明晰夢工房

読んだ本の備忘録や日頃思ったこと、感じたことなどなど

ネット上の誹謗中傷がどれだけ高くつくか教えてくれる漫画『しょせん他人事ですから ~とある弁護士の本音の仕事~』

 

 

1巻が無料になっているので読んでみた。ネットで誹謗中傷を受けた場合、被害者に何ができるのか、訴える場合手間やお金はどれくらいかかるのか……といったことを、わかりやすく教えてくれる内容だった。『しょせん他人事ですから ~とある弁護士の本音の仕事~』1巻の主人公はブログを運営している主婦で、「人妻風俗で働いている」などと根も葉もない噂を流されている。「こんな中傷をしている奴らがどんなダサい面をしてるのか見たい」という気持ちから、彼女は情報開示請求を行うと決意する。

 

開示請求にはそれなりに時間はかかる。このケースの場合、犯人側のプロバイダに情報開示請求をし、裁判をして情報開示を認めさせるまでに3~4か月かかると弁護士は話している。かなりの出費も覚悟しなくてはならない。開示請求の着手金に加え、まとめサイトの削除要請についての着手金、報酬金などで総額55万円かかっている。この先損害賠償請求などに進むとさらに出費がかさみ、漫画の中では結局100万円くらい必要になっている。

 

逆にいえば、これだけのコストを支払う覚悟があれば、誹謗中傷の犯人にかなりのダメージを負わせることもできる。この漫画のケースでは、主人公は加害者に350万円の慰謝料を請求していている(実際に取れる額はもっと低くなるが)。加害者が受けるのは経済的ダメージだけではない。家族との信頼関係や隣近所との交友にもひびは入る。この漫画の犯人は徹底的に追い詰められているわけではないが、これが現実なら離婚にまで至る可能性もある。遊び気分で中傷コメントを書いた代償は、高くつく。

 

この漫画でリアルだと感じるのは、加害者が大して反省しないことだ。自分で中傷しておきながら、やったのは自分だけではないと責任転嫁する。大勢が誹謗しているから、それだけ自分の責任も軽いと思い込んでしまっている。この漫画は「できるだけリアルなものにしたい」というコンセプトで描かれているとのことなので、実際こういう加害者は多いのだろう。ツイッターなどでも、有名人から開示請求をくらって「どうしてこんなひどいことをするんだ」と被害者意識全開で騒ぎたてる人を、時おり見かける。悪いことをした自覚がない人が反省するはずもない。

 

この漫画で描かれているとおり、多くの場合、加害者は後悔はしても反省などはしないようだ。ならこういう漫画を読んで、後悔を先に立ててもらえばネットの中傷も減るのだろうか。道徳で人を動かせないなら、頼りになるのは法律しかない。自分自身への戒めとしても、こうした作品で法律の怖さを知っておくことは大事だ。人の心ほど当てにならないものはないし、自分は絶対に加害者側にはならないと断言できない以上、加害者の負うリスクをあらかじめ経験しておくことには意味がある。