明晰夢工房

読んだ本の備忘録や日頃思ったこと、感じたことなどなど

ツッコミ過多の社会では「なんもしない」人の価値が高まる『レンタルなんもしない人の"もっと"なんもしなかった話』

レンタルなんもしない人の“もっと”なんもしなかった話 作者:レンタルなんもしない人 晶文社 Amazon マキタスポーツ氏が『一億総ツッコミ社会』で、誰もがプチ評論家と化した世の中の息苦しさを分析したのは2012年のことだ。あれから11年が経ち、令和の日本で…

【書評】まるで見てきたように古代アテネの一日を再現する一冊『古代ギリシア人の24時間 よみがえる栄光のアテネ』

古代ギリシア人の24時間: よみがえる栄光のアテネ 作者:フィリップ・マティザック 河出書房新社 Amazon 歴史本のジャンルではここ最近、生活史を扱った本が増えてきた。この『古代ギリシア人の24時間 よみがえる栄光のアテネ』古代ギリシア人の生活に光を当…

行動ダイアリーをつけてみたら読書量がかなり増え、日々の充実感もアップした

最近、余暇の時間に何をしても充実感を感じられない日々が続いていた。状況を打開するため、「行動ダイアリー」をつけ始めた。行動ダイアリーとは認知行動療法の創始者アーロン・ベックの考案したもので、実践方法は簡単。日々の行動について、1時間ごとに「…

有名人には有名税があり、無名な人には無名控除がある

はてなブックマークの話題が一部で盛んになっている。私もこの話題に一枚嚙もうかと思ったが、よくよく考えると自分にはあまり関係ないことに気づいた。何人かのブロガーはこの件でブックマーカーを批判しているが、それは彼らが有名で、ブックマーカーに叩…

ソード・ワールド短編集がKindle Unlimitedで読み放題対象なので『レプラコーンの涙』を読んだ

ソード・ワールド短編集 レプラコーンの涙 (富士見ファンタジア文庫) 作者:水野 良 KADOKAWA Amazon ファンタジー小説は作品ごとに世界観も設定も違うので、読みはじめるハードルが少し高い。でも慣れ親しんだ世界観ならすぐストーリーに入っていける。それ…

ゲームブックはファミコンを買ってもらえなかった子供たちの心の隙間を埋めてくれた

www.4gamer.net イアン・リヴィングストンとスティーブ・ジャクソン、このゲームブックの両巨頭の名を懐かしく思い出す人は多いだろう。80年代後半、日本にファンタジーというジャンルが根付きつつあった時代、ゲームブックもこの世界への入り口として大きな…

【書評】人を悪行に駆り立てるのは共感だった──ルドガー・ブレグマン『Humankind 希望の歴史(下)』

ランキング参加中読書 Humankind 希望の歴史 下 人類が善き未来をつくるための18章 (文春e-book) 作者:ルトガー・ブレグマン 文藝春秋 Amazon 『Humankind 希望の歴史』上巻においてルドガー・ブレグマンはスタンフォード監獄実験やミルグラムの電気ショック…

天然理心流はなぜ多摩の豪農に伝わったのか?須田努『幕末社会』

幕末社会 (岩波新書 新赤版 1909) 作者:須田 努 岩波書店 Amazon 天然理心流を開いた近藤内蔵助は、江戸の両国薬研堀に道場を構えていた。だがなかなか門人が増えなかったため、多摩の農村で出稽古をはじめ、この地域に土着していた八王子千人同心たちに剣術…

【書評】「ほとんどの人は本質的ににかなり善良だ」と主張する30代歴史学者の著作『Humankind 希望の歴史 上 人類が善き未来をつくるための18章』

Humankind 希望の歴史 上 人類が善き未来をつくるための18章 (文春e-book) 作者:ルトガー・ブレグマン 文藝春秋 Amazon 人間の本質は善か悪か。この問題について、古今の多くの哲学者が議論してきた。西洋思想において性悪説の代表者はホッブズ、性善説の代…

kindle unlimitedにようやく中公新書が登場……でも読めるのはまだ一冊(2023年1月26日現在)

2カ月99円のキャンペーンをやっていたので、今月6日からkindle unlimitedを利用している。このサービスはいろいろな新書が読み放題になるのが強みだが、残念ながら中公新書はまだ読めず…… と思っていたら、先日偶然読み放題対象になっている新書を発見した。…

