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明晰夢工房

主に自分語りです。

創作で得た幸福と不幸

冷静に考えると、いま創作をやっていて、果たして以前より幸福になっているのか?と問われると難しい。幸不幸の総量を比べてみると以前とあまり変わらないが、以前は味わえなかった種類の幸福と不幸が増えてきた、という感覚がある。総合すると、どうにか幸福の方が優っているし、だからこそ続けていられるという感じだ。

 

創作で増えた幸福

増えた幸福とは、人から作品を褒めてもらえることもある、ということである。どれだけ多くの小説を読み、気の利いた書評を書くことができたとしても(そんなものは書けた試しがないが)、やはり評価の場に自分を晒すことで得られるタイプの幸せがある。コンテンツを生み出す側の苦労も少しは知ることができたし、苦労して完成させた作品が人に褒めてもらえるのは何者にも勝る喜びだ。

試行錯誤しながら色々と書いているうちに、ある創作グループに誘われそこに加わることになった。新しい繋がりも増えたし、そこで人の作品から刺激を受けることもある。自分なりに動いていると、物事は思いもよらない方向に転がっていくこともある。小説の登場人物が自分が考えもしないようなことを勝手に喋り始めたりするように。これらは観客席で人の作品を眺めていただけでは決して得られなかった体験だ。

創作で増えた不幸

一方、不幸も増えた。これは、自分を上回る才能の持ち主がいくらでもいる、という現実が見えてきたということである。当たり前のことなのだが、創作の世界は本当に上を見ればきりがない。人と比較する必要はない、自分は自分なのだと言い聞かせるのも簡単ではない。多くの小説投稿サイトはランキングが搭載されていて、嫌でも自作の位置づけを意識させられるようになっているからだ。ランキングの順位=作品の価値では必ずしもないが、やはり上位に出られるならその方がいいに決まっている。

 

実を言うと一時期だけ、自作がカクヨムの歴史・時代ランキングの2位まで上がったことがある。その頃の状況を考えるとそもそも投稿者の少なかったこともありあまり威張れる結果でもないのだが、自分の中の何かが大きく満たされたことは事実だった。そのような満足感を知っているからこそ、人は簡単に競争に勝ち抜く麻薬のような快感からは逃れられない。

 

小説投稿サイトは以前よりも増えているし、素人の小説が読んでもらえる機会は確実に増えている。しかし発表の場が広がったからこそ、かえって不幸になる人も多いのかもしれない。見てもらえる機会が多いということは、つまり自作が読んでもらえないことを環境のせいにはできないということだ。才能があっても埋もれているとか、周囲がこの作品の良さを見出していないだけ、という言い訳が成り立ちにくい世界に我々は住んでいる。ゴッホは生前に絵を一枚しか売れなかったが、ゴッホの時代にネットがあったらどうだろうか。おそらく誰かが彼の才能を見出し、評判になっていただろう。誰でも見てもらえる可能性のある世界で見てもらえないというのは、なかなかにしんどい。この世界は実に容赦なく、己が矮小な存在であるという事実を突きつけてくる。

それでも創作を始めて良かった理由

 小説を書く前は、常に自分が何かから逃げているような後ろめたさが心の片隅にあった。観客席から人の作品についてあれこれ言っている分には楽だし、自作がケチをつけられる心配もないのだけれど、やはりそれではいけない気がする。それまで結構斜に構えていたというか、泥臭く何かを頑張ることをあまり良しとしてこなかったところもあるので、自分が何かを生み出す側に回るのには結構な葛藤もあった。しかしとにかく書き始めたことでどこか胸のつかえが取れたような感覚があった。押さえつけていた創作意欲に形を与えることができたからだと思う。いまだ発展途上ではあるが、人の企画に参加したりアドバイスをもらっているうちに、少しづつ書きたいものを形にできるようにもなってきた。

誰もが最初から良い作品を書けるわけがないのだから、創作を始めるには結局恥やプライドを捨てなければならない。年をとれば取るほどこれが難しくなってくる。今始められたのはぎりぎりのタイミングだったかもしれない。これ以上遅くなると、自分よりも年下の人間がどんどん優れた作品を生み出していることを見るのに耐えられなかったかもしれない。

時には観客席に戻ってもいい

今はまだそういうことはないが、 この先創作が苦しくなってやめたくなることがあるかもしれない。今まで人が創作をやめようとしているのを見たときに思ったことは、やめるかやめないかをはっきり決める必要はないのではないか、ということだった。時間が経てばまた創作意欲が復活するかもしれないし、以前やめると宣言しているとそうなった時に何かとやりにくい。だからやめたくなったらしばらく舞台を降りてじっとしていればいいのではないかと思う。自分の都合でそうすることができるのが素人の創作の強みだ。