明晰夢工房

読んだ本の備忘録や日頃思ったこと、感じたことなどなど

確証バイアスが「日本人は集団主義的」という文化ステレオタイプを生んだ──高野陽太郎『日本人論の危険なあやまち ―文化ステレオタイプの誘惑と罠―』

www.u-tokyo.ac.jp 「日本人は集団主義的である」という通説は間違っている、という記事が一部で反響を呼んでいた。この記事の参考文献としてあげられている高野陽太郎氏の『「集団主義」という錯覚 ― 日本人論の思い違いとその由来』は、2008年に刊行されて…

飢饉・間引き・百姓一揆……木枯し紋次郎は江戸天保期の社会矛盾に翻弄された男だった

木枯し紋次郎(一)~赦免花は散った~ (光文社文庫) 作者:笹沢 左保 光文社 Amazon 「あっしには関わりのねぇこって」──『木枯し紋次郎』をリアルタイムで視聴していない私でも、この台詞くらいは知っている。原作小説を読んでみたところ、この有名な台詞は…

ネット炎上の激化は社会比較説・沈黙の螺旋・集団的浅慮などが原因

眠れなくなるほど面白い 図解 社会心理学 日本文芸社 Amazon kndle unlimitedで『眠れなくなるほど面白い図解社会心理学』を読んでいたら、ネット炎上が激化する原因を解説している箇所があった。この本の28ページでは、ネット炎上が加速する原因として「社…

ウクライナに直接千羽鶴を送った人はいなかったらしい(ロザンの部屋の感想)

www.youtube.com ロザンの二人が「ウクライナに折り鶴」の件について語っているのをきのう知った。この動画で宇治原史規が語っているところによると、戦地のウクライナに直接折り鶴を送ろうとした人は確認できなかったそうだ。「ウクライナに折り鶴」議論の…

性善説と性悪説、どっちで生きるのが得?下園公太『寛容力のコツ──ささいなことで怒らない、ちょっとしたことで傷つかない』

寛容力のコツ―――ささいなことで怒らない、ちょっとしたことで傷つかない (知的生きかた文庫) 作者:下園 壮太 三笠書房 Amazon 萱野稔人『名著ではじめる哲学入門』によると、20世紀以降の哲学では性善説的な考えが優勢になっているそうだ。ヒューマニズムが…

「表現の自由」などとっくになくなっていた令和日本

みんなのユニバーサル文章術 今すぐ役に立つ「最強」の日本語ライティングの世界 (星海社 e-SHINSHO) 作者:安田峰俊 講談社 Amazon 安田峰俊氏の『みんなのユニバーサル文章術 今すぐ役に立つ「最強」の日本語ライティングの世界』を読んだ。1記事2000万PVを…

幸せになる方法は科学的に解明されつつある──『「幸せ」について知っておきたい5つのこと NHK「幸福学」白熱教室』

「幸せ」について知っておきたい5つのこと NHK「幸福学」白熱教室 (中経出版) 作者:NHK「幸福学」白熱教室制作班,エリザベス・ダン,ロバート・ビスワス=ディーナー KADOKAWA Amazon 幸せとは何か。どうすれば幸せになれるのか。これは古来、宗教や哲…

kindle unlimitedが2ヶ月99円キャンペーン開催中なので古典を読みたい人におすすめしてみる

プライム会員限定なのかよくわかりませんが、kindle unlimitedが2ヶ月99円のキャンペーンを開催中です。 前回(2020年年末ごろ)のキャンペーンは2ヶ月299円だったので、これにくらべてもかなりお得です。 このサービスは、古典がたくさん読みたい人には間違…

【感想】逢坂冬馬『同志少女よ、敵を撃て』

同志少女よ、敵を撃て 作者:逢坂 冬馬 早川書房 Amazon 本作の帯には桐野夏生の「これは武勇伝ではない。狙撃兵となった少女が何かを喪い、なにかを得る物語である」という一文が書かれている。「喪い」が先に来ているのは、この物語が大きな喪失で幕を開け…

ツイキャスで喋っています

最近、試みにツイキャスでいろいろ喋っています。 きょうは解説がなんでもかんでも動画で提供される問題、ブログの読まれなさ、なろう小説がなぜ「あんな感じ」なのか……などについて語りました。 モイ!PCからキャス配信中 - 文章という「縛りプレイ」 https…