なぜ水銀を飲むと不老不死になると信じられていたのか

水銀は毒物なのに、なぜか健康にいいなどとSNSで主張する人たちがいるらしい。ほとんどの人は相手にしない主張だが、かつて水銀の服用を推奨する書物『抱朴子』が、中国では広く読まれていた。この書物は道教の重要文献で、水銀を用いた「還丹」が神仙になる…

「人間は機械であり自由意志など存在しない」と主張するマーク・トウェインの問題作『人間とは何か?』を紹介する

漫画 人間とは何か? 作者:マーク・トウェイン,鷹巣☆ヒロキ 文響社 Amazon ランキング参加中読書 これほど身もふたもない本もなかなかない。何しろこの本でくり返されるマーク・トウェインの主張とは「人間とは自己満足のために生きる機械である」というもの…

「天道是か非か」の問いに仏教の論理で答えた僧・慧遠

孔子の弟子で最も素行が立派だった顔回のような人物が早世することもあれば、大盗賊が天寿を全うすることもある。司馬遷は善人や悪人がその行いにふさわしい報いを受けないことを嘆き、「天道是か非か」という有名な問いを発した。このような徳と福の矛盾に…

ミイラ職人や陶工・書記・農夫など古代エジプト人の生活が物語風にわかる本『古代エジプトの日常生活』

古代エジプトの日常生活: 庶民の生活から年中行事、王家の日常をたどる12か月 作者:ドナルド・P・ライアン 原書房 Amazon 原書房からは古代ローマやギリシャ・中世イングランド・古代中国などの日常生活を扱った本が出版されているが、今冬『古代エジプトの…

「信長の軍隊は兵農分離していたから強い」は本当?平井上総『兵農分離はあったのか』

兵農分離はあったのか (中世から近世へ) 作者:平井 上総 平凡社 Amazon 「信長は特別な戦国大名」というイメージはいまだ根強く存在している。「特別さ」の要素のひとつとして、「信長の軍隊は兵農分離が進んでいたから強かった」というものがある。他の戦国…

【書評】信玄を外交戦で追い詰める家康、ついにはキレる信玄……三方ヶ原の戦いの全貌がわかる快著『新説家康と三方ヶ原合戦 生涯唯一の大敗を読み解く』

新説 家康と三方原合戦 生涯唯一の大敗を読み解く (NHK出版新書) 作者:平山 優 NHK出版 Amazon 家康の印象が大いに変わる一冊だった。従来、家康には忍耐強いイメージがある。武田信玄のや秀吉のような強大な勢力に苦しめられる姿を、大河ドラマなどで何…

「番長」の語源は平安時代の下級官人?

平安京の下級官人 (講談社現代新書) 作者:倉本一宏 講談社 Amazon 「番長」なんて言葉を聞かなくなって久しい。というより、現実世界でそんな存在を一度も目にしたことがない。クラスの不良集団は中学校の頃にはいたが、そのリーダー格が番長などと呼ばれて…

チェコとスロヴァキアの歴史を一冊で学べる良書『図説チェコとスロヴァキアの歴史』

図説 チェコとスロヴァキアの歴史 (ふくろうの本/世界の歴史) 作者:薩摩秀登 河出書房新社 Amazon チェコとスロヴァキア、両地域の歴史を通覧できる良書。著者の薩摩秀登氏は中公新書から『物語チェコの歴史』を上梓しているが、こちらでカバーしていないス…

ミャンマー軍はなぜ自国民を撃つのか?中西嘉宏『ミャンマー現代史』

ミャンマー現代史 (岩波新書) 作者:中西 嘉宏 岩波書店 Amazon ミャンマー軍が2021年のクーデターでスーチー政権から権力を奪って以来、大規模な抵抗運動が市民の間で広がった。これに対し、軍は弾圧で臨んだ。『ミャンマー現代史』5章を読むと、クーデター…

確証バイアスが「日本人は集団主義的」という文化ステレオタイプを生んだ──高野陽太郎『日本人論の危険なあやまち ―文化ステレオタイプの誘惑と罠―』

www.u-tokyo.ac.jp 「日本人は集団主義的である」という通説は間違っている、という記事が一部で反響を呼んでいた。この記事の参考文献としてあげられている高野陽太郎氏の『「集団主義」という錯覚 ― 日本人論の思い違いとその由来』は、2008年に刊行されて…

