明晰夢工房

読んだ本の備忘録や日頃思ったこと、感じたことなどなど

読書

【書評】ブッダになれるのは一部の「能力者」だけか、それとも全員なのか?師茂樹『最澄と徳一 仏教史上最大の対決』

最澄と徳一 仏教史上最大の対決 (岩波新書 新赤版 1899) 作者:師 茂樹 岩波書店 Amazon 仏教というより高度な論理学の本を読んだような、不思議な読後感が得られる一冊だった。本書『最澄と徳一 仏教史上最大の対決』は、タイトル通り最澄と徳一の論争につい…

【感想】五胡十六国時代を舞台に、人型の麒麟と遊牧民の青年の友情と戦いを描く『霊獣記 獲麟の書(上)』

霊獣紀 獲麟の書(上) (講談社文庫) 作者:篠原悠希 講談社 Amazon 晋の統一ははかない。三国時代がようやく終わり、一見中華は平穏を取り戻したかにみえるが、少しづつ内乱の足音が近づいてくる。気候の寒冷化も進み、半農半牧の生活を送る遊牧民の青年・ベ…

kindle unlimitedのおかげでネットから受けるストレスが激減した

「2ヶ月299円」のセール価格につられてkindle unlimitedをはじめて20日が経った。気づいたらネットから受けるストレスが激減していた。いろいろな電子書籍を読みあさっているうちに、ネット上の不快な情報に接することがほぼなくなったせいだ。以前は暇があ…

異性とは目も合わせないニートになれ!という「ヤバい教え」をなぜ信じるのか?ニー仏『だから仏教は面白い!』(kindle unlimited探訪7冊目)

だから仏教は面白い!前編 作者:魚川祐司 evolving Amazon だから仏教は面白い!後編 作者:魚川祐司 evolving Amazon 「ニー仏」こと魚川祐司さんによれば、仏教、少なくともゴータマ・ブッダが説いた初期仏教は「ヤバい宗教」だったという。ヤバいといって…

【書評】桑畑がナンパスポット、市場では受刑者の悲鳴……見てきたように秦漢時代の生活を描く『古代中国の24時間 秦漢時代の衣食住から性愛まで』

古代中国の24時間 秦漢時代の衣食住から性愛まで (中公新書) 作者:柿沼陽平 中央公論新社 Amazon こんなに秦漢時代の生活がくわしくわかる本はほかにない。当時の人間になりきり、午前五時頃から時間帯ごとに古代中国の民衆の生活を追っていく内容なのだが、…

【書評】荘園を知れば日本中世史が圧倒的にわかる!伊藤俊一『荘園-墾田永年私財法から応仁の乱まで』

荘園 墾田永年私財法から応仁の乱まで (中公新書) 作者:伊藤俊一 中央公論新社 Amazon 学問とは本来面白いもの、ということがこの本を読むとよくわかる。本書『荘園-墾田永年私財法から応仁の乱まで』は、荘園という一見地味で硬いテーマを扱っているが、そ…

【感想】ソフォクレス『オイディプス王』(kindle unlimited探訪6冊目)

オイディプス王 (光文社古典新訳文庫) 作者:ソポクレス 光文社 Amazon 本を読むならとにかく古典を読め、という人がいる。なんだか権威主義的であまりお近づきになりたくないタイプだ。とはいうものの、確かにこれは読んでおいたほうがいい、と思える古典は…

歎異抄における「善人」「悪人」とは何か?『NHK「100分de名著」ブックス 歎異抄 仏にわが身をゆだねよ』 (kindle unlimited探訪5冊目)

NHK「100分de名著」ブックス 歎異抄 仏にわが身をゆだねよ 作者:釈 徹宗 NHK出版 Amazon kindle unlimitedを利用するメリットのひとつが、100分de名著シリーズがいろいろ読めることだ。いきなり古典に挑戦するハードルが高すぎるなら、まずこれ…

【書評】山本博文『殉教~日本人は何を信仰したか~』(kindle unlimited探訪4冊目)

殉教~日本人は何を信仰したか~ (光文社新書) 作者:山本 博文 光文社 Amazon これはキリシタンの殉教の様子をくわしく記録した貴重な一冊だ。一読して驚くのは、キリシタンたちの宗教的情熱の強さだ。彼らは微塵も死を恐れない。捕まれば火刑になるとわかっ…

