明晰夢工房

読んだ本の備忘録や日頃思ったこと、感じたことなどなど

日本史

【感想】古市憲寿『絶対に挫折しない日本史』

絶対に挫折しない日本史(新潮新書) 作者:古市憲寿 発売日: 2020/09/17 メディア: Kindle版 好き嫌いの分かれそうな本だ。この手の概説書はなるべく著者の色を消して通説とされているものを淡々と記述していくものと、著者の個性を前面に押し出すものとがあ…

【感想】佐藤厳太郎『伊達女』にみる歴史研究と歴史小説の幸福な関係

伊達女 作者:佐藤 巖太郎 発売日: 2020/11/06 メディア: 単行本 歴史小説には「そう来たか」がほしい。ここで言う「そう来たか」とは、史実(とされているもの)を意外な方向で解釈する、ということだ。この作品を読む人の多くは、伊達政宗の生涯についてお…

小林一茶の夜の営みの回数を記録した『七番日記』に何を読みとるか

性からよむ江戸時代――生活の現場から (岩波新書) 作者:沢山 美果子 発売日: 2020/08/21 メディア: 新書 小林一茶の残した『七番日記』という日記がある。これは大変貴重なものである。というのは、なんと一茶が妻との房事の回数を記録しているからである。江…

森本公誠『東大寺のなりたち』に見る東大寺造立の社会的効果

東大寺のなりたち (岩波新書) 作者:森本 公誠 発売日: 2018/06/21 メディア: 新書 ピラミッドのような巨大建築物は、建設のために多くの人手を必要とするため、雇用対策として建設されるという一面がある。大仏はどうだろうか。奈良の大仏の造立に参加した人…

【感想】平山優『戦国の忍び』で「忍者」の最新研究に触れられる

戦国の忍び (角川新書) 作者:平山 優 発売日: 2020/09/10 メディア: Kindle版 この本の著者の平山優氏は『真田丸』の時代考証を務めていたことで知られている。大河ドラマにかかわって以来、氏はテレビ局や出版社から忍者についての問い合わせを受けていたが…

『講談社学習まんが日本の歴史』が本当に最新学説を取り入れているか確認してみた

rekishimanga.jp 日本史の学習マンガとしては一番新しいシリーズになる『講談社学習まんが日本の歴史』シリーズなのですが、監修者を見てみると6巻から9巻までは『応仁の乱』著者の呉座勇一氏の監修になっていました。 「古代から令和まで最新研究を網羅」と…

鉄砲一挺60万円、人間一人が10万円~……戦国時代の経済を俯瞰できる『戦国大名の経済学』

戦国大名の経済学 (講談社現代新書) 作者:川戸貴史 発売日: 2020/06/17 メディア: Kindle版 戦国大名の領国経営にはどれくらいお金がかかるのか?あるいは収入はどれくらいなのか?こういう疑問を持ったことがないだろうか。銭がなくては築城も戦争もできな…

【感想】天野純希『燕雀の夢』

燕雀の夢 (角川文庫) 作者:天野 純希 発売日: 2020/01/23 メディア: Kindle版 織田信秀、武田信虎、松平広忠など「英雄の父」を主人公とした短編集。6つの短編はどれも読みごたえがあるが、中でも『虎は死すとも』と『楽土の曙光』の二編がとくに印象に残っ…

呉座勇一氏による明智光秀の人物評が『明智光秀と細川ガラシャ 戦国を生きた父娘の虚像と実像』で読める

明智光秀と細川ガラシャ (筑摩選書) 作者:章一, 井上,勇一, 呉座,クレインス,フレデリック,南燕, 郭 発売日: 2020/03/13 メディア: 単行本(ソフトカバー) 四人の著者が明智光秀とガラシャについて論じている本。第一章の『明智光秀と本能寺の変』では、呉…

【感想】佐藤巖太郎『会津執権の栄誉』

会津執権の栄誉 (文春文庫) 作者:巖太郎, 佐藤 発売日: 2019/07/10 メディア: 文庫 渋い。この一言につきる。本作は会津芦名家の興亡を描いた連作短編だが、それぞれの作品の主人公は皆あまりなじみのない人物で、大河ドラマの主人公になるような華々しい活…

