明晰夢工房

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中世ヨーロッパの生活や服装・食事を知るためのおすすめ本20冊

歴史関連の本はどうしても政治史について書いているものが中心になりがちですが、幸い中世ヨーロッパ史については生活史についての著書も多く出版されています。これらの本は政治史を補完する内容として興味深いだけでなく、ファンタジー創作のための資料としても活用できるので、今まで読んで良かった本についてまとめてみました。

 

1.図解中世の生活

 

図解 中世の生活 (F-Files No.054)

図解 中世の生活 (F-Files No.054)

 

 

中世ヨーロッパの生活について知りたいならまずはこの本です。封建制度の解説や中世の法律、刑罰などがまず解説され、農村や都市の生活についてもひと通りのことを知ることができます。聖職者の階級や吟遊詩人、流通と交易、中世の服装や食事など、およそ知りたいことについてはほぼ項目が立てられていますが、一つ一つの事項の解説は少なめです。浅く広く知りたい方向け。

 

2.中世を旅する人びと

  

中世を旅する人びと―ヨーロッパ庶民生活点描 (ちくま学芸文庫)

中世を旅する人びと―ヨーロッパ庶民生活点描 (ちくま学芸文庫)

 

 

ドイツ中世史の権威である阿部謹也の本はどれも読みやすいですが、これはなかでも特におすすめです。著者の目は主に中世社会の下層の人間やアウトサイダーにむけられていて、浴場主や粉挽きなど中世では差別されていた人々の生態についてもくわしく書かれています。キリスト教では喜捨が推奨されていたため、施しをもらうためにてんかん癩病を装ったり、狂人のふりをするプロの物乞いが多く存在していたことなども語られています。ただ虐げられるだけでなく、社会の底辺をしたたかに生き抜く貧者の姿をここで知ることができます。農村と牧人の関係も面白く、牧人が農民の病気を治したりしていたことなど、普段知ることのない知識も得られます。

  

3.中世ヨーロッパ 城の生活

 

中世ヨーロッパの城の生活 (講談社学術文庫)

中世ヨーロッパの城の生活 (講談社学術文庫)

 

 

中世ヨーロッパの城の成り立ちから城の内部構造、家令による城の切り盛りの仕方、年中行事や攻城戦の様子など内容は盛りだくさんです。ただし写真やイラストはあまりありません。特筆すべきはこの本では鷹狩りの方法が詳しく書かれているということです。城主の娯楽として、そして部下を鍛える方法として欠かせなかった狩猟についてくわしい本は案外少ないので、この点を知りたい方には重宝すると思います。

 

4.中世ヨーロッパ 都市の生活

 

中世ヨーロッパの都市の生活 (講談社学術文庫)

中世ヨーロッパの都市の生活 (講談社学術文庫)

 

 

13世紀フランスのトロワに焦点を当て、中世都市の職人や豪商・主婦の生活や大市の様子、学校教育、医療、演劇など、都市生活について知りたいことはほぼこの本に書いてあります。二章の「ある裕福な市民の家にて」では上流の市民の家屋の構造から衣服、そして食事については使われている香辛料までくわしく書かれているので非常に参考になります。

 

5.中世ヨーロッパ 農村の生活

  

中世ヨーロッパの農村の生活 (講談社学術文庫)

中世ヨーロッパの農村の生活 (講談社学術文庫)

 

 

中世ヨーロッパの人口の大部分を占めるのは 農民です。したがって、農村生活を知ることで中世世界の基盤を知ることができます。農村の生活といってもこの本では農村の季節ごとのイベントや耕作の実態について書かれているだけでなく、領主が荘園をどのように管理していたのか、農村における司法や裁判、結婚と出産や農村の教区など、およそこの時代の農村について知りたいことはすべて書かれています。

 

6.エリザベス朝の裏社会

  

エリザベス朝の裏社会 (1985年) (刀水歴史全書〈8〉)

エリザベス朝の裏社会 (1985年) (刀水歴史全書〈8〉)

 

 

エリザベス朝時代は時代区分としてはルネサンス期に当たるので中世ではありませんが、取り上げられている話題は黒魔術や錬金術など中世の名残を感じさせるものもあり、なにより内容が非常に面白いので紹介します。ロンドンの掏摸や詐欺のやり方や監獄の様子、街道の追い剥ぎなど裏社会の住人の生態を詳しく知ることができますが、なかでも驚くのは三章「大市の楽しみ」に書かれている大市の実態で、当時の大市では夜になると盗品が売買される泥棒市まで開かれていたというのです。大市にはうさんくさい売り主も多く、馬を俊足に見せるために尻を棍棒で殴り、ちょっと触っただけで駆け出すようにする者もいたことなど、一瞬も気を抜けない世相をうかがわせる記述もあります。