飢饉・間引き・百姓一揆……木枯し紋次郎は江戸天保期の社会矛盾に翻弄された男だった

木枯し紋次郎(一)~赦免花は散った~ (光文社文庫) 作者:笹沢 左保 光文社 Amazon 「あっしには関わりのねぇこって」──『木枯し紋次郎』をリアルタイムで視聴していない私でも、この台詞くらいは知っている。原作小説を読んでみたところ、この有名な台詞は…

ネット炎上の激化は社会比較説・沈黙の螺旋・集団的浅慮などが原因

眠れなくなるほど面白い 図解 社会心理学 日本文芸社 Amazon kndle unlimitedで『眠れなくなるほど面白い図解社会心理学』を読んでいたら、ネット炎上が激化する原因を解説している箇所があった。この本の28ページでは、ネット炎上が加速する原因として「社…

ウクライナに直接千羽鶴を送った人はいなかったらしい(ロザンの部屋の感想)

www.youtube.com ロザンの二人が「ウクライナに折り鶴」の件について語っているのをきのう知った。この動画で宇治原史規が語っているところによると、戦地のウクライナに直接折り鶴を送ろうとした人は確認できなかったそうだ。「ウクライナに折り鶴」議論の…

性善説と性悪説、どっちで生きるのが得?下園公太『寛容力のコツ──ささいなことで怒らない、ちょっとしたことで傷つかない』

寛容力のコツ―――ささいなことで怒らない、ちょっとしたことで傷つかない (知的生きかた文庫) 作者:下園 壮太 三笠書房 Amazon 萱野稔人『名著ではじめる哲学入門』によると、20世紀以降の哲学では性善説的な考えが優勢になっているそうだ。ヒューマニズムが…

「表現の自由」などとっくになくなっていた令和日本

みんなのユニバーサル文章術 今すぐ役に立つ「最強」の日本語ライティングの世界 (星海社 e-SHINSHO) 作者:安田峰俊 講談社 Amazon 安田峰俊氏の『みんなのユニバーサル文章術 今すぐ役に立つ「最強」の日本語ライティングの世界』を読んだ。1記事2000万PVを…

幸せになる方法は科学的に解明されつつある──『「幸せ」について知っておきたい5つのこと NHK「幸福学」白熱教室』

「幸せ」について知っておきたい5つのこと NHK「幸福学」白熱教室 (中経出版) 作者:NHK「幸福学」白熱教室制作班,エリザベス・ダン,ロバート・ビスワス=ディーナー KADOKAWA Amazon 幸せとは何か。どうすれば幸せになれるのか。これは古来、宗教や哲…

kindle unlimitedが2ヶ月99円キャンペーン開催中なので古典を読みたい人におすすめしてみる

プライム会員限定なのかよくわかりませんが、kindle unlimitedが2ヶ月99円のキャンペーンを開催中です。 前回(2020年年末ごろ)のキャンペーンは2ヶ月299円だったので、これにくらべてもかなりお得です。 このサービスは、古典がたくさん読みたい人には間違…

【感想】逢坂冬馬『同志少女よ、敵を撃て』

同志少女よ、敵を撃て 作者:逢坂 冬馬 早川書房 Amazon 本作の帯には桐野夏生の「これは武勇伝ではない。狙撃兵となった少女が何かを喪い、なにかを得る物語である」という一文が書かれている。「喪い」が先に来ているのは、この物語が大きな喪失で幕を開け…

鬼はいつから退治できる存在になったのか──香川雅信『図説日本妖怪史』

図説 日本妖怪史 (ふくろうの本/日本の文化) 作者:香川雅信 河出書房新社 Amazon 平安時代、鬼は妖怪として最も恐れられる存在になっている。その証拠に、『今昔物語集』には数多くの鬼にまつわるエピソードが収録されている。だが『図説日本妖怪史』によれ…

【書評】ウクライナ史を新書一冊で概観できる良書『物語ウクライナの歴史』

物語 ウクライナの歴史 ヨーロッパ最後の大国 (中公新書) 作者:黒川祐次 中央公論新社 Amazon この本のまえがきでは、「ウクライナ史最大のテーマは国がなかったこと」というウクライナ史家の言葉を紹介している。多くの国家においては歴史最大のテーマが民…