明晰夢工房

読んだ本の備忘録や日頃思ったこと、感じたことなどなど

2020-05-01から1ヶ月間の記事一覧

【感想】佐藤巖太郎『会津執権の栄誉』

会津執権の栄誉 (文春文庫) 作者:巖太郎, 佐藤 発売日: 2019/07/10 メディア: 文庫 渋い。この一言につきる。本作は会津芦名家の興亡を描いた連作短編だが、それぞれの作品の主人公は皆あまりなじみのない人物で、大河ドラマの主人公になるような華々しい活…

【感想】パオロ・ジョルダーノ『コロナの時代の僕ら』

コロナの時代の僕ら 作者:パオロ ジョルダーノ 発売日: 2020/04/24 メディア: Kindle版 このエッセイ集を貫くものがふたつある。明晰さと真っ当さだ。パオロ・ジョルダーノは素粒子物理学を修めた科学者らしく、COVID-19が人間社会にもたらす影響を、ビリヤ…

【書評】山本太郎『感染症と文明 共生への道』

感染症と文明――共生への道 (岩波新書) 作者:山本 太郎 発売日: 2011/06/22 メディア: 新書 文明化とは感染症との共存だ、ということがこの本の一章『文明は感染症の「ゆりかご」だった』を読むとわかる。文明化以前の人類は小規模な集団で狩猟生活を行い、移…

『新もういちど読む山川世界史』はコラムの人物伝が面白い

新 もういちど読む 山川世界史 発売日: 2017/08/01 メディア: 単行本(ソフトカバー) 世界史本なら山川出版社は安心のブランドだ。なにしろ教科書をつくっているのだから、この手の「大人の学び直し」的なものの内容も無難で偏りがなく、間違いのないものに…

【書評】岩波新書シリーズ中国の歴史3『草原の制覇 大モンゴルまで』

草原の制覇: 大モンゴルまで (岩波新書) 作者:崇志, 古松 発売日: 2020/03/21 メディア: 新書 王朝別の歴史記述を乗りこえるため、中国史を地域ごとに分けてマクロな視点からみていくシリーズの三冊目となる本。本書では鮮卑が華北を征服した南北朝時代から…

【感想】ケン・リュウ選『現代中国SFアンソロジー 月の光』

月の光 現代中国SFアンソロジー (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ) 作者:劉 慈欣 発売日: 2020/03/18 メディア: ハードカバー 一言で中国SFといっても多様だ。とはいえ、中国ならではのSF作品というものもやはり存在する。当人もすぐれたSF作家であるケン・リュウ…

【麒麟がくる17話感想】そして、道三は伝説になった

www.nhk.or.jp 『麒麟がくる』17回「長良川の対決」は大河ドラマ史上、長く語り継がれるであろう回になった。第1回からていねいに積み上げられた斎藤道三・高政父子の相克の物語は、ついにここに決着を見た。長良川河畔に鳴り響く陣太鼓のリズムが悲壮感を盛…

日本史リブレット『蝦夷の地と古代国家』に見る蝦夷アイヌ説と蝦夷非アイヌ説

蝦夷の地と古代国家 (日本史リブレット) 作者:熊谷 公男 発売日: 2004/04/01 メディア: 単行本 古代蝦夷とは何者かを考えるとき、蝦夷はアイヌなのかそうでないのか、が古くから考察の的となってきた。だが、この問いははっきり二者択一で答えを出せるもので…

大学生の「読書離れ」はいつ始まったのか?津野海太郎『読書と日本人』

www.asahi.com 1日の読書時間がゼロという大学生が、2017年にはじめて5割を超えたという。今の大学生は経済的にあまり余裕がなく、アルバイトに忙しいからだといわれることもあるが、とにかく大学生の読書時間は減る傾向にあるようだ。齋藤孝氏などはよくこ…

『岩波講座世界歴史12 遭遇と発見』に見るギリシア人のスキタイ観の変化

岩波講座 世界歴史〈12〉遭遇と発見―異文化への視野 作者:樺山 紘一 発売日: 1999/02/25 メディア: 単行本 この巻では『古代ギリシア人のスキュタイ観』が特におもしろい。遊牧騎馬民族は野蛮で農耕民族は文明的、というステロタイプはすでに克服されつつあ…

【感想】青山文平『白樫の樹の下で』

白樫の樹の下で (文春文庫) 作者:青山 文平 発売日: 2013/12/04 メディア: 文庫 貧乏御家人の主人公村上登と冷静で温厚な青木昇平、少々ひねくれたところのある仁志兵輔という二人の友がくりひろげる江戸青春活劇──とまとめてしまうには、この作品はあまりに…