明晰夢工房

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独身40代からの孤独と地下アイドルと「中年純情物語」

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このふたつのエントリを読んでいて、自分は「ザ・ノンフィクション」という番組の「中年純情物語」の回を思い出した。番組のくわしい内容はこちらのエントリで書かれている通り。

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この回の主人公であるきよちゃんは40代ではなく50代だが独身で、地下アイドルにはまることで交流も増え、「人とのふれあいが一番楽しいかなって感じ」と番組中で語っている。ここでいう「人とのふれあい」はきよちゃんの推しである小泉りあさんとの交流も含まれるだろうけど、それだけではなく地下アイドル「カタモミ女子」のファンとの交流のことを言っているのだろう。

 

この番組は冒頭で、地下アイドルにはまっている30代から40代くらいの男性ファンを映していた。そこで「まだ独身なんですよ、何やってるんでしょうね。まあ楽しければいいんですよ」と自嘲気味に笑っている人を登場させているように、地下アイドルのファンの中には独身の人が少なくないことを匂わせている。地下アイドルの世界はそういう人にも居場所を与えてくれるということだ。

 

独身だから孤独だとは限らないし、きよちゃんがカタモミ女子にはまるまで孤独な人生を生きてきたかどうかはわからない。ただ本人が言っているとおり、きよちゃんはアイドルやファンとの交流を楽しめるようになっていて、それまでよりずっと人生を楽しんでいるように見える。こういう場があれば孤独な人も孤独感を解消できるだろうし、そうでなくても「推し」を作ることでより毎日が充実するということは間違いない。地下アイドルにはまる人がいる理由として、そこで仲間ができるから、という事情もあることは確かなのではないかと思う。

 

しかし、ただ仲間を作るだけなら他の趣味でもいいんじゃないか、ということは言える。地下アイドルは趣味としては世間体がいいとは言えないし、人によってはもっといい趣味を見つけろと言うかもしれない。自分はそれは余計なお世話だと思うが、ではなぜ地下アイドルでなくてはいけないのか。きよちゃんの発言に、この疑問を解き明かす鍵がある。

 

「この歳になると自分で頑張って何かやっても先が見えてる」

 

 50代のきよちゃんは、もう自分自身の人生にはあまり夢を見ることはできない。そうするくらいなら、誰かに夢を託したほうがいい、ということになる。独身のきよちゃんは子供に夢を託すことはできないから、選択肢のひとつとしてアイドルが浮上してくる。活動規模が大きくない地下アイドルならそれだけ一人が与えられる影響力も大きくなるし、応援のしがいもある。小泉りあさんはカタモミ女子として活動しているとき、当初はファンが一人もいなかった。そこできよちゃんが自分が最初のファンになる、と申し出た。この子を支えてやれるのは自分だけだ、と思えればそれだけ応援にも気合が入るだろうし、ある種の使命感みたいなものまで生まれてくるかもしれない。実際、きよちゃんの小泉さん推しは徹底していて、吉田光雄さんにも「信用できるタイプ」と言われるほどだ。

 

 

幸せになるための方法として、他人に貢献することが大事だということはよく言われる。アドラー心理学も共同体に貢献することの必要性を説く。この観点から見ると、地下アイドルを応援するという行為は孤独感を解消するだけでなく、幸福感を大きく増す効果も得られるということになる。自分はあまり芸能界やアイドルに興味がないタイプなので、あまりアイドルにお金をつぎ込む人の気持ちがわからなかったが、こうして見るとやはりアイドルを応援するという行為そのものが人に幸せをもたらしているのだ、ということがわかってくる。いくらお金をつぎ込んでもアイドルと付き合えるわけではないのに、というのは一面的な見方でしかない。

 

孤独感を解消する方法として地下アイドルを応援するということが最善の選択肢かどうかはわからない。推しのアイドルのおかげで日々が充実していたとしても、そのアイドルがいつ脱退してしまうかもわからないし、グループ自体が解散する可能性もある。推しへの思い入れが深ければ、相手が結婚することで大きなダメージを受けてしまうこともある。ただ、リスクがあるのは子供で孤独感を解消している人にしても同じことだ。離婚して子供と離ればなれになってしまうかもしれないし、いずれ子供が成長して反抗期を迎え、毎日こちらを罵倒してくるようになるかもしれない。

 

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孤独感や生きがいがないことの虚しさは人によって癒されることもあるが、相手が生身の人間である以上、状況はいつも流動的だ。きよちゃんも小泉さんがアイドル活動を中止したときはかなり気落ちしている。今は小泉さんはつくば市の地元タレントとして活動できているが、どんな活動も永遠には続かない。それでも、一時だけでも誰かの活動を支えることができたのであれば、その思い出を糧に生きていくこともできるだろうか。