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今回は前作とは打って変わって賢木晃也の「幽霊」の立場から物語は紡がれる。
正直に言って、この内容は肩透かしだった。
Anotherの続編だと思っていたのだが、これはスピンオフと言ったほうが正確だ。
見崎メイは出てくるが、この物語は夜見市の「外」の物語だからだ。
なので、作中では夜見中学3年3組の「死のシステム」については何も語られない。
Another世界での謎は謎としてそのまま残されたままだ。
この作品でその点について語られるのかと思っていたが、そこは何もわからないまま物語は進む。
というより、この話自体は夜見市の外で展開されているため、夜見中学3年3組の「死のシステム」とはリンクしつつも、作中で展開される「謎」自体はそれとはあまり関係のないものとなっている。
事の真相には結構驚いた。
だが、京極堂の言葉を借りれば、「不思議な事は何もない」。
この物語における謎には、超常現象的なものは一切絡んでこない。
この作品単体として見るならば、それなりに面白いミステリとして成立しているのではないかと思う。
しかし、Another本編にあったような、理不尽に人が次々と死んでいく緊張感やスリルをこの作品に求めるとそれは外れる。
死者は一人しか存在しないからだ。
登場人物も、メイを除いてあまり魅力的とは思えない。
Anotherの千疋のようなキャラクターが存在しないのだ。
ただ、Another本編にはないが、この作品にある味もある。
それはある種の哀愁だ。
夜見市の「死」が外にまで漏れ出しているのは、「死」がある意味伝染する性質を持っているからだ。
アイドルが自殺すると後追い自殺する者が出るように、夜見市の惨劇もまた、外部の人間までも死の縁に引きずり込んでしまう。
こんな風にしてまでも、時に人は人と繋がりたいと思ってしまうことがある。
ここにあるのは恐怖ではない。どこまでも人間的な哀しみだ。
Another本編ではすでに夜見中学周辺での連続死が止まっているため、続編を書いたとしてもあの緊張感をもう出すことはできないから、Anotherの世界を書くならこうした「外伝」の形として書くしかなかったのではないかと思う。
もう一度あの惨劇を描くなら、何年か経った後の世界にするか、あるいは夜見市とは別の土地で同じようなことが起きるようにするか。
そのへんはわからないが、あとがきを見る限り、これが発売された2013年の時点では綾辻行人氏にはさらなる続編を書く気があったようだ。
Anotherの初出版が2009年で、AnotherエピソードSの出版が2013年。
さらなる続編があるとしたら、発売は今年辺りなのだろうか?
それがもし書かれるなら、今度は夜見中学3年3組を取り巻く死の真相に迫る内容を望みたい。