 

7.運命の騎士

 

運命の騎士 (岩波少年文庫)

運命の騎士 (岩波少年文庫)

 

 

これは小説ですが、物語のほうが具体的なシーンが多いため概説書よりも中世の生活が頭に入ってくることがあります。イングランドの犬飼いの少年が騎士の従者となり、やがて……という話ですが、村の生活の様子や小姓の仕事の内容がていねいに書かれていて、これを読めば騎士に仕えるとはどういうことか、従者の仕事とはどういうものかを知ることができます。

 

8.中世への旅 騎士と城

 

中世への旅 騎士と城 (白水uブックス)

中世への旅 騎士と城 (白水uブックス)

 

 

 主に中世ドイツについてですが、中世の城塞の構造や騎士の生活・教育方法・そしてファッションから騎士文学とおよそ騎士について知りたいことはほぼこの一冊にまとめられています。騎士の装備や武器についても一章が設けられ、野戦や攻城戦についても書かれているので、中世の戦争の様子も知ることができます。

 

9.中世ヨーロッパの城塞

  

中世ヨーロッパの城塞

中世ヨーロッパの城塞

  • 作者: J・E・カウフマン,H・W・カウフマン,ロバート・M・ジャーガ,中島智章
  • 出版社/メーカー: マール社
  • 発売日: 2012/03/20
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
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マール社から出ていることからわかるように、もともとはイラストを描くための資料なので写真や図解が豊富にあります。といってもドイツやイタリア、フランス、イングランドポーランド・ロシアなど地域ごとの城塞についてまず写真で全体を把握することができ、それぞれの城塞についてどういう施設が中にあったかもすべて図解されているので、この一冊で中世の城郭についてかなりくわしく知ることができます。47ページにはガルドローブ(トイレ)の解説も載っていて、城の衛生状態までも解説されています。もともと囚人の牢は脱出しにくい塔の最上階に設けられており、ダンジョンという言葉が地下牢を指すようになったのは牢獄が地下に設けられるようになったルネサンス時代だという豆知識も得られます。

 

10.中世ヨーロッパを生きる

  

中世ヨーロッパを生きる

中世ヨーロッパを生きる

 

 

中世の城の生活や職人兄弟団などこの手の本には定番の話題もありますが、「バナリテ」という水車小屋の強制使用から領主と農民の関係について解説している章や、森における狩猟や養蜂、製鉄などについて書いている「アルビオンの森林史話」など、あまり他の本には出てこない面白い話題が出てきます。14~15世紀に進んで高齢化により人々が初めて祖父になることと向き合ったという指摘も興味深く、この時代の人々がどう老いや病と向き合っていたかも知ることができます。各章の最後には「羅針盤」と称してたくさんの参考文献が紹介されているので、興味を持った話題についてはさらに深く知るための入り口としても活用することができます。

 

11.服装史 中世編

  

服装史―中世編〈1〉

服装史―中世編〈1〉

 

 

本来は絵を描く人向けの資料ですが、時代と地域、身分ごとに中世の服装が解説されているので眺めているだけで楽しい。軍装や場上槍試合の装備についての解説もあるので、武器や防具を描く上でも役立つ資料になります。

 

12.北の農民ヴァイキング

  

北の農民ヴァイキング―実力と友情の社会 (1983年)

北の農民ヴァイキング―実力と友情の社会 (1983年)

 

 

ヴァイキングの生活は、一般的な中世ヨーロッパの生活とはかなり異なります。その独自の生活について知ることができるのがこの本です。ヴァイキングは基本は農民であり、生活を補うための手段としての略奪が存在していたということがわかります。ヴァイキングの社会に商人はおらず自分で交易をしていたこと、略奪に出る時は奴隷に農作業を任せていたことなど、独自の生活形態を知ることができます。特にアイスランドの統治についても詳しく、シャレにならないほどの復讐が行われる世界では案外平和が保たれていたこともわかります。

 

13.図説 中世ヨーロッパの暮らし

  

図説 中世ヨーロッパの暮らし (ふくろうの本)

図説 中世ヨーロッパの暮らし (ふくろうの本)

 

 

ページ数こそ217ページと少なめですが内容はかなり充実していて、中世ヨーロッパの都市や農村の暮らしから中世人の衣食住、中世都市のなりたちや農民と領主の関係などについて、かなり学術的なことまで知ることができます。写真や図版が豊富なので眺めているだけでも楽しく、巻末の参考文献も充実しているので、中世ヨーロッパ社会史の入門書としてかなり便利な一冊に仕上がっています。

 

14.中世の城日誌―少年トビアス、小姓になる

  

