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明晰夢工房

主に自分語りです。

ウメハラの言うことなんて聞くな。

雑感 ゲーム

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一昨日、慶応大学でプロゲーマー・ウメハラの講演会がありまして。

その一部始終がtwitchで中継されてたんですが、いやあ……凄かった。

講演自体もすごく面白かったんだけど、その後の質疑応答コーナーでの回答する時のアドリブ力が本当に凄い。

どうしてこう、こんなに次から次へとよどみなく答えられるのか。

トーク力完全に極まってますね、これは。

いかに彼が普段から物事を深く考えているのか、よくわかる内容だったと思います。

 

講演はこちらから聞くことができます。

強キャラで勝っても楽しくない

実はこの講演会、もともとはタイトル通り「一日一つだけ強くなる」という話をする予定だったようですが、直前に話す内容を変えたそうです。

なぜかというと、ウメハラが数日前にあることに気付いたから。

その「気付いたこと」というのは、「人の期待に応えてはいけない」という事。

(内容としては1時間位目からの話です)

 

これだけ聞くと何だそれは?と思ってしまいますが、話を聞いているとこれが実はかなり深い話だということがわかってきます。

 

ここ2年ばかり、ウメハラはどうも毎日が充実してなかったそうです。

いよいよ中年クライシスがやってきたのか、格ゲーを極めすぎてもう強くなれないと悟ったのか?と思ったんですが、どうもそういうことではないらしい。

 

飲み会に行けば楽しいし、ゲームだって今でも真剣に取り組める。

深刻な不安に襲われるというわけでもない。

でも、何かがつまらない。楽しくない。

そのつまらなさの正体が「他人の期待に応えようとしていたからだ」と彼は言うわけです。

 

最近、ストリートファイター5ではキャラのバランス調整が行われています。

ここで、ウメハラのメインキャラであるリュウは弱くなりました。

代わってガイルがとても強くなった。

これ、自分では直接触ってないから詳しいことはわからないんですが、とにかくガイルは強くなったのでウメハラも一時期サブキャラとしてガイルを使っていたわけです。

 

ウメハラはプロゲーマーであり、試合では勝つことを求められています。

だからガイルが強くなったのなら、ここはガイルを使うのが「プロ」としては正解、ということになる。

 

でもウメハラはその道は選ばないんです。

なぜかわからないけれど、弱くなったはずのリュウを使っている方が、楽しい。

子供の頃に味わった充実感を今でも味わえる。

たったそれだけの理由で、彼はリュウを使い続けることを選ぶ。

 

ウメハラが言うには、強キャラになったガイルを選んでも、それは「自分で決めていないことになる」んです。

勝つことを求められているから強キャラを選ぶのなら、それは他人の期待に応えているだけで、自分は納得していない。

スポンサーだってついているのだし、プロゲーマーとしてはより勝てそうなガイルを選ぶべきなのかもしれない。

 

でも結局、ウメハラは自分の気持ちに従ってリュウを選んだ。

それで今、人生が楽しくてしょうがないんだ、とまで言ってるんです。

自分で決めるというのがここまで大事なことだったのかと。

 

こういうことができるのは、彼が一面では「プロゲーマー」でありつつ、もう1本の軸足を「一個人としてのゲーマー」に置いているからではないかと思います。

「プロ」としての自分が全てなら、強キャラを使って結果を出さなくてはいけない。

しかし1ゲーマーとしてはそれでは楽しめないし、その状態で戦い続けるのは本当にいいことなのか。

 

それを考えていくと、「プロであり続けるためには、アマチュアとしての自分の気持も大事だ」ということになるのかもしれません。

ゲームはプロゲーマーにとっては仕事であると同時に、娯楽でもある。

そのことを忘れてしまってはいけない、ということなのかもしれない。

 最強のハイスペ男を選ぶのが「正解」か?

