明晰夢工房

読んだ本の備忘録や日頃思ったこと、感じたことなどなど

2023-01-01から1年間の記事一覧

近代仏教学のつくりあげた「ブッダ神話」を解体しブッダの実像に迫る好著『ブッダという男』

ブッダという男 ――初期仏典を読みとく (ちくま新書) 作者:清水俊史 筑摩書房 Amazon 19世紀以降、仏教研究は初期仏典を批判的に考察することで、「歴史のブッダ」を復元しようと努めてきた。瞬間移動や空中浮遊など、超常能力を用いる「神話のブッダ」にかわ…

【書評】御成敗式目を「歴史の覗き窓」として鎌倉時代を理解できる良書!佐藤雄基『御成敗式目 鎌倉武士の法と生活』

御成敗式目 鎌倉武士の法と生活 (中公新書) 作者:佐藤雄基 中央公論新社 Amazon 中世法は面白い!と感じられる一冊だった。これはすぐれた御成敗式目入門書であるだけでなく、この法を通じて鎌倉武士や地頭・女性・庶民の姿を浮かび上がらせてくれる良書だ。…

有料記事は自分が読みたい記事を書けばいい

はっきり言うと、有料記事はブロガー間格差拡大サービスだと思っている。記事を売ることで有名ブロガーはさらに豊かになるチャンスが広がる。人気者が知名度だけでなく富も手にする一方、知名度のない人にチャンスは少ない。誰でも記事を売れるようになった…

儲からなくたっていい!有料記事には「お金以外の3つのメリット」がある

まず最初にお詫び申し上げます。「儲からなくたっていい!」と書いてしまいましたが、有料記事を書く以上、私もお金がほしいと思っています。薄皮チョコパンが一袋4個入りになってしまい、通勤手当が課税されるとも噂される昨今、お金が欲しくないはずがあり…

アフリカの国際ロマンス詐欺集団「ヤフーボーイ」たちの驚くべき実態を描く『ルポ 国際ロマンス詐欺』

ルポ 国際ロマンス詐欺(小学館新書) 作者:水谷竹秀 小学館 Amazon 「僕はあなたに100万回の笑顔を送っている、そのうちの1つは今日のために、もう1つは明日のために」こんな言葉を日本人から聞かされたら、どう思うだろうか。まず胡散臭い、という感情が先…

【書評】『土偶を読む』検証を通じて縄文沼に誘ってくれる良書『土偶を読むを読む』

土偶を読むを読む 作者:望月昭秀,小久保拓也,佐々木由香,山科哲,山田康弘,金子昭彦,菅豊,白鳥兄弟,松井実,吉田泰幸 文学通信 Amazon 『土偶を読む』で示された「土偶は植物の姿をかたどったもの」との読み解きは明快で斬新だった。だが斬新な説だから正しい…

世界史の鼓動が聴こえてくる漫画『天幕のジャードゥーガル』2巻までの感想

天幕のジャードゥーガル 1 (ボニータ・コミックス) 作者:トマトスープ 秋田書店 Amazon 天幕のジャードゥーガル 2 (ボニータ・コミックス) 作者:トマトスープ 秋田書店 Amazon これはある意味、世界史そのものを描いた作品だ。かつてモンゴル史家の岡田英…

ソグド人は唐建国や玄武門の変にも関わっていた──森部豊『唐 東ユーラシアの大帝国』

唐―東ユーラシアの大帝国 (中公新書) 作者:森部豊 中央公論新社 Amazon ソグド人といえば、シルクロードで東西交易に従事した民族というイメージが強い。だが『唐──東ユーラシアの大帝国』を読むと、唐の政治・軍事にも深くかかわっていることがわかる。この…

「遼来来」は「張遼さんおいでおいで」という意味になってしまうらしい

三国志 運命の十二大決戦 (祥伝社新書) 作者:渡邉義浩 祥伝社 Amazon 遼来来。ご存じのとおり、張遼が来た!という意味だ。泣く子を黙らせるために使われた点では、日本における「蒙古が来た」と似たようなフレーズだが、実は「遼来来」では「張遼さん来て来…

【感想】異世界転生版ゲームオブスローンズとして読める?『転生令嬢と数奇な人生を1 辺境の花嫁』

転生令嬢と数奇な人生を1 辺境の花嫁【電子書籍限定 特典イラスト付】 作者:かみはら 早川書房 Amazon 早川書房が「異世界転生版ゲームオブスローンズ」と宣伝している『転生令嬢と数奇な人生を1 辺境の花嫁』を読んだ。 ゲームオブスローンズは最初のほう…

