明晰夢工房

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映画『アレクサンドリア』(感想)

  

アレクサンドリア [DVD]

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ここまでキリスト教の負の側面をはっきり描いている映画もあまりないんじゃないかなぁ……というのが正直な感想。
クォ・ヴァディス』などのように主にキリスト教徒側が迫害される映画をたくさん観てきた私には、これは驚きだ。


この『アレクサンドリア』作品中でもキリスト教徒側が迫害される描写はあるのだが、古代ローマ末期のこの時代にはすでにキリスト教は国教で、皇帝のテオドシウスもキリスト教徒だ。そのためかアレクサンドリアで暴動を起こしたキリスト教徒は結局無罪になっている。
それどころか、皇帝の命によりアレクサンドリアキリスト教徒の手に渡り、図書館に蓄えられた古代の叡智の多くが失われることになってしまった。
主人公の女性哲学者ヒュパティアはキリスト教徒もできるだけ公平に扱うよう主張していたのに、これはあまりの仕打ちだ。
古代の神々の石像を破壊し、ユダヤ人を迫害する彼らの姿はまるで過激派テロリストのようだ。昔のこととはいえ、ここまで一宗教の実態を悪く描いて大丈夫なのかと心配になるほどだが、史実だから仕方がないのか。

 

ヒュパティアはこの惨状を目にして「あなた方の神は、かつての神々に比べ公平でも慈悲深くもない」といっている。最後まで哲学と天文学を愛した彼女は魔女とされてしまった。冒頭で彼女が学生と闊達に議論を交わす姿が魅力的だっただけに、この結末は残念でならない。彼女が罰せられたことで自然科学という古代の最後の輝きが失われてしまったようにすら感じられるほどだ。これが信仰の代償なのかと思うと深い喪失感にとらわれる。

ヒュパティアの最期はこの映画で描かれているよりずっとひどいものだったようだが、だからこそ映画ではダオスにあのような役回りをさせたのだろうか。史実のような残酷な死を回避できたことだけがこの作品の唯一の救いだ。