鬼はいつから退治できる存在になったのか──香川雅信『図説日本妖怪史』

図説 日本妖怪史 (ふくろうの本/日本の文化) 作者:香川雅信 河出書房新社 Amazon 平安時代、鬼は妖怪として最も恐れられる存在になっている。その証拠に、『今昔物語集』には数多くの鬼にまつわるエピソードが収録されている。だが『図説日本妖怪史』によれ…

【書評】ウクライナ史を新書一冊で概観できる良書『物語ウクライナの歴史』

物語 ウクライナの歴史 ヨーロッパ最後の大国 (中公新書) 作者:黒川祐次 中央公論新社 Amazon この本のまえがきでは、「ウクライナ史最大のテーマは国がなかったこと」というウクライナ史家の言葉を紹介している。多くの国家においては歴史最大のテーマが民…

平維盛は本当に憶病な武将だったのか

平家物語 Blu-ray box(特典なし) 悠木碧 Amazon アニメ『平家物語』が6話で富士川の戦いを描いていた。この戦いで平家の大将を務めた平維盛はアニメ中では弟の資盛に「怖がり」と言われており、実際富士川の戦いでは源氏の大軍を前におびえる様子をみせてい…

キエフ・ルーシ公国の後継者はウクライナかロシアか──黒川祐次『物語ウクライナの歴史 ヨーロッパ最後の大国』

物語 ウクライナの歴史―ヨーロッパ最後の大国 (中公新書) 作者:黒川 祐次 中央公論新社 Amazon いま注目の既刊、黒川祐次著『物語 ウクライナの歴史 ヨーロッパ最後の大国』。ロシア帝国、ソ連時代を経ても、独自の文化を守り続けたウクライナ。本書は、スキ…

山田風太郎『人間臨終図鑑』で知る「かわいそうセンサー」の反応する場所

人間臨終図巻1<新装版> (徳間文庫) 作者:山田 風太郎 徳間書店 Amazon 中年男性が過労死しても顧みられないのは「かわいそうランキング」が低いからだ、といわれることがある。一般論としてはそうかもしれない。だが、山田風太郎『人間臨終図鑑』を読んでい…

kindle unlimitedを2ヶ月使ってみた感想とおすすめ本

kindle unlimitedを去年の11月9日から使いはじめて2ヶ月になろうとしている。2ヶ月299円の価格につられて試してみたサービスだが、100分de名著シリーズや光文社新訳の古典がたくさん読めること、新書もけっこう幅広く読めることなどが魅力で、最初の1ヶ月く…

【書評】秦の軍事制度から古代中国の性差まで多彩な論文を収録した『岩波講座世界歴史05 中華世界の盛衰』

中華世界の盛衰 4世紀 岩波書店 Amazon 今年10月から岩波講座世界歴史新シリーズの刊行がはじまった。刊行二冊目になる『中華世界の盛衰 4世紀』では、殷から西晋末にいたるまでの中華世界およびその周辺世界を扱っている。通史を扱っているのは『「中華帝国…

【書評】呉座勇一『頼朝と義時 武家政権の誕生』

頼朝と義時 武家政権の誕生 (講談社現代新書) 作者:呉座勇一 講談社 Amazon 本書の特徴をかんたんに言うと、「公武対立史観にとらわれない歴史叙述」になる。公武対立史観とは、公家と武家の対立関係を宿命的なものとみなす歴史観のことだ。この史観に立つと…

【感想】最強の石垣職人vs至高の鉄砲職人の戦いの行方は?今村翔吾『塞王の楯』

塞王の楯 (集英社文芸単行本) 作者:今村翔吾 集英社 Amazon 今村翔吾がまたやってくれた。『じんかん』では「悪人」ではない松永久秀の激烈な生涯を描いた作者が今回主人公に据えるのは、「穴太衆」とよばれる石工の青年・匡介。幼いころに信長に故郷の一乗…

書評も大事だけど、日本人の47.3%が本を読まない時代には「紹介」も大事

news.yahoo.co.jp このニュースでけんごさんに興味が出てきたので、TikTokの動画を見てみた。動画はどれも30秒くらいで、視聴者に刺さりそうなフレーズをうまく用い、小説の魅力的なところを簡潔に紹介している。これが書評かといわれればそうではないと思う…

【感想】自己皇帝感あふれるビザンツ皇女アンナ・コムネナが主人公のフルカラー4コマ『アンナ・コムネナ』

アンナ・コムネナ(1) (星海社コミックス) 作者:佐藤二葉 講談社 Amazon 開幕一秒で弟に「お前を消せばいいわけね」と言い放つヒロインもめずらしい。本作の主人公アンナ・コムネナは父アレクシオスが皇帝なので、自分もビザンツ皇帝をめざしていたが、弟…

