明晰夢工房

読んだ本の備忘録や日頃思ったこと、感じたことなどなど

読書

【書評】山本太郎『感染症と文明 共生への道』

感染症と文明――共生への道 (岩波新書) 作者:山本 太郎 発売日: 2011/06/22 メディア: 新書 文明化とは感染症との共存だ、ということがこの本の一章『文明は感染症の「ゆりかご」だった』を読むとわかる。文明化以前の人類は小規模な集団で狩猟生活を行い、移…

『新もういちど読む山川世界史』はコラムの人物伝が面白い

新 もういちど読む 山川世界史 発売日: 2017/08/01 メディア: 単行本(ソフトカバー) 世界史本なら山川出版社は安心のブランドだ。なにしろ教科書をつくっているのだから、この手の「大人の学び直し」的なものの内容も無難で偏りがなく、間違いのないものに…

【書評】岩波新書シリーズ中国の歴史3『草原の制覇 大モンゴルまで』

草原の制覇: 大モンゴルまで (岩波新書) 作者:崇志, 古松 発売日: 2020/03/21 メディア: 新書 王朝別の歴史記述を乗りこえるため、中国史を地域ごとに分けてマクロな視点からみていくシリーズの三冊目となる本。本書では鮮卑が華北を征服した南北朝時代から…

【感想】ケン・リュウ選『現代中国SFアンソロジー 月の光』

月の光 現代中国SFアンソロジー (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ) 作者:劉 慈欣 発売日: 2020/03/18 メディア: ハードカバー 一言で中国SFといっても多様だ。とはいえ、中国ならではのSF作品というものもやはり存在する。当人もすぐれたSF作家であるケン・リュウ…

日本史リブレット『蝦夷の地と古代国家』に見る蝦夷アイヌ説と蝦夷非アイヌ説

蝦夷の地と古代国家 (日本史リブレット) 作者:熊谷 公男 発売日: 2004/04/01 メディア: 単行本 古代蝦夷とは何者かを考えるとき、蝦夷はアイヌなのかそうでないのか、が古くから考察の的となってきた。だが、この問いははっきり二者択一で答えを出せるもので…

大学生の「読書離れ」はいつ始まったのか?津野海太郎『読書と日本人』

www.asahi.com 1日の読書時間がゼロという大学生が、2017年にはじめて5割を超えたという。今の大学生は経済的にあまり余裕がなく、アルバイトに忙しいからだといわれることもあるが、とにかく大学生の読書時間は減る傾向にあるようだ。齋藤孝氏などはよくこ…

『岩波講座世界歴史12 遭遇と発見』に見るギリシア人のスキタイ観の変化

岩波講座 世界歴史〈12〉遭遇と発見―異文化への視野 作者:樺山 紘一 発売日: 1999/02/25 メディア: 単行本 この巻では『古代ギリシア人のスキュタイ観』が特におもしろい。遊牧騎馬民族は野蛮で農耕民族は文明的、というステロタイプはすでに克服されつつあ…

【書評】一坂太郎『吉田松陰とその家族 兄を信じた妹たち』

吉田松陰とその家族-兄を信じた妹たち (中公新書) 作者:一坂 太郎 発売日: 2014/10/24 メディア: 新書 大河ドラマ『花燃ゆ』の前半は、ほぼ伊勢谷友介演じる吉田松陰の魅力でもっていた。主人公の兄である松陰が処刑され、夫の久坂玄瑞もまた刑死したため、…

【書評】オスマン帝国600年の歴史が新書一冊でわかる『オスマン帝国 繁栄と衰亡の600年史』

オスマン帝国-繁栄と衰亡の600年史 (中公新書) 作者:小笠原 弘幸 発売日: 2018/12/19 メディア: 新書 大変読みごたえのある一冊だった。オスマン帝国600年の歴史の概略を、この一冊で知ることができる。この本ではオスマン帝国歴代スルタン全員の事績を追い…

【感想】『ビジュアルパンデミック・マップ 伝染病の起源・拡大・根絶の歴史』

ビジュアル パンデミック・マップ 伝染病の起源・拡大・根絶の歴史 作者:サンドラ・ヘンペル 発売日: 2020/02/14 メディア: 単行本 ジフテリアや天然痘・コレラ・マラリア・ペスト・梅毒など、人間を苦しめてきた数々の伝染病の歴史を図解で解説している本。…