「三方ヶ原の戦いは偶発的に起こった」という説

徳川家康の最新研究 伝説化された「天下人」の虚構をはぎ取る (朝日新書) 作者:黒田 基樹 朝日新聞出版 Amazon 三方ヶ原合戦の戦いについて、実態を伝える当時の史料はない。このため従来は『三河物語』の内容に基づき、家康が自領を通過する武田軍を見過ご…

かっこいいチョンマゲのやめ方

日本史を暴く-戦国の怪物から幕末の闇まで (中公新書 2729) 作者:磯田 道史 中央公論新社 Amazon 磯田道史氏は「江戸人はどんな手順でチョンマゲを切って新しいヘアスタイルにしたのか」と子どもに訊かれ、答えに窮したことがあったという。子供が考えた手順…

【書評】脚光を浴びたことのない古代ローマ人50人の生活を描く『古代ローマごくふつうの50人の歴史 無名の人々の暮らしの物語』

古代ローマ ごくふつうの50人の歴史 ―無名の人々の暮らしの物語 作者:河島思朗 さくら舎 Amazon 古代ローマの生活史の本は何冊か出ているが、中でもこれは充実している。古代ローマ時代を生きた無名の人々が50人も紹介されているので、これらの人々の暮ら…

人を信じる者と疑う者、どっちが探偵にふさわしい?米澤穂信『本と鍵の季節』

本と鍵の季節 (集英社文庫) 作者:米澤穂信 集英社 Amazon ここに二人の人間がいるとする。前者は性善説論者、後者は性悪説論者だ。あなたはどちらに探偵役をまかせたいだろうか。個人差はあるだろうが、多くの人が後者に探偵役を頼むのではないだろうか。現…

グイン・サーガがKindle Unlimited入りしたと聞いてノスフェラスの思い出がよみがえってきた

www.hayakawabooks.com そうか、とうとうグインサーガもKindle Unlimited入りか……と、この記事を読んでしばらく感慨にふけってしまった。正編と外伝合わせて150巻以上、栗本薫が生前書いたものが読み放題対象になっている。これを全部紙の本でそろえるのは大…

『完訳 華陽国志』の巴志の部分が志学社のサイトで読めます

【試し読み公開】ご好評頂いている『完訳 華陽国志』、最初の「巴志」がまるっと読める約30ページ太っ腹の試し読みPDFをご用意致しました! 購入の検討にぜひお読み頂けましたら幸いです!!https://t.co/qD6tTWeoxi — 志学社 (@shigaku_sha) 2023年4月4日 …

『中世への旅 都市と庶民』『中世への旅 農民戦争と傭兵』も復刊決定!

『中世への旅 騎士と城』につきまして、皆様本当にありがとうございました。と、いうわけで。『中世への旅 都市と庶民』『中世への旅 農民戦争と傭兵』も復刊のはこびとなりました。詳細きまりしだい告知いたします。#ヒストリ屋#中世ヨhttps://t.co/a8JMYsU…

「カール禿頭王は本当に禿げていたか」を考察した論文があった

saavedra.hatenablog.com 中世ヨーロッパはあだ名の時代だ。似たような名前が多くて区別しにくいので、カロリング朝時代には単純王や短躯王、敬虔王など、さまざまなあだ名が歴史書に登場してくる。これらカロリング朝諸王の中、とりわけ印象に残るのは「禿…

緑色の表紙の本ばかり選ぶと何が読めるのか

togetter.com 表紙が緑色の本ばかり選ぶ人がいるらしい。緑が表紙のどれくらいの割合を占めていればいいのか、表紙とは背表紙も含むのか、などの疑問がわくが、そこはあまり細かく考えないことにして、「とにかく緑っぽい本」を選ぶと何が読めるのか試してみ…

『中世への旅 騎士と城』が無事重版決定したので内容を紹介する

『中世への旅 騎士と城』(H.プレティヒャ/平尾浩三/白水社)書泉限定復刊!新刊での入手が困難だった本書がこの度、弊社限定で大復活!!騎士文化最盛期、12世紀から13世紀のドイツを中心に、騎士たちの日常を生き生きと描き出す最良の手引書!#中世ヨ#ヒス…

