明晰夢工房

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【感想】虎走かける『魔法使い黎明期 劣等生と杖の魔女』

 

 

ゼロから始める魔法の書』と世界観を同じくする新作……というよりは続編ですね、これは。

これから読んでも普通に読めると思いますが、獣落ちだとか「女神の浄化」だとかゼロの書の扱いだとか、この世界独特の魔法の在り方だとか、なにかと設定が多い作品なので、ゼロ書を先に読んでいたほうがこの世界に入りやすいだろうとは思います。

主人公は傭兵&ゼロのコンビから魔法学校の落ちこぼれのセービル君に代わってますが、ゼロ書のキャラもかなりたくさん出てくるので、そう言う点でも前作を先に読んでおいたほうが楽しみが増すはず。

何しろ序盤からアルバスがウェニアス王立魔法学校の学長として登場するので。

というかアルバス、いつの間にか巨乳になっているのが何気に衝撃だ。これはあれか、ソーレナの血なのか。

ホルデムがあいかわらず小物扱いなのは前作と変わってませんが。

 

今回の物語の鍵となる人物は、セービルの引率役を引き受ける御年300歳オーバーの魔女ロー・クリスタス(ロス)。

世間知らずで超然とした態度を崩さなかったゼロに対し、わがままで旅慣れていて、それでいて「娯楽のために」良心的な指導者役を果たすこともある、いわばメンター的な存在であるわけですが、その魅力の半分くらいはロスがのじゃロリである点にあります。

見た目は幼女、中身は老婆、でもって面倒見はよい。

退屈が嫌いで楽しむことが生きがいで、ときどき本当に子供っぽいふるまいをすることがあるものの、要所要所では長年生きている貫録をみせつけつつちゃんと助けてくれる、そのギャップが魅力的。

ドラクエ11のベロニカの中身をさらにずっと年上にしたような感じでしょうか。これはロリババア好きな人にとってはたまらないキャラでしょうね。

長く生きている分だけ経験豊富だし、まだまだ未熟なセービル一にとり、これ以上の指導者はいないわけです。

ゼロとの共通点は、平気で人前で裸になることくらいか……やはり魔女はいろいろと常識が壊れている。

 

脇を固めるキャラクターも魅力的で、セービルと一緒に特別実習に挑むことになる元気少女のホルトとトカゲの獣落ちのクドーは二人とも有能な魔法使いですが、このシリーズらしくかなりダークな過去を抱えていて、そのあたりをどう克服し乗り越えていくのかもこの巻の見どころ。

ゼロ書シリーズでは傭兵がある程度成熟したキャラでしたが、今回主人公と仲間がかなり若くなったので、魔法学校の生徒たちの成長も物語の構成要素のひとつになると思われます。

 

ゼロ書における「北の災厄」も終わり、落ち着きを取りもどしつつあるウェニアス王国ですが、それでも南部にはまだ魔女に偏見を持つ住民も少なくなく、平穏には程遠い状況なわけで、そんな世界でセービルとロス一行は魔法学校の「特別実習」が行われる村まで旅をすることになります。

なので、やはり敵役も出てくるわけで、それが今回は「女神の浄化」の裁定官。

ゼロ書の神父とは違って殺戮が大好きなタイプですね。

この裁定官との戦いでホルトやクドーの能力が明らかになってきますが、注目すべきはトカゲの獣落ちであるクドーの高い再生能力。

手足を潰されてもまた生えてくる上に、クドーは守護の章の魔法が得意なので、この能力が将来的に実習の行われる村で生かされることになりそうです。

ホルトの抱える闇もこの辺りから見えてきて、やはりこれはゼロ書の続編なんだなぁ、と思うところ。ただ能天気で明るいだけのキャラはこの作品にはいない。

 

そして、この戦いではやはりセービルがただのただの劣等生ではなかったこともわかってきます。彼の抱える秘密は完全にチート級の能力で、ただし扱いが難しい。暴走させたら魔女及び魔法使いへの偏見が偏見でなくなる。やはり魔法は危険だということになってしまう。ほんとこれ、下手すると世界を滅ぼしかねないのよね……

この能力も2巻以降で生きてくるでしょうが、制御するには魔法の技術と精神の両方が

成長することが必要なので、そのあたりもいずれ描かれることになるかと思います。

 

物語後半ではゼロや傭兵、神父が出てきた時点である程度結末は読めるかもしれませんが、それでもやっぱり懐かしい面子に会えるのは嬉しさがあるんですよねえ。

「敵」として対峙した場合のゼロの怖さ、新鮮味があっていい。

ゼロや傭兵が決定的に残酷なことをするはずがない、とわかってはいても。

 

しかしまぁ、最後に明かされるセブ君の出生の秘密は衝撃的ですよ。

あの人がまさか、子供を持つことになるとはねぇ。

さすがにそこに至る経緯は普通の人間とは全然違いますが。

 

全体としてダークな話も多かったゼロ書にくらべ、この『魔法使い黎明期』はこれから魔法の存在する世界を育てていく、という、どちらかというと先に希望が見える感じのストーリーなので、ゼロ書シリーズほど重い気分になることなく読めました。

とはいえ、今後の展開がどうなるかはまだ未知数なのですが。

コミカライズも決定したし、ぜひこのまま巻数を重ねてアニメ化まで行ってほしいものです。