【感想】中村光博『「駅の子」の闘い 戦争孤児たちの埋もれてきた戦後史』

「駅の子」の闘い 戦争孤児たちの埋もれてきた戦後史 (幻冬舎新書) 作者:中村 光博 発売日: 2020/01/30 メディア: 新書 2010年、「伊達直人」を名乗る人物から児童福祉施設に寄付が行われる「タイガーマスク現象」が起きた。「伊達直人」からプレゼントが届…

【書評】岩波新書シリーズ中国の歴史2『江南の発展 南宋まで』

江南の発展: 南宋まで (岩波新書) 作者:充拓, 丸橋 発売日: 2020/01/23 メディア: 新書 従来のような時代別ではなく、地域史にも着目した新たな中国史概説をめざす岩波新書シリーズ中国の歴史の二冊目が出た。本書では古代の長江流域の文化から筆を起こし、…

【感想】戊辰戦争で百姓がどう戦ったかよくわかる『百姓たちの幕末維新』

文庫 百姓たちの幕末維新 (草思社文庫) 作者:尚志, 渡辺 発売日: 2017/04/04 メディア: 文庫 日本人の8割をしめた百姓たちは、幕末維新をどう戦い、生き抜いたのか。本書『百姓たちの幕末維新』を読めば、激動の時代を百姓たちがどうサバイバルしたかがよく…

【書評】出口治明『人類5000年史Ⅲ』

人類5000年史 III (ちくま新書) 作者:治明, 出口 発売日: 2020/03/06 メディア: 新書 人類5000年史のシリーズもこれで3冊目となった。この巻では東洋史では宋からモンゴル帝国のユーラシア制覇、そして明王朝までが語られ、西洋史は中世ヨーロッパ世界の成立…

カーネギー『人を動かす』が語るリンカーンの煽りスキルの凄さ

人を動かす 文庫版 作者:D・カーネギー 発売日: 2016/01/26 メディア: 単行本 若き日のリンカーンは煽りの達人だった D・カーネギー『人を動かす』はタイトル通り、人を説得するノウハウの書かれた実用書だ。だがこの本は読み物としてもなかなかおもしろい。…

【感想】高橋源一郎『一億三千万人のための「論語」教室』の訳が自由過ぎる件

一億三千万人のための『論語』教室 (河出新書) 作者:高橋源一郎 出版社/メーカー: 河出書房新社 発売日: 2019/10/26 メディア: 単行本 高橋源一郎さんによる『論語』の全訳なんですが、この訳はまぁ、なんというか……かなりぶっ飛んでますね。高橋さんはこれ…

ジャンル分け不能の怪作『絶対小説(講談社リデビュー賞受賞作)』が小説愛にあふれすぎていて最高だったので感想を書く

絶対小説 (講談社タイガ) 作者:芹沢 政信 出版社/メーカー: 講談社 発売日: 2020/01/22 メディア: 文庫 この小説を何と呼べばいいのだろう。 河童のような人間が出てくるから伝奇か。 いや、謎の肉食植物や四脚駆動のメカが登場するからSFか。 作品全体に漂…

【書評】岩波新書シリーズ中国の歴史1『中華の成立 唐代まで』

中華の成立: 唐代まで (岩波新書) 作者:渡辺 信一郎 出版社/メーカー: 岩波書店 発売日: 2019/11/21 メディア: 新書 これは概説書としてみればかなり硬い部類になる。初学者がいきなり読めるものではない。物語性を求める読者にはまったく向いていないが、学…

士農工商も赤穂浪士も教科書から消えていく『ここまで変わった日本史教科書』

ここまで変わった日本史教科書 作者:高橋 秀樹,三谷 芳幸,村瀬 信一 出版社/メーカー: 吉川弘文館 発売日: 2016/08/25 メディア: 単行本 これを読んでいると、かつて学んだ「日本史」の内容も少しづつ変わってきていることがわかる。今は「鎖国」という言葉…

【感想】情熱だけでは勝てなくなったときどの見つけた勝利法『世界一のプロゲーマーがやっている 努力2.0 』

世界一のプロゲーマーがやっている 努力2.0 作者:ときど 出版社/メーカー: ダイヤモンド社 発売日: 2019/12/05 メディア: 単行本(ソフトカバー) 東大卒プロゲーマー・ときどの勝利法は、もともとは東大入試攻略法と似たようなものだった。格闘ゲームの新タ…