「風流天子」徽宗皇帝の野心とチベットへの軍事行動

草原の制覇: 大モンゴルまで (岩波新書) 作者:崇志, 古松 岩波書店 Amazon 宋の徽宗皇帝は、一般的には風流人のイメージがある。水滸伝における徽宗は、芸術好きでプロレベルの画才をもつが、政治に無関心なため高俅や蔡京などの奸臣に朝廷を牛耳られる「被…

ネット上の誹謗中傷がどれだけ高くつくか教えてくれる漫画『しょせん他人事ですから ~とある弁護士の本音の仕事~』

しょせん他人事ですから ~とある弁護士の本音の仕事~ 1 (黒蜜コミックス) 作者:左藤真通,富士屋カツヒト,清水陽平 白泉社 Amazon 1巻が無料になっているので読んでみた。ネットで誹謗中傷を受けた場合、被害者に何ができるのか、訴える場合手間やお金はど…

白起の最後の台詞と史記の因果応報論

中国の歴史(二) 陳舜臣 中国の歴史 (講談社文庫) 作者:陳舜臣 講談社 Amazon 陳舜臣『中国の歴史』2巻を読み返している。この巻は諸子百家の活躍や始皇帝の中国統一、項羽と劉邦の対決、漢と匈奴の戦いなど古代中国史のハイライトを描いているので、読みど…

ツッコミ過多の社会では「なんもしない」人の価値が高まる『レンタルなんもしない人の"もっと"なんもしなかった話』

レンタルなんもしない人の“もっと”なんもしなかった話 作者:レンタルなんもしない人 晶文社 Amazon マキタスポーツ氏が『一億総ツッコミ社会』で、誰もがプチ評論家と化した世の中の息苦しさを分析したのは2012年のことだ。あれから11年が経ち、令和の日本で…

【書評】まるで見てきたように古代アテネの一日を再現する一冊『古代ギリシア人の24時間 よみがえる栄光のアテネ』

古代ギリシア人の24時間: よみがえる栄光のアテネ 作者:フィリップ・マティザック 河出書房新社 Amazon 歴史本のジャンルではここ最近、生活史を扱った本が増えてきた。この『古代ギリシア人の24時間 よみがえる栄光のアテネ』古代ギリシア人の生活に光を当…

行動ダイアリーをつけてみたら読書量がかなり増え、日々の充実感もアップした

最近、余暇の時間に何をしても充実感を感じられない日々が続いていた。状況を打開するため、「行動ダイアリー」をつけ始めた。行動ダイアリーとは認知行動療法の創始者アーロン・ベックの考案したもので、実践方法は簡単。日々の行動について、1時間ごとに「…

有名人には有名税があり、無名な人には無名控除がある

はてなブックマークの話題が一部で盛んになっている。私もこの話題に一枚嚙もうかと思ったが、よくよく考えると自分にはあまり関係ないことに気づいた。何人かのブロガーはこの件でブックマーカーを批判しているが、それは彼らが有名で、ブックマーカーに叩…

ソード・ワールド短編集がKindle Unlimitedで読み放題対象なので『レプラコーンの涙』を読んだ

ソード・ワールド短編集 レプラコーンの涙 (富士見ファンタジア文庫) 作者:水野 良 KADOKAWA Amazon ファンタジー小説は作品ごとに世界観も設定も違うので、読みはじめるハードルが少し高い。でも慣れ親しんだ世界観ならすぐストーリーに入っていける。それ…

ゲームブックはファミコンを買ってもらえなかった子供たちの心の隙間を埋めてくれた

www.4gamer.net イアン・リヴィングストンとスティーブ・ジャクソン、このゲームブックの両巨頭の名を懐かしく思い出す人は多いだろう。80年代後半、日本にファンタジーというジャンルが根付きつつあった時代、ゲームブックもこの世界への入り口として大きな…

【書評】人を悪行に駆り立てるのは共感だった──ルドガー・ブレグマン『Humankind 希望の歴史(下)』

ランキング参加中読書 Humankind 希望の歴史 下 人類が善き未来をつくるための18章 (文春e-book) 作者:ルトガー・ブレグマン 文藝春秋 Amazon 『Humankind 希望の歴史』上巻においてルドガー・ブレグマンはスタンフォード監獄実験やミルグラムの電気ショック…