明晰夢工房

主に自分語りです。

2017大河「おんな城主直虎」に感じるいくつかの懸念

スポンサードリンク

 

 

 

女城主・井伊直虎 (PHP文庫)

女城主・井伊直虎 (PHP文庫)

 

 

まだ気が早い感じではありますが、来年の大河ドラマ『おんな城主直虎』の予習のためにこのような本を買ってきました。現在井伊直虎に関する伝記はこれくらいしか出版されていません。小説に関しては高殿円先生の『剣と紅』などがありますがこちらは未読です。

www.nhk.or.jp

すでに発表のあったとおり、このドラマは井伊家を継いだ女城主であり井伊直政の養母である井伊直虎が主人公となります。上記のURLのブックマークでは「この内容で1年間持つのか」という指摘がありましたが、この本を読んでいる限り、確かにこの人が主人公で盛り上げられるのだろうか、という懸念が出てくるのが正直なところです。本の内容はタイトル通り井伊直虎に関する伝記ですが、直虎に関してわかっていることが少ないため80ページまでが直虎に至る井伊家の歴史で埋められており、257ページ以降は井伊直政の活躍と史跡ガイドとなっています。実質上直虎に関する記述は本の3分の1くらいしかありません。しかも、直虎について書いてある章でも直虎の許嫁である井伊直親やライバルとなる家老の小野道好などについての記述が多く、直虎については心中を想像して書いている部分も少なくありません。著者が苦心してなんとか記述を膨らまそうとしている様子が伝わってきます。それだけ史料が少なく直虎自身について書けることが限られているのでしょう。

 

実のところこの本を読んでいて、井伊直虎について書いている部分が一番盛り上がらない感じで、読んでいて少々退屈でした。もちろん井伊家の苦しい時代を城主として生き抜き井伊直政へとバトンを渡した存在として直虎の存在は重要なのですが、では具体的に何をしたのか?というと、今川家の押し付けてくる徳政令に抵抗した、ということくらいしか書かれていません。この内容で本当に一年間持つのか、という懸念は確かに出てきても仕方がないと思います。史料に書かれていない部分を空想でどう埋めていくのか、というのが脚本家の手腕ではありますが。

 

 個人的に、本書を読んでいて感じた『おんな城主直虎』に関しての心配な点は3つあります。それを以下にまとめていきます。

1.スケールの小さい話になりそう

これがまず一番です。直虎の人生はほぼ遠江の井伊谷城の中で展開され、ここからほぼ出ることはありません。井伊谷は今川氏真に圧迫され、後に徳川家康の手に渡り山県昌景の侵攻を受けるなど大変な目に遭ってはいるのですが、終始ローカルな話で終わってしまいそうです。『独眼竜政宗』や『天地人』もローカルなヒーローの話でしたが、ドラマ後半では豊臣政権に組み込まれたり関が原の戦いに絡んで地方でも戦乱が起きるなど全国レベルの話に発展し、次第に話のスケールが広がっていく楽しみがありました。これは今年の真田丸にしても同じことです。多くの人が大河ドラマに求めているのはスケール感だと思いますが、これが来年の大河で味わえるのか?という点に不安があります。

 

2.有名人物が少ない

 これが第2点です。直虎は戦国無双に登場しているのである意味有名ではありますが、直虎に関わる人物が無名な人物が多い点も気になります。無名でも知られていないだけで実は凄い人物だった、というのなら楽しみもあるのですが、直虎の父や許嫁である直親、曽祖父である直平にしても特にこれといった活躍があるわけでもなく、ライバルとなる家老の小野政直にしてもそれほど敵役としての魅力があるようには見えません。この人たちをどう魅力的に描くかは脚本家の手腕次第でしょうが、史実の面白さに頼ることができないだけになかなか難しいように思います。井伊家に関わる人物としては徳川家康山県昌景などが出てくるでしょうが、どれくらいストーリーに関わるかはわかりません。この時代の井伊家で一番活躍したのは養子の直政ですが、直虎は直政が本格的に活躍する前に亡くなってしまいます。

 

3.主要人物がどんどん退場していく

これが3点目です。そもそも井伊直虎が女性の身でありながら城主の座に就いたのは、井伊家の人物が次々と亡くなってしまったためです。直虎の父・直盛は桶狭間の戦いで戦死し、許嫁の井伊直親も今川家に謀殺されてしまいます。花燃ゆが吉田松陰久坂玄瑞高杉晋作などの主役級人物の退場で盛り下がっていったことを思い出します。しかも本作での直盛や直親は高杉や久坂ほどの有名人物でもないため、上手く描かなければその死すらも印象の薄いものとなってしまうかもしれません。

 真田丸と比べられてしまう可能性

今のところ真田丸はかなり快調だと思いますし、周囲での評価も高いです。きっとラストの大坂の陣に至るまでしっかり盛り上げてくれるでしょう。その翌年がまた同じ戦国時代を舞台とした作品となるだけに、かなり視聴者のハードルが上げられてしまった状態から始まると思います。直虎の人生を考えると真田丸を上回るスケール感は期待できなさそうなので、ホームドラマ的な部分の充実など他の部分で魅力を打ち出せないと厳しそうな気がします。

大河の主人公は隔年で女性にしなければいけないのか

篤姫の成功体験が忘れられないのかもしれませんが、そもそも大河ドラマの主人公は隔年で女性にしなければいけないのか?という疑問もあります。良い悪いは別として前近代は「男性中心」の時代だったことは確かで、そこで女性を活躍させようとするとよほど傑出した人物でもないとドラマ作りに無理が出てくるように思います。女性を活躍させるならもっと時代を下げて近代以降の人物を主人公にしたり、あるいは思い切って歴史物という縛りを取り払うことも必要なのかもしれません。そもそも大河ドラマは男性主人公でもだんだんネタが無くなってきています。大河ドラマという枠自体の必要性も含めて大胆な見直しが必要な時期に差し掛かっているように思います。

これは方針転換?

ここまでいろいろ書いてきましたが、これはNHKのある種の方針転換なのかもしれません。というのは、歴史を動かしたような英雄を主人公に据えると、だんだんネタが尽きてくるからです。信長や秀吉はドラマの題材としては手垢がつきすぎているし、真田一族は戦国時代を彩る「英雄」としてはもう扱える最後のネタという感じもあります。もうそういった人物を主人公にするのはやめて、歴史の奔流の中で懸命にあがく(比較的)無名な人々の奮闘を描くことにしたのではないか、という気もします。その方向性でならまだまだやれることは多そうですが、いずれにせよ大河ドラマに仕立てるには不安が残ることも確かです。上に並べたような懸念が杞憂に終わるような作品となることを期待しています。