明晰夢工房

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西郷どん1話「薩摩のやっせんぼ」感想:とにかく渡辺謙の島津斉彬がすべて

子役時代の喧嘩とか挫折とかそこらへんは大河ドラマの定番なのでおいておくとして、やはり今回は島津斉彬、これに尽きる。「蘭癖」とも言われるほど西洋の学問に熱中した斉彬の登場シーンは大砲を爆発させるところだった。佐久間象山も江戸で大砲の演習を行い砲身を爆発させているが、そのあたりもイメージしているのかもしれない。

ザ・名君。開明的で人望篤く薩摩の近代化の基礎を作った偉人。欠点を探すほうが難しいような人だ。今この人を演じられるのは渡辺謙くらいしかいないかもしれない。強いて欠点を挙げれば砂糖の専売で奄美諸島を苦しめたことがあげられるかもしれないが、この制度は斉彬の時代に始まったわけではない。西郷は奄美大島に流されたときに島民の苦しみをはじめて知ることになるが、それはまだ先の話だ。

 

 

初回からこの斉彬を登場させるなら、西郷を教え導く役どころということになる。郷中同士の喧嘩で右腕が上がらなくなり、剣が持てなくなった西郷にもう侍が剣を振り回すような時代は終わるのだと諭す斉彬。まるで未来を見てきたかのような物言いだが、このくらいは許容範囲内だろうか。

 

こうした現代的な発言をどれくらいドラマの中に入れるかは時代劇では意見のわかれるところだ。西郷が女装をして女子の気持ちを理解しようとするところなども、当時の薩摩武士ならまずやらないことだろう。将来西郷の妻になる糸との接点を作るためのシーンなのだが、西郷の優しさを表現するためのエピソードでもあるということだろう。

 

今のところ、島津久光はただのお人好しのようにしか描かれていない。そのことを母のお由羅にもたしなめられているが、この久光が今後どう成長していくかが見ものだ。斉彬があまりにも完璧で魅力に富んでいるために、その斉彬の薫陶を受ける西郷と対峙する久光はどうしてもその背後に兄の巨大な影を見ることになる。後に西郷が久光により島流しとなってしまう伏線が、この時点ですでに撒かれている。

 

久光を演じる青木崇高は、龍馬伝では龍馬の活躍に嫉妬し、容堂の前で「龍馬が妬ましかった」と涙ながらに告白する後藤象二郎を熱演している。コンプレックスを持つ人物を演じるには最適の人だ。久光は天才肌の兄と何かにつけて比較されてきただろうし、ドラマ中でもすでにお由羅に地ゴロと言われないようにせよ、と注意されてしまっている。これはのちに久光が西郷に言われることになる台詞だが、今後久光がどのように成長していくか、お由羅事件はどう描かれるのか、といったところにも注目していきたい。