奴隷狩り・人身売買・略奪……戦国時代の「民衆のリアル」を活写する『雑兵たちの戦場』

【新版】 雑兵たちの戦場 中世の傭兵と奴隷狩り (朝日選書(777)) 作者:藤木 久志 出版社/メーカー: 朝日新聞社 発売日: 2005/06/10 メディア: 単行本 ルイス・フロイスは『ヨーロッパ文化と日本文化』において「われらにおいては、土地や都市や村落、および…

伊東潤『敗者烈伝』における明智光秀の評価

敗者烈伝 (実業之日本社文庫) 作者:伊東 潤 出版社/メーカー: 実業之日本社 発売日: 2019/10/04 メディア: 文庫 「汁二杯」のエピソードのせいでどうしても良いイメージを持たれない北条氏政だが、この本においては意外と評価が高い。上杉謙信との間に結ばれ…

【感想】鴻上尚史『「空気」を読んでも従わない』と小声で歌う"This is me"

「空気」を読んでも従わない: 生き苦しさからラクになる (岩波ジュニア新書) 作者:鴻上 尚史 出版社/メーカー: 岩波書店 発売日: 2019/04/20 メディア: 新書 先日、ユーチューブで『グレイテスト・ショーマン』の劇中歌"This is me"の動画を観ていた。なんど…

【感想】テッド・チャン『息吹』をSFに苦手意識のある私が読んでみた結果

息吹 作者:テッド・チャン 出版社/メーカー: 早川書房 発売日: 2019/12/04 メディア: 単行本 テッド・チャン『息吹』は発売直後から絶賛されているが、私みたいにSFが得意とはいえない読者にもちゃんと読めるのだろうか?と気になっていた。海外SFを読んでい…

【感想】十二国記『白銀の墟 玄の月』3~4巻と「正史の隙間」の物語

白銀の墟 玄の月 第三巻 十二国記 (新潮文庫) 作者:小野 不由美 出版社/メーカー: 新潮社 発売日: 2019/11/09 メディア: 文庫 『白銀の墟 玄の月』1~2巻は、戴国がどれだけ悲惨かを書くことにほぼ費やされた。この2巻は、読者の忍耐力が試される巻だった。…

山川出版社 歴史の転換期1『B.C.220 帝国と世界史の誕生』に見るローマ帝国のブリテン島支配の実態

B.C.220年 帝国と世界史の誕生 (歴史の転換期) 作者:藤井 崇,宮嵜 麻子,宮宅 潔 出版社/メーカー: 山川出版社 発売日: 2018/04/28 メディア: 単行本 2018年以降、山川出版社から順次刊行されている歴史の転換期シリーズの1巻。最初の巻となる『B.C.220 帝国…

【感想】本郷和人『乱と変の日本史』

乱と変の日本史 (祥伝社新書) 作者:本郷 和人 出版社/メーカー: 祥伝社 発売日: 2019/03/01 メディア: 新書 平将門から島原の乱にいたるまで多くの「乱」と「変」を扱った内容になっているが、序の「乱と変から何がわかるか」を読むと、意外なことに「乱」と…

【感想】テンプル騎士団を知りたいならまずはこの本。佐藤賢一『テンプル騎士団』

テンプル騎士団 (集英社新書) 作者:佐藤 賢一 出版社/メーカー: 集英社 発売日: 2018/07/13 メディア: 新書 アサシンクリードでは悪役側で、とかく怪しげなイメージを持たれがちなテンプル騎士団だが、その実態はどんなものだったか?それを知りたいなら、ま…

【感想】金成隆一『ルポトランプ王国2 ラストベルト再訪』と南部白人の「ディープ・ストーリー」

ルポ トランプ王国2: ラストベルト再訪 (岩波新書) 作者:金成 隆一 出版社/メーカー: 岩波書店 発売日: 2019/09/21 メディア: 新書 前作に引き続き、大変読みごたえのあるルポだった。著者はラストベルトと郊外、バイブルベルトの3カ所を訪ね歩き多くのトラ…

【感想】吉川弘文館東北の中世史5『東北近世の胎動』

東北近世の胎動 (東北の中世史) 作者: 出版社/メーカー: 吉川弘文館 発売日: 2016/02/19 メディア: 単行本 吉川弘文館から刊行されている『東北の中世史』の最終巻だが、これは東北の城郭や伊達氏の統治に関心のある方にはぜひ読んでもらいたい。というのも…