中世の城日誌―少年トビアス、小姓になる (大型絵本)

中世の城日誌―少年トビアス、小姓になる (大型絵本)

 

 

子供向けの絵本ですが、イラストで中世の城の生活を学べるのでかなりおすすめの一冊です。主人公のトビアスは小姓ですが、農家の手伝いもしているし、狩猟にも出ているので城の外の様子もそれなりに描かれています。病気になったらどんな治療を受けるのか、罪人はどういう扱いを受けるのか、飼っていた豚はどうやって屠殺するのかなど、興味深い話題がたくさんあるので一度は目を通してほしい本です。

 

15.15のテーマで学ぶ中世ヨーロッパ史

  

15のテーマで学ぶ中世ヨーロッパ史

15のテーマで学ぶ中世ヨーロッパ史

 

 

どちらかというと学問として中世ヨーロッパ史を学びたい人向けの本ですが、十五のテーマで総合的に中世史について知ることができます。生活史として役立つのは「衣服とファッション」「融合する食文化」「都市と農村の住居」あたりですが、あまり類書にはない内容として「ヨーロッパ音楽の黎明」という章が立てられているので、中世ヨーロッパの音楽について知りたい方には特におすすめです。

 

16 大聖堂

 

大聖堂 (上) (ソフトバンク文庫)

大聖堂 (上) (ソフトバンク文庫)

 

  

 NHKでも放映されたドラマの原作小説ですが、主人公の建築職人トムは大聖堂の再建に関わっているため、聖職者の生活の様子や、修練長や接客係、看護係、慈善係など、修道士たちの役割分担についても書かれているので、修道院という組織がどのように成り立っているかがよくわかります。

トムは遍歴の職人であるため豚を太らせながら旅をし、いずれ売る予定であったことなど、建築職人の「副業」の様子も知ることができます。

 

17.中世の窓から 

 

中世の窓から (ちくま学芸文庫)

中世の窓から (ちくま学芸文庫)

 

 

『中世を旅する人びと』と同じく阿部謹也の著作ですが、こちらは都市生活者についての記述が中心となっています。都市での人つき合いや兄弟団、靴職人の暮らしや仮面の祭りなど中世ヨーロッパ都市の生活を垣間見ることのできるトピックが多いので、『中世を旅する人びと』とセットで読むことでより深い中世史の知識を得ることができます。ユダヤ人についての章ではユダヤ人差別についても触れられていますが、中世ドイツには裕福なユダヤ人も多く、帝国区内のどこにでも移動でき、結婚も離婚も制限がないため、ある意味非常に「自由」な存在であったことも語られています。

 

18.中世の旅

 

中世の旅 〈新装版〉 (叢書・ウニベルシタス)

中世の旅 〈新装版〉 (叢書・ウニベルシタス)

 

 

 陸の旅や船旅の様子、高山の旅、旅行で用いられた動物や食料を確保する方法など、中世ヨーロッパにおける旅行についてかなり細かく書かれています。宿屋の様子は特に詳しく、粗末な宿と上等な宿での食事の違いや客あしらいの実態、宿坊での宿泊の様子まで知ることができます。
この時代では個室に泊まるのはかなり難しかったらしく、多くの旅人はすし詰めにされひとつのベッドを最低二人で使用していたことなど、快適とは程遠い状況だったことがうかがえます。

 

19.ブリュージュ

 

 

中世都市史の専門家がフランドルの都市ブリュージュについて解説している本。ブリュージュ商業都市なので、この都市におけるハンザ商人やフランドル商人、イタリア商人の活動について知ることができます。ブリュージュにもたらされる商品リストやブリュージュ高額納税者トップ10など貴重な資料も紹介されているので、商業ファンタジーなどを描くための創作資料としても活用できます。ブリュージュの所得構造はかたよっていて貧者も多かったため、施療院が貧者救済のための施設となっていたことなども知ることができます。

 

20.中世の食卓から

 

中世の食卓から (ちくま文庫)

中世の食卓から (ちくま文庫)

 

 

 主に中世のイギリス史を材料に、料理におけるスパイスの役割やニシンの扱い、うなぎとイギリス史の関係、手洗いの儀式や中世のテーブルマナーなど、食にまつわる数多くのテーマを取り扱っています。貴族の飲食費のうちスパイスの占める割合が5%を占めるほど香辛料は重要なものでしたが、スパイスが重宝された理由として聖書における楽園を想起させる食品であったこと、洗練された地中海文化とのつながりを持つものであったことなどが指摘されています。砂糖を口にできるのが王侯貴族だけであったため虫歯は一種のステータスシンボルであったこと、エリザベス女王も虫歯だらけであったことなど、興味深い史実も知ることができます。