出口治明氏による世界史通史の2冊目は期限元年~1000年ころまでを扱っています。内容としては1冊目同様年代ごとに各地域の歴史を同時並行的に叙述していくもので、固有名詞が大量に出てきますがこの本で得られる新知見も多く、高校世界史程度の知識を持っているなら興味深く読み進められることと思います。前作に比べ時代が現代に近いこともあり、個人的にはだいぶ面白く読めました。
ふつう、世界史の教科書的な本は地域ごとに歴史を記述しているものが多いですが、本書のように年代ごとに多くの地域の歴史を扱う書き方には各地域の交渉がわかりやすくなるというメリットがあります。この形式だと地域ブロックごとに歴史が分割されないので、各地域の歴史がどう連動しているのかという世界史のダイナミズムを味わいやすくなります。
たとえば、本書では軍人皇帝ヴァレリアヌスがササン朝の捕虜になったことを書いたあと、この戦いで捕らえられたローマの捕虜がカールーン川の架橋工事に使われたことを記しています。ササン朝のシャープール1世が水利事業に力を入れていたことを示す史実ですが、各地域の歴史を横断的に書くことでこういう記述が可能になります。
有名なタラス河畔の戦いについての記述でも、この戦いでアッバース朝に伝わった製紙技術と知的好奇心が結び付き、熱心な翻訳作業が行われたことが記されています。東西の歴史を横断的にみる視点がなければ、こういう書き方はできません。こうした点が類書とは一線を画するところではないかと思います。
以下、個人的に学びのあった箇所についてのメモ。
・クシャーン朝の仏典結集は仏教教団の宣伝要素が強く、必ずしも史実とはいいがたい
・倭が朝鮮半島から鉄を購入するための代価は、おそらく生口(奴隷)。当時の倭には他の世界が欲しがる商品も貴金属もなかった
・ソルジャーはコンスタンティヌス1世が作ったソリドゥス金貨のために戦うもの、からできた言葉
・テオドシウス1世の異教神殿の閉鎖や供儀行為の禁止は焚書坑儒や廃仏毀釈のようなもの
・ユスティニアヌスは西方領の経営に力を割きすぎたため、巨視的に見ればローマ帝国を疲弊させた
・胡麻、胡椒、胡瓜など「胡」がつくものはソグド人などの西域出身者が中国に持ち込んだもの
・則天武后の人材登用は能力主義に基づく公正なもので、その治世中は農民反乱も起こらず安定していた
・タラス河畔の戦いで麺がイスラーム世界に伝わった可能性もある
・平城京は渡来人が人口の6,7割を占めていたという説もあり、国際都市だった。
・マムルークは成人すれば奴隷から解放して軍人職につけることが多く、実態は奴隷より養子に近い
・宋代に入り胡蝶閉じが生まれ、栞を挟めばいつでも必要な個所を参照できるようになったため読書に革命が起きた
『人類5000年史Ⅰ』のレビューはこちらです。呂不韋がソグド系だったという衝撃情報(?)もあり。