【書評】中国の南北朝時代が新書一冊でわかる!会田大輔『南北朝時代 五胡十六国から隋の統一まで』

南北朝時代―五胡十六国から隋の統一まで (中公新書) 作者:会田大輔 中央公論新社 Amazon これは大変コスパの高い一冊。新書一冊で西晋の崩壊から隋の統一にいたる長い分裂時代を概観できるうえ、各所に新知見が盛り込まれている。政治史中心で、主要人物のエ…

【書評】阿部拓児『アケメネス朝ペルシア 史上初の世界帝国』

アケメネス朝ペルシア- 史上初の世界帝国 (中公新書, 2661) 作者:阿部 拓児 中央公論新社 Amazon 読みやすくわかりやすいアケメネス朝史の概説。キュロスの建国からアレクサンドロスの東征による滅亡まで、アケメネス朝ペルシアの220年の興亡を王の列伝形式…

【感想】火坂雅志『軒猿の月』

軒猿の月 (PHP文芸文庫) 作者:火坂 雅志 PHP研究所 Amazon 最近kindle unlimitedを使っているので、ここで読んだものの感想をいくつか。 『軒猿の月』は火坂雅志作品としては異色の作品集になる。大河ドラマ化された『天地人』をはじめとして骨太な歴史小説…

戦国時代に大進歩を遂げた京都のトイレ事情

京都〈千年の都〉の歴史 (岩波新書) 作者:高橋 昌明 岩波書店 Amazon 前近代の都市は大体どこもそうだが、古代の京都もかなり不衛生な都市だった。『京都<千年の都>の歴史』では、平安京の路上の様子について以下のように紹介している。 10世紀後半成立の『…

かつて日本人が「猫食い」をしていた時代があった──真辺将之『猫が歩いた近現代──化け猫が家族になるまで』

猫が歩いた近現代―化け猫が家族になるまで 作者:真辺 将之 吉川弘文館 Amazon 現代ほど猫が愛されている時代もない。テレビをつければ岩合光昭が野良猫にカメラを向ける姿が映り、ツイッターを開けば「我が家の黒い妖怪」といった一文とともに日夜猫画像が流…

【書評】総勢31人の武人の生涯から南北朝時代を俯瞰できる『南北朝武将列伝 南朝編』

南北朝武将列伝 南朝編 戎光祥出版 Amazon 楠木正成や新田義貞・北畠顕家など有名どころから、南部師行・諏訪直頼などちょっとマイナーな人物まで南朝を支えた人物を網羅した本。「武将列伝」なので後醍醐天皇や後村上天皇の列伝はないが、執筆陣は全員が日…

【感想】道尾秀介『雷神』

雷神 作者:道尾秀介 新潮社 Amazon 「ラスト1ページの衝撃」を売りにするミステリはけっこう見かけるが、この一文はこの作品にこそふさわしい。道尾秀介が「これから先、僕が書く作品たちにとって強大なライバルになりました」と自負する『雷神』は、ラスト…

末摘花はソグド人の血を引いていた?八條忠基『「勘違い」だらけの日本文化史』

「勘違い」だらけの日本文化史 作者:八條忠基 淡交社 Amazon 源氏物語のヒロインのなかでも末摘花が不器量だったことはよく知られている。末摘花のモデルは醍醐天皇の四子・重明親王の子源邦正だと考えられているが、この人物の容姿は末摘花に酷似している。…

【感想】修道女フィデルマシリーズ長編第一作『死をもちて赦されん』

死をもちて赦されん (創元推理文庫) 作者:ピーター・トレメイン 東京創元社 Amazon 若くて美貌、学識豊かで弁護士資格を持ち頭脳明晰……と超ハイスペックな修道女フィデルマが難事件を解決するフィデルマシリーズの第一作。本作『死をもちて赦されん』ではイ…

戦国日本における「水軍」と「海賊」はどう違うのか?小川雄『水軍と海賊の戦国史』

水軍と海賊の戦国史 (中世から近世へ) 作者:雄, 小川 発売日: 2020/04/27 メディア: 単行本(ソフトカバー) 戦国時代の「海賊」としては瀬戸内海の来島村上氏や能島村上氏がよく知られている。ところで「海賊」とはなんだろうか。本書『水軍と海賊の戦国史…

落ちこんだときはどんな本を読めばいい?寺田真理子『心と体がラクになる読書セラピー』

心と体がラクになる読書セラピー 作者:寺田 真理子 発売日: 2021/04/23 メディア: 単行本(ソフトカバー) 古代ギリシャのテーバイの図書館のドアには「魂の癒しの場所」と書かれていたという。読書にセラピー効果があることは、古代人もよく理解していた。…

