明晰夢工房

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英雄たちの選択 坂上田村麻呂についてのメモ

もう3回位放映されているが、興味深い内容だったのでメモ。


田村麻呂の選択は降伏してきたアテルイの命を助けるかどうかという点。
なぜ阿弖流為が命乞いなどをしてきたのか?という考察が面白かった。
里中美智子説はアテルイは本来死ぬ気だったが、田村麻呂が生きるようアテルイに持ちかけたというもの。
アテルイを生かして蝦夷への指導力を発揮させたほうが東北の統治もうまくいきそうだし、何より信頼関係のあったアテルイを殺す気にはなれなかった。


これに対して司会の磯田道史が持ち出した「ブラック田村麻呂」説。
これはアテルイが命乞いをしてきたと喧伝することにより、アテルイのカリスマ性を破壊して、代わりに田村麻呂自身が頼りになる指導者として登場するというシナリオ。
アテルイを生かしておいても権威がなくなるし、天武が死刑にしろと言ったら死刑にすればいいのでどう転んでも田村麻呂は得をする。


この磯田説には宮崎哲弥もあり得ると半ば賛同している。
というのは、田村麻呂は天武に逆らってアテルイの助命を嘆願したにも関わらず出世を続けているから。
事の真相はわからないが、これもありえない話ではない。

田村麻呂が今でも東北の人間からある種の尊敬を集めているのは、田村麻呂がアテルイを助けようとしたことが関係しているはずだ。
しかし、その目的が実はアテルイの権威失墜にあったとすれば、田村麻呂は極めて狡猾な人物だったということになる。

 

田村麻呂の実像はどちらだっただろうか?

個人的には、田村麻呂はアテルイの権威を利用したかったのではないかと思う。

広大な蝦夷の領域を田村麻呂一人では統治できないので、アテルイという実力者を通じて間接的に朝廷の力を及ぼした方がいいと考えたのではないだろうか。


いずれにせよ田村麻呂はエミシの文化を破壊せずに残した。
蝦夷奥州藤原氏が登場する頃まで存在し続け、それ以降は北海道が「エゾ」の島になる。
もののけ姫ではアシタカが「エミシの少年」と言われているが、室町時代ではもうエミシとは呼ばなくなっているのであくまでファンタジーの話である。