で、ここでウメハラが引き合いに出している話がこれまた面白いんです。

彼の知人の女性で、とにかく母親が彼氏に高条件を求めてくる、という人がいる。

今付き合ってる人がいるのに、常にもっといい条件の相手を探せるように努力しなさい、なんてことを言われるんだそうです。

そのために常に出会いの場に顔を出せと。

 

凄い親もいるものだなと思いますが、出会いを探し続けた努力の成果なのか、ついに彼女の前に完璧な条件を備えた男が現れたのです。

東大卒で一流企業に勤めていて高収入、背も高いし話も面白い。

家柄もいいし食事の趣味も合う。

しかもどうやら彼は彼女のことが好きであるらしい。

 

もうこれ以上は望みようがないくらいのハイスペ男ですね。

スト5でいえばガイルに匹敵する強キャラ。

条件面だけ考えれば、選ばない理由がない。

 

でも結局彼女はその男性は選ばず、別の男性と付き合い始めたのです。

その人は東大ハイスペ男と比べればお金も持っていないし、別にかっこいいというわけでもない。

彼は条件面だけ考えれば、全てにおいて東大ハイスペ男には勝てない。

でも何か「話が面白い」。一緒にいてしっくりくる。

ただそれだけの理由で、彼女は親が推奨するハイスペ男ではなく、その男性を選んだ。

ウメハラが「ちょっと弱くなったけど、面白そう」という理由だけでリュウを選んだように。

 

ここでウメハラは言います。

「学歴が高いとか家柄が良いとか顔が良いとか、それは全部他人の価値観ですよ」と。

そこには、一番肝心なはずの「自分の気持」がどこにも入っていない。

自分の本音を押し殺して、他人に合わせて生きて、それで楽しいのか?と彼は問うているわけです。

 

ここで、「いや、付き合う相手は全部自分の気持で決めてもいいけど、仕事は結果を求められるんだからそうはいかないだろ?」という疑問が出てくる人もいると思います。

そういう人に対する回答も、実はウメハラはちゃんと用意していました。

そのことが、質疑応答できちんと示されています。

 「やりたいこと」と「やらなければいけないこと」の折り合いをどうつけるのか

質疑応答のコーナーに移って、最初に出た質問がこれです。

理系の大学生が、「自分のやりたいことは世間には認められないことだけれど、本当はその道に進みたい。でも大学の授業にも出なければいけないし、そのあたりをどうバランスを取っていけばいいのか」と質問しています。

これに対するウメハラの回答が、実に振るっている。

 

この質問に、ウメハラはまず「本気でやりたいことがあるのなら、折り合いなんてつけてる場合じゃない」と答えます。

でもこれが必ずしも「正解」でないことも、ウメハラはよく理解している。

自分がリスキーな生き方をしてきたことはよく知っているから、「でも、普通にサラリーマンをして平和な家庭を築くのもいい人生だし、そう思うのなら社会人とやりたいことを平行してやっていけばいい」と彼は言う。

 

徹底してやりたいことだけを追求するのもいいし、社会人としての基盤をしっかり築きながら、余った時間でやりたいことをするのもいい。

どちらを選ぼうが、正解ということはないんです。

ここで大事なことは、「自分で決める事」だとウメハラは言います。

 

そしてここから先が凄いところなんですが、

「もしやりたいこととやるべきことは分けた方がいいと思うのなら、そうすればいい。でもその『折り合いをつける』というのが、人からそう言われたからそうするのか、自分の経験から得た人生哲学でそうするのかによって、あとで後悔するかどうかが違ってくる」とウメハラは語っています。

 

これ、言い方はすごく柔らかくて丁寧なんだけど、要するにウメハラ「俺の言うことになんか従うな」って言っているわけですよね。

やりたいことと現実に折り合いをつけるか、やりたいことをどこまでも貫くのか。

別にどっちを選んでもいいんだけど、「ウメハラが好きに生きろと言ってるからそうする」というのは駄目なんです。

それは自分の肚から出てきた言葉ではないし、ウメハラという「権威」に縋っているだけだから。

それで結果として失敗したら、「俺はウメハラの言う通りにしたのに!」と、自分の失敗を責任転嫁することになるかもしれないですからね。

 