【書評】ブッダになれるのは一部の「能力者」だけか、それとも全員なのか?師茂樹『最澄と徳一 仏教史上最大の対決』

最澄と徳一 仏教史上最大の対決 (岩波新書 新赤版 1899) 作者:師 茂樹 岩波書店 Amazon 仏教というより高度な論理学の本を読んだような、不思議な読後感が得られる一冊だった。本書『最澄と徳一 仏教史上最大の対決』は、タイトル通り最澄と徳一の論争につい…

【感想】五胡十六国時代を舞台に、人型の麒麟と遊牧民の青年の友情と戦いを描く『霊獣記 獲麟の書(上)』

霊獣紀 獲麟の書(上) (講談社文庫) 作者:篠原悠希 講談社 Amazon 晋の統一ははかない。三国時代がようやく終わり、一見中華は平穏を取り戻したかにみえるが、少しづつ内乱の足音が近づいてくる。気候の寒冷化も進み、半農半牧の生活を送る遊牧民の青年・ベ…

kindle unlimitedのおかげでネットから受けるストレスが激減した

「2ヶ月299円」のセール価格につられてkindle unlimitedをはじめて20日が経った。気づいたらネットから受けるストレスが激減していた。いろいろな電子書籍を読みあさっているうちに、ネット上の不快な情報に接することがほぼなくなったせいだ。以前は暇があ…

異性とは目も合わせないニートになれ!という「ヤバい教え」をなぜ信じるのか?ニー仏『だから仏教は面白い!』(kindle unlimited探訪7冊目)

だから仏教は面白い!前編 作者:魚川祐司 evolving Amazon だから仏教は面白い!後編 作者:魚川祐司 evolving Amazon 「ニー仏」こと魚川祐司さんによれば、仏教、少なくともゴータマ・ブッダが説いた初期仏教は「ヤバい宗教」だったという。ヤバいといって…

【書評】桑畑がナンパスポット、市場では受刑者の悲鳴……見てきたように秦漢時代の生活を描く『古代中国の24時間 秦漢時代の衣食住から性愛まで』

古代中国の24時間 秦漢時代の衣食住から性愛まで (中公新書) 作者:柿沼陽平 中央公論新社 Amazon こんなに秦漢時代の生活がくわしくわかる本はほかにない。当時の人間になりきり、午前五時頃から時間帯ごとに古代中国の民衆の生活を追っていく内容なのだが、…

【書評】荘園を知れば日本中世史が圧倒的にわかる!伊藤俊一『荘園-墾田永年私財法から応仁の乱まで』

荘園 墾田永年私財法から応仁の乱まで (中公新書) 作者:伊藤俊一 中央公論新社 Amazon 学問とは本来面白いもの、ということがこの本を読むとよくわかる。本書『荘園-墾田永年私財法から応仁の乱まで』は、荘園という一見地味で硬いテーマを扱っているが、そ…

【感想】ソフォクレス『オイディプス王』(kindle unlimited探訪6冊目)

オイディプス王 (光文社古典新訳文庫) 作者:ソポクレス 光文社 Amazon 本を読むならとにかく古典を読め、という人がいる。なんだか権威主義的であまりお近づきになりたくないタイプだ。とはいうものの、確かにこれは読んでおいたほうがいい、と思える古典は…

歎異抄における「善人」「悪人」とは何か?『NHK「100分de名著」ブックス 歎異抄 仏にわが身をゆだねよ』 (kindle unlimited探訪5冊目)

NHK「100分de名著」ブックス 歎異抄 仏にわが身をゆだねよ 作者:釈 徹宗 NHK出版 Amazon kindle unlimitedを利用するメリットのひとつが、100分de名著シリーズがいろいろ読めることだ。いきなり古典に挑戦するハードルが高すぎるなら、まずこれ…

【書評】山本博文『殉教~日本人は何を信仰したか~』(kindle unlimited探訪4冊目)

殉教~日本人は何を信仰したか~ (光文社新書) 作者:山本 博文 光文社 Amazon これはキリシタンの殉教の様子をくわしく記録した貴重な一冊だ。一読して驚くのは、キリシタンたちの宗教的情熱の強さだ。彼らは微塵も死を恐れない。捕まれば火刑になるとわかっ…