明晰夢工房

読んだ本の備忘録や日頃思ったこと、感じたことなどなど

audibleの無料体験期間に『日の名残り』を全部聴いたので感想を書く

audibleを聴けばアマゾンプライム会員なら一月あたりamazonポイントが最大1000ポイント溜まりますよ、という宣伝文句につられてこのサービスを1か月無料体験してみることにしました。

今までオーディオブックというものを聴いたことがなかったのですが、結論から言うと、ジャンルによってはかなり良いです。本を読みなれている身からすると聴くより読むほうが早いじゃないかと思っていましたが、耳から聴くことで苦手なジャンルでもすんなり頭に入ってくる、ということを経験しました。ナレーターさえ合えばあまり疲れないし、比較的長い本でも挫折せず最後まで読む(聴く)ことができるのではないかと思います。

 

audibleはコインでオーディオブックを購入する形式になっています。
無料体験を申し込んだ直後はコインが1つという状態になっているので、まずこれを使って一冊購入することにします。

 

 

一冊目はなんとなく「人気のタイトル」のなかから小説版『君の名は。』を選んでみました。
朴璐美さんの朗読はさすがに素晴らしく、男声と女声をそれぞれ演じ分けつつストーリーが進んでいくのですが、正直こういうラノベだと聴くよりも読んだほうが早いんじゃないかと感じてしまったので、結局途中まで聴いて返品することにしました。
(返品をくり返せば1コインで何作品も聴けることになりますが、返品は無限にできるわけではないようです)
ナレーターの名前は本ごとに書かれているので、朗読が気に入るかどうかサンプルを聴いてみてから購入するかどうかを決めるといいと思います。
この素晴らしい世界に祝福を!』のナレーターが茅野愛衣、『本好きの下克上』のナレーターが井口裕香などラノベは声優がナレーターを担当しているものがたくさんあるので、作品名だけでなく好きな声優で検索してみるのもいいかもしれません。

  

日の名残り (ハヤカワepi文庫)

日の名残り (ハヤカワepi文庫)

 

 

二冊目に選んだのはカズオ・イシグロ日の名残り』です。せっかくなのでふだんあまり読まない純文学を聴いてみようかと思ったのですが、こちらは選んで正解でした。
日の名残り』はあまりストーリー的に大きな起伏がある話ではなく、静けさに満ちているのですが、この落ち着いた雰囲気に朗読している田辺誠一さんの声がぴったり合っているのです。主人公の執事スティーブンスは教養と品格を備えた紳士ですが、このスティーブンス役を演じるには適切な人選だと感じました。

 

日の名残り』は、執事スティーブンスが仕えていた屋敷での出来事の回想がメインの内容になります。なかでもかなりの部分を占めるのが女中頭のミス・ケントンとの思い出で、この真面目で有能だがちょっと面倒なところもある女性とスティーブンスとの微妙な関係性について、10時間50分にわたって聴くことになります。ストーリー上はすごく大きな事件が起こったり、波乱万丈の展開があったりするわけではありませんが、執事の視点から語られるイギリス貴族の邸宅の様子が非常に丁寧に描かれているため、聴いているうちにこの屋敷に招き入れられているような気分になります。

 

日の名残り』は純文学なので、活字として読んだらすごく面白い、と感じるようなものではないかもしれません。でも、音声で聴いていると、この知的で上品な世界観に「浸れる」という感じがします。目で活字を追うよりも聴くほうが疲れない感じもあるので、文章の密度が濃い作品ほど、耳で聴くのには向いているのではないかと思います。音声を聴くのは文章を読むよりもハードルが低いので、あまり気合を入れなくても聴き始められるというメリットもあります。


日の名残り』はスティーブンスが理想とする執事について長々と語る部分など、普段エンタメ作品に慣れている身からするとやや冗長に感じる部分もあるのですが、耳で聴いている分には文字を追う努力がいらないので、そのまま聴いていられるというメリットがあります。文字だと純文学を読み通せないという人も、オーディオブックなら最後まで聴けるかもしれません。実際、あまり根気のない私でも『日の名残り』は28日かけて最後まで聴くことができたので、純文学とaudibleの相性はいいのではないかと思います。

ちなみに、カズオ・イシグロ作品では『忘れられた巨人』『充たされざる者』『わたしを離さないで』もaudibleで聴けます。audibleでは「名作文学」カテゴリに759タイトル、「現代文学」には453タイトル(なぜかここに『これからの正義の話をしよう』が入っている)の作品があります。

 

ただ、オーディオブックなりのデメリットもないわけではありません。本ならページを繰れば気になる箇所にすぐに戻れますが、オーディオブックだと文字がないのでどこに戻ればいいかわかりません。自分のペースでは進められないという問題もあります。早く進めたければ再生速度を速めることもできますが、2倍くらいにするとかなり雰囲気がそこなわれてしまうので、あまりスピードは変えられません。私は感じませんでしたが、聴きたい本なのにナレーターが合わないと感じられることもあると思います。

 

あとはやはり価格的な部分で、このサービスに月額1500円という料金を払う価値があるかどうか……ということですが、月額500円のアマゾンプライムにくらべるとやや躊躇してしまいそうなところではあります。これは一度無料体験してから判断することでしょうね。無料期間中に購入したオーディオブックは退会後も聴けるので、audibleを利用してやはり高いと思うなら退会すればいいと思います。

audibleの無料体験はこちらから申し込めます。