だから、「仕事は結果を求められるから、他人の期待には応えないといけない」ってその人が心から思うんだったら、そこはやはりそうするべきなんですよ。

弱いけどリュウを使うというのは、あくまでウメハラにとっての正解。

ガイルは強キャラなんだから俺はこいつで勝つ、と思うのなら、ガイルを選ぶべきなんです。

結局いちばん大事なのは、自分の決断に責任を持つ、ということだから。

 

リュウを使って最大のライバル・infitrationに勝ったウメハラ

 

今のところ、TOPANGAリーグではリュウを使って苦戦しているウメハラですが……

今後、彼がどのような進化を遂げていくのかはまだ楽しみにしています。

と言うのは、彼は以前韓国の格ゲーチャンピオンinfirtrationにリュウで勝っているからです。

 

2013年の時点では世界最強の豪鬼だったinfirtrationの豪鬼

誰もが彼に勝ちたいと、虎視眈々と狙っていました。

このバージョンのスーパーストリートファイター豪鬼は最強キャラの一角でしたが、このときもウメハラリュウ豪鬼に挑んでいます。

 

東大生プロゲーマー・ときども使っていた強キャラの豪鬼

リュウだって弱くはありませんが、キャラランキングでは豪気よりは評価が低い。

しかしウメハラはinfirtrationの動画を見て研究を重ね、満を持して勝負を挑み、見事infirtrationを破ります。

 

この試合には本当に感動しましたよ。

最強キャラを最高の人間性能で操る男を、格下のリュウで倒すんですからね……

ウメハラの語るリュウの楽しさというのは、こういう所にあるのかもしれません。

最強キャラで普通に買っても、それは当たり前のことが起きているだけ。

普通でないことをしてみせるという心意気が、ウメハラの考える「プロゲーマー」なのでしょう。

 

ウメハラは終始一貫「成長する方法」しか語っていない

 

勝ち続ける意志力 (小学館101新書)

勝ち続ける意志力 (小学館101新書)

 

 ウメハラという人は最初の著書から「どうすれば人は成長することができるのか」ということを一貫して語り続けているわけですが、それはこの講演でも一切ぶれていませんでした。

 

世の成功者の多くは、成功者になってしまうと「成功する方法」を語り始めます。

世の中がそれを求めるからだろうし、商売としては成功ノウハウは一ジャンルを形成しています。

でもウメハラはそういう「他人の期待」には応えず、ひたすら成長する方法だけを語り続ける。

 

彼がどこまでもストイックに成長だけを追求していくのは、結局、後悔せずに生きて行くにはそれしかない、と考えているからでしょう。

ウメハラは「好きなことをすれば成功する」みたいな、薄いライフハッカーが言うようなことは一切語りません。

何しろ彼にとって好きなことというのは、「解けない呪い」だから。

 

いくら好きなことを追求しようが成功は望めないかもしれないし、それどころか世間的な成功からは遠ざかることもある。

こういうところから目をそらさないのは、彼の誠実さだと思います。

本当に責任感の強い人は、成功なんて請け負わない。

saavedra.hatenablog.com

 結局、成功と言うのは結果に過ぎないし、こうすれば確実に成功できる、というノウハウなんてどこにもありません。

そんなものがあれば、世の中の人間は全員成功しているでしょう。

でも、成功という結果はコントロールできなくても、どんな道を歩むかを自分でよく考えて決めれば納得の行く人生を生きることはできるし、成長を求め続ければ日々を充実させることもできる。

それは十分自分でコントロールできることなんだ、と彼は言っているわけです。

 

成長し続ければ、結果として成功もついてくるのだ、という人もいます。

でもそれだって、約束できるようなものでもありません。

だとすれば、追求できるのはやはり成長しかない。

PS2の名作『大神』の中でオキクルミが語っているように、 一つの道を歩き続け、己を磨き続けることに価値がある。

それを自分の生き方として見せているからこそ、ウメハラの言葉に多くの人が耳を傾けるようになったのだと思います。