日本史リブレット『蝦夷の地と古代国家』に見る蝦夷アイヌ説と蝦夷非アイヌ説

蝦夷の地と古代国家 (日本史リブレット) 作者:熊谷 公男 発売日: 2004/04/01 メディア: 単行本 古代蝦夷とは何者かを考えるとき、蝦夷はアイヌなのかそうでないのか、が古くから考察の的となってきた。だが、この問いははっきり二者択一で答えを出せるもので…

【書評】一坂太郎『吉田松陰とその家族 兄を信じた妹たち』

吉田松陰とその家族-兄を信じた妹たち (中公新書) 作者:一坂 太郎 発売日: 2014/10/24 メディア: 新書 大河ドラマ『花燃ゆ』の前半は、ほぼ伊勢谷友介演じる吉田松陰の魅力でもっていた。主人公の兄である松陰が処刑され、夫の久坂玄瑞もまた刑死したため、…

【感想】戊辰戦争で百姓がどう戦ったかよくわかる『百姓たちの幕末維新』

文庫 百姓たちの幕末維新 (草思社文庫) 作者:尚志, 渡辺 発売日: 2017/04/04 メディア: 文庫 日本人の8割をしめた百姓たちは、幕末維新をどう戦い、生き抜いたのか。本書『百姓たちの幕末維新』を読めば、激動の時代を百姓たちがどうサバイバルしたかがよく…

麒麟がくる1話『光秀、西へ』感想

【1/19 HP更新のお知らせ】初回放送を終えて長谷川博己インタビュー 公開#麒麟がくる #明智光秀https://t.co/nMfnCDlcqK — 【公式】大河ドラマ「麒麟がくる」初回1月19日(日)放送@NHK (@nhk_kirin) 2020年1月19日 この光秀は旅の途上、荒廃した室町後期…

士農工商も赤穂浪士も教科書から消えていく『ここまで変わった日本史教科書』

ここまで変わった日本史教科書 作者:高橋 秀樹,三谷 芳幸,村瀬 信一 出版社/メーカー: 吉川弘文館 発売日: 2016/08/25 メディア: 単行本 これを読んでいると、かつて学んだ「日本史」の内容も少しづつ変わってきていることがわかる。今は「鎖国」という言葉…

奴隷狩り・人身売買・略奪……戦国時代の「民衆のリアル」を活写する『雑兵たちの戦場』

【新版】 雑兵たちの戦場 中世の傭兵と奴隷狩り (朝日選書(777)) 作者:藤木 久志 出版社/メーカー: 朝日新聞社 発売日: 2005/06/10 メディア: 単行本 ルイス・フロイスは『ヨーロッパ文化と日本文化』において「われらにおいては、土地や都市や村落、および…

信長研究者は本能寺の変の原因を何だと考えているのか?『本能寺の変サミット2020』内容まとめ

先日、NHKBSで放映された『本能寺の変サミット2020』の内容をこちらにまとめておきます。参加したパネリストは天野忠幸,石川美咲,稲葉継陽,柴裕之,高木叙子,福島克彦,藤田達生の7氏。 この日、本能寺の変の原因として検討されていたのは怨恨説・朝廷or…

蝦夷の領域に築かれた最北端の古代城柵・秋田城を訪ねる

秋田市の秋田城跡と資料館を訪ねてきた。写真は昨年10月に撮ったもの。 秋田城の歴史は古く、733年に出羽柵が建設され、760年に秋田城と改称されている。 ここには復元された秋田城の城壁含め、当時の政庁そのものが公園の中に含まれている。 秋田城は軍事施…

伊東潤『敗者烈伝』における明智光秀の評価

敗者烈伝 (実業之日本社文庫) 作者:伊東 潤 出版社/メーカー: 実業之日本社 発売日: 2019/10/04 メディア: 文庫 「汁二杯」のエピソードのせいでどうしても良いイメージを持たれない北条氏政だが、この本においては意外と評価が高い。上杉謙信との間に結ばれ…

【感想】本郷和人『乱と変の日本史』

乱と変の日本史 (祥伝社新書) 作者:本郷 和人 出版社/メーカー: 祥伝社 発売日: 2019/03/01 メディア: 新書 平将門から島原の乱にいたるまで多くの「乱」と「変」を扱った内容になっているが、序の「乱と変から何がわかるか」を読むと、意外なことに「乱」と…