「日出処の天子」は倭と隋が対等という意味ではない?河上麻由子『古代日中関係史 倭の五王から遣唐使以降まで』

古代日中関係史-倭の五王から遣唐使以降まで (中公新書 2533) 作者:河上 麻由子 発売日: 2019/03/16 メディア: 新書 「日出づる処の天子より、日没する処の天子に書を致す」──これは、聖徳太子が隋の煬帝に送ったとされる書状の文言としてあまりに有名だ。だ…

【感想】「うつヌケも運のうち」なのか?田中圭一『うつヌケ うつトンネルを抜けた人たち』

うつヌケ うつトンネルを抜けた人たち 【電子書籍限定 フルカラーバージョン】 (角川書店単行本) 作者:田中 圭一 発売日: 2017/01/19 メディア: Kindle版 サンデルの新刊『実力も運のうち 能力主義は正義か?』が話題だ。一見実力で勝ちとったようにみえる社…

【感想】火坂雅志・伊東潤『北条五代(上)(下)』

北条五代 上 作者:火坂 雅志,伊東 潤 発売日: 2020/12/07 メディア: Kindle版 火坂雅志が執筆中に急逝したため未完になっていた作品を伊東潤が引き継ぎ完成させた『北条五代』を読んだ。後北条氏五代の興亡を描くこの作品で、火坂雅志は三代目当主・北条氏康…

【感想】謎解き×怪異×人情全部入りの宮部みゆきよくばりセット『きたきた捕物帳』

きたきた捕物帖 作者:宮部みゆき 発売日: 2020/05/29 メディア: 単行本 宮部みゆきの時代ものには怪異要素のあるものとないものがある。怪異入りなのは『三島屋変調百物語』『荒神』『あかんべえ』などで、これらの作品は捕物ではない。いっぽう怪異なしの作…

【書評】殷の女性兵士から兵馬俑の髪型の秘密まで、古代中国史の最新知見を得られる『戦争の中国古代史』

戦争の中国古代史 (講談社現代新書) 作者:佐藤信弥 発売日: 2021/03/17 メディア: Kindle版 古代中国史の入門書として文句なしにおすすめできる本が出た。本書『戦争の中国古代史』はタイトル通り軍事についての記述が多いものの、殷~前漢の政治史を要領よ…

【感想】菊池英明『太平天国 皇帝なき中国の挫折』

太平天国――皇帝なき中国の挫折 (岩波新書 新赤版 1862) 作者:菊池 秀明 発売日: 2020/12/19 メディア: 新書 なぜ太平天国軍は清朝にかわり、中国の支配者になれなかったのか。そう問いを立てつつこの本を読みはじめた。読み進めると、太平天国側の体制にはあ…

【感想】筒井忠清編『昭和史講義 戦後編(上)』はシベリア抑留の入門書として使える

昭和史講義【戦後篇】(上) (ちくま新書) 発売日: 2020/08/07 メディア: 新書 全20講の構成で昭和史の様々なトピックを取りあげているが、この本の内容ではとくにシベリア抑留について興味を引かれた。第3講「シベリア抑留」は22ページ程度の内容だが、この講…

【感想】田中優子・松岡正剛『江戸問答』

江戸問答 (岩波新書 新赤版 1863) 作者:田中 優子,松岡 正剛 発売日: 2021/01/22 メディア: 新書 2章の浮世問答の「学問のオタク化と多様化」がおもしろい。明治維新は江戸時代の「学び」から出ているが、江戸時代の学びとは「実」と「遊」の間にあるものだ…

【感想】今村翔吾『くらまし屋稼業』

くらまし屋稼業 (時代小説文庫) 作者:今村翔吾 発売日: 2020/05/15 メディア: Kindle版 松永久秀を主人公とする『じんかん』で話題になった今村翔吾の人気シリーズの第一作。希望する者を江戸の外に逃がす「くらまし屋」を裏家業とする堤平九郎が主人公。『…

【書評】古代蝦夷の入門書として最適の本:工藤雅樹『蝦夷の古代史』

蝦夷の古代史 (読みなおす日本史) 作者:雅樹, 工藤 発売日: 2019/05/17 メディア: 単行本 古代日本を語るうえで、蝦夷の存在は欠かせない。奈良時代から平安時代初期にかけて、律令国家はかなりの力を傾けて「征夷」をおこなった。蝦夷はそれだけ日本にとっ…