゴルまで (岩波新書) 作者:崇志, 古松 岩波書店 Amazon 宋の徽宗皇帝は、一般的には風流人のイメージがある。水滸伝における徽宗は、芸術好きでプロレベルの画才をもつが、政治に無関心なため高俅や蔡京などの奸臣に朝廷を牛耳られる「被…

白起の最後の台詞と史記の因果応報論

中国の歴史(二) 陳舜臣 中国の歴史 (講談社文庫) 作者:陳舜臣 講談社 Amazon 陳舜臣『中国の歴史』2巻を読み返している。この巻は諸子百家の活躍や始皇帝の中国統一、項羽と劉邦の対決、漢と匈奴の戦いなど古代中国史のハイライトを描いているので、読みど…

ツッコミ過多の社会では「なんもしない」人の価値が高まる『レンタルなんもしない人の"もっと"なんもしなかった話』

レンタルなんもしない人の“もっと”なんもしなかった話 作者:レンタルなんもしない人 晶文社 Amazon マキタスポーツ氏が『一億総ツッコミ社会』で、誰もがプチ評論家と化した世の中の息苦しさを分析したのは2012年のことだ。あれから11年が経ち、令和の日本で…

【書評】まるで見てきたように古代アテネの一日を再現する一冊『古代ギリシア人の24時間 よみがえる栄光のアテネ』

古代ギリシア人の24時間: よみがえる栄光のアテネ 作者:フィリップ・マティザック 河出書房新社 Amazon 歴史本のジャンルではここ最近、生活史を扱った本が増えてきた。この『古代ギリシア人の24時間 よみがえる栄光のアテネ』古代ギリシア人の生活に光を当…

行動ダイアリーをつけてみたら読書量がかなり増え、日々の充実感もアップした

最近、余暇の時間に何をしても充実感を感じられない日々が続いていた。状況を打開するため、「行動ダイアリー」をつけ始めた。行動ダイアリーとは認知行動療法の創始者アーロン・ベックの考案したもので、実践方法は簡単。日々の行動について、1時間ごとに「…

kindle unlimitedにようやく中公新書が登場……でも読めるのはまだ一冊(2023年1月26日現在)

2カ月99円のキャンペーンをやっていたので、今月6日からkindle unlimitedを利用している。このサービスはいろいろな新書が読み放題になるのが強みだが、残念ながら中公新書はまだ読めず…… と思っていたら、先日偶然読み放題対象になっている新書を発見した。…

性善説と性悪説、どっちで生きるのが得?下園公太『寛容力のコツ──ささいなことで怒らない、ちょっとしたことで傷つかない』

寛容力のコツ―――ささいなことで怒らない、ちょっとしたことで傷つかない (知的生きかた文庫) 作者:下園 壮太 三笠書房 Amazon 萱野稔人『名著ではじめる哲学入門』によると、20世紀以降の哲学では性善説的な考えが優勢になっているそうだ。ヒューマニズムが…

「表現の自由」などとっくになくなっていた令和日本

みんなのユニバーサル文章術 今すぐ役に立つ「最強」の日本語ライティングの世界 (星海社 e-SHINSHO) 作者:安田峰俊 講談社 Amazon 安田峰俊氏の『みんなのユニバーサル文章術 今すぐ役に立つ「最強」の日本語ライティングの世界』を読んだ。1記事2000万PVを…

鬼はいつから退治できる存在になったのか──香川雅信『図説日本妖怪史』

図説 日本妖怪史 (ふくろうの本/日本の文化) 作者:香川雅信 河出書房新社 Amazon 平安時代、鬼は妖怪として最も恐れられる存在になっている。その証拠に、『今昔物語集』には数多くの鬼にまつわるエピソードが収録されている。だが『図説日本妖怪史』によれ…

【書評】ウクライナ史を新書一冊で概観できる良書『物語ウクライナの歴史』

物語 ウクライナの歴史 ヨーロッパ最後の大国 (中公新書) 作者:黒川祐次 中央公論新社 Amazon この本のまえがきでは、「ウクライナ史最大のテーマは国がなかったこと」というウクライナ史家の言葉を紹介している。多くの国家においては歴史最大のテーマが民…

キエフ・ルーシ公国の後継者はウクライナかロシアか──黒川祐次『物語ウクライナの歴史 ヨーロッパ最後の大国』

物語 ウクライナの歴史―ヨーロッパ最後の大国 (中公新書) 作者:黒川 祐次 中央公論新社 Amazon いま注目の既刊、黒川祐次著『物語 ウクライナの歴史 ヨーロッパ最後の大国』。ロシア帝国、ソ連時代を経ても、独自の文化を守り続けたウクライナ。本書は、スキ…

山田風太郎『人間臨終図鑑』で知る「かわいそうセンサー」の反応する場所

人間臨終図巻1<新装版> (徳間文庫) 作者:山田 風太郎 徳間書店 Amazon 中年男性が過労死しても顧みられないのは「かわいそうランキング」が低いからだ、といわれることがある。一般論としてはそうかもしれない。だが、山田風太郎『人間臨終図鑑』を読んでい…

kindle unlimitedを2ヶ月使ってみた感想とおすすめ本

kindle unlimitedを去年の11月9日から使いはじめて2ヶ月になろうとしている。2ヶ月299円の価格につられて試してみたサービスだが、100分de名著シリーズや光文社新訳の古典がたくさん読めること、新書もけっこう幅広く読めることなどが魅力で、最初の1ヶ月く…

【書評】秦の軍事制度から古代中国の性差まで多彩な論文を収録した『岩波講座世界歴史05 中華世界の盛衰』

中華世界の盛衰 4世紀 岩波書店 Amazon 今年10月から岩波講座世界歴史新シリーズの刊行がはじまった。刊行二冊目になる『中華世界の盛衰 4世紀』では、殷から西晋末にいたるまでの中華世界およびその周辺世界を扱っている。通史を扱っているのは『「中華帝国…

【書評】呉座勇一『頼朝と義時 武家政権の誕生』

頼朝と義時 武家政権の誕生 (講談社現代新書) 作者:呉座勇一 講談社 Amazon 本書の特徴をかんたんに言うと、「公武対立史観にとらわれない歴史叙述」になる。公武対立史観とは、公家と武家の対立関係を宿命的なものとみなす歴史観のことだ。この史観に立つと…

【感想】最強の石垣職人vs至高の鉄砲職人の戦いの行方は?今村翔吾『塞王の楯』

塞王の楯 (集英社文芸単行本) 作者:今村翔吾 集英社 Amazon 今村翔吾がまたやってくれた。『じんかん』では「悪人」ではない松永久秀の激烈な生涯を描いた作者が今回主人公に据えるのは、「穴太衆」とよばれる石工の青年・匡介。幼いころに信長に故郷の一乗…