【感想】吉川弘文館東北の中世史5『東北近世の胎動』

東北近世の胎動 (東北の中世史) 作者: 出版社/メーカー: 吉川弘文館 発売日: 2016/02/19 メディア: 単行本 吉川弘文館から刊行されている『東北の中世史』の最終巻だが、これは東北の城郭や伊達氏の統治に関心のある方にはぜひ読んでもらいたい。というのも…

明智光秀「仏のうそを方便といい、武士のうそを武略という」←なぜここだけ抜き出すのか

武士の日本史 (岩波新書) 作者: 高橋昌明 出版社/メーカー: 岩波書店 発売日: 2018/05/23 メディア: 新書 この商品を含むブログ (2件) を見る 明智光秀が「仏のうそを方便と云い、武士のうそを武略と云う」と公言したという話が『老人雑話』には載っている。…

「知恵泉」武田勝頼回の長篠の戦いについての黒田基樹氏の発言のメモ

「~の」ばっかり多くてタイトルが読みにくいがあまり気にしない。 真田丸時代考証メンバーの一人としておなじみの黒田基樹氏の長篠の戦についてのコメントが面白かったので、忘れないうちにメモしておく。 ・信長は本願寺との戦いを切り上げて急遽長篠に駆…

【書評】北條芳隆(編)『考古学講義』

考古学講義 (ちくま新書) 作者: 北條芳隆 出版社/メーカー: 筑摩書房 発売日: 2019/05/07 メディア: 新書 この商品を含むブログを見る ちくま新書の歴史講義シリーズのなかの一冊。 先史時代から古墳時代までをカバーする14のトピックはどれも興味深いものば…

縄文文化は『文明』ではない──山田康弘(監修)『縄文時代の不思議と謎』

縄文時代の不思議と謎 (じっぴコンパクト新書) 作者: 山田康弘 出版社/メーカー: 実業之日本社 発売日: 2019/01/08 メディア: 新書 この商品を含むブログを見る もう20年以上前のことになるが、三内丸山遺跡を見に行った時の衝撃はいまだに忘れられない。300…

【感想】蓑輪諒『最低の軍師』上杉謙信を相手取る軍師・白井浄三の采配に刮目せよ!

最低の軍師 (祥伝社文庫) 作者: 簑輪諒 出版社/メーカー: 祥伝社 発売日: 2017/09/13 メディア: 文庫 この商品を含むブログを見る これはお見事。臼井城の戦いというマイナーな戦いを主題に持ってきた時点でまず目のつけどころがいい。歴史小説はどうしても…

【感想】6人の戦国武将の「最期の24時間」を描く木下昌輝『戦国24時 さいごの刻』

戦国24時 さいごの刻(とき) 作者: 木下昌輝 出版社/メーカー: 光文社 発売日: 2016/09/15 メディア: 単行本 この商品を含むブログを見る 6人の戦国武将の最後の24時間をそれぞれの立場で語る、というちょっと変わった趣向の短編集。 取り上げられる人物は豊…

【感想】映画『武士の家計簿』

武士の家計簿 発売日: 2013/11/26 メディア: Prime Video この商品を含むブログを見る 武士の家計簿(初回限定生産2枚組) [DVD] 出版社/メーカー: 松竹 発売日: 2011/06/08 メディア: DVD 購入: 4人 クリック: 22回 この商品を含むブログ (79件) を見る 地…

【書評】牧原憲夫『岩波シリーズ日本近現代史2 民権と憲法』

民権と憲法―シリーズ日本近現代史〈2〉 (岩波新書) 作者: 牧原憲夫 出版社/メーカー: 岩波書店 発売日: 2006/12/20 メディア: 新書 購入: 3人 クリック: 44回 この商品を含むブログ (44件) を見る 明治という時代が国家全体としては間違いなく上昇気流に乗る…

磯田道史『武士の家計簿』はやはり傑作だった

武士の家計簿 ―「加賀藩御算用者」の幕末維新 (新潮新書) 作者: 磯田道史 出版社/メーカー: 新潮社 発売日: 2003/04/10 メディア: 新書 購入: 16人 クリック: 113回 この商品を含むブログ (152件) を見る 磯田ファンのひとりとしてはとっくに読んでいなくて…