明晰夢工房

読んだ本の備忘録や日頃思ったこと、感じたことなどなど

読書

左利きはなぜ迫害を受けてきたのか?『左利きの歴史 ヨーロッパ世界における迫害と称賛』

左利きの歴史:ヨーロッパ世界における迫害と称賛 作者:ピエール=ミシェル・ベルトラン 白水社 Amazon 「左利きの人々と、はげ頭の人々と、赤毛の人々は、この世にふさわしい人間ではない。というのも、赤毛の人々は赤茶の髪をしているし、左利きとはげ頭の…

3カ月間無料キャンペーン中のKindle Unlimitedで講談社現代新書&講談社選書メチエが大量に読める

アマゾンプライムデーが近くなったので、今年もKindle Unlimitedのキャンペーンが始まった。今回はプライム会員なら3カ月間無料で利用できるので、さっそく登録してみた。いつも読み放題対象の新書を調べているが、今回は講談社現代新書がかなりたくさん読め…

魔女狩りはなぜ近世ヨーロッパで最盛期を迎えたのか?池上俊一『魔女狩りのヨーロッパ史』

魔女狩りのヨーロッパ史 (岩波新書) 作者:池上 俊一 岩波書店 Amazon 魔女狩りという言葉は、しばしば「中世ヨーロッパ」とセットで用いられる。魔女狩りなどするのは迷信深い中世人だろう、という先入観があるのだろうか。だが『魔女狩りのヨーロッパ史』に…

なぜ秋田県では高齢女性(ババ)がヘラでアイスを盛るのか?杉山彰『ババヘラ伝説』

ババヘラ伝説 作者:杉山 彰 無明舎出版 Amazon 春先になると、秋田では公道沿いにビーチパラソルが立ち並ぶ。カラフルな傘の下では、売り子が金属のヘラでコーンにアイスを盛り付ける。秋田の夏の風物詩として知られるこの路上アイスは、おもに中高年女性が…

織田信長はいつから「革命児」扱いになったのか

www.youtube.com 呉座勇一さんが信長評の変遷について語っている。この動画はかなりよくまとまっていて、動画の後半(1:10~あたり)では信長の「革新性」は本当かを検証しているので、信長の実像を知りたい人には参考になりそうだ。今回興味を惹かれたのは…

プロテスタンティズムが経済発展に貢献した本当の理由とは?『経済成長の起源 豊かな国、停滞する国、貧しい国』

「経済成長」の起源:豊かな国、停滞する国、貧しい国 作者:マーク・コヤマ,ジャレド・ルービン 草思社 Amazon 「経済成長には文化が重要な影響を与えている」という主張でもっとも有名なものが、ヴェーバーの『プロテスタンティズムの精神と資本主義の倫理』…

司馬遼太郎人気を支えた「大衆歴史ブーム」はなぜ生まれたのか?福間良明『司馬遼太郎の時代 歴史と大衆教養主義』

司馬遼太郎の時代-歴史と大衆教養主義 (中公新書 2720) 作者:福間 良明 中央公論新社 Amazon 「司馬さんの書かれるものは日本外史とでも呼ぶべき種類の史書ではあるまいか」とは、有吉佐和子の『坂の上の雲』評だ。このように、司馬遼太郎作品はたんなる歴史…

古代ギリシア民主政の真実とは?歴史学者が「衆愚政」への異議を唱える

古代ギリシアの民主政 (岩波新書 新赤版 1943) 作者:橋場 弦 岩波書店 Amazon 古代ギリシアの民主政は、しばしば「衆愚政」とセットで語られる。だが『古代ギリシアの民主政』によれば、『歴史学者が「衆愚政」という、価値判断の込められた語を用いてギリシ…

古代ローマ人が奴隷の買い方からマネジメント法・解放の仕方まで教えてくれる貴重な一冊『奴隷のしつけ方』

奴隷のしつけ方 作者:ジェリー・トナー マルクス・シドニウス・ファルクス 太田出版 Amazon 古代ローマにおいて、人口の二割程度は奴隷だったといわれる。奴隷なくしてローマ社会は成り立ないので、彼らにきちんと働いてもらわなくてはいけない。といっても…

【書評】御成敗式目を「歴史の覗き窓」として鎌倉時代を理解できる良書!佐藤雄基『御成敗式目 鎌倉武士の法と生活』

御成敗式目 鎌倉武士の法と生活 (中公新書) 作者:佐藤雄基 中央公論新社 Amazon 中世法は面白い!と感じられる一冊だった。これはすぐれた御成敗式目入門書であるだけでなく、この法を通じて鎌倉武士や地頭・女性・庶民の姿を浮かび上がらせてくれる良書だ。…

アフリカの国際ロマンス詐欺集団「ヤフーボーイ」たちの驚くべき実態を描く『ルポ 国際ロマンス詐欺』

ルポ 国際ロマンス詐欺(小学館新書) 作者:水谷竹秀 小学館 Amazon 「僕はあなたに100万回の笑顔を送っている、そのうちの1つは今日のために、もう1つは明日のために」こんな言葉を日本人から聞かされたら、どう思うだろうか。まず胡散臭い、という感情が先…

【書評】『土偶を読む』検証を通じて縄文沼に誘ってくれる良書『土偶を読むを読む』

土偶を読むを読む 作者:望月昭秀,小久保拓也,佐々木由香,山科哲,山田康弘,金子昭彦,菅豊,白鳥兄弟,松井実,吉田泰幸 文学通信 Amazon 『土偶を読む』で示された「土偶は植物の姿をかたどったもの」との読み解きは明快で斬新だった。だが斬新な説だから正しい…

「遼来来」は「張遼さんおいでおいで」という意味になってしまうらしい

三国志 運命の十二大決戦 (祥伝社新書) 作者:渡邉義浩 祥伝社 Amazon 遼来来。ご存じのとおり、張遼が来た!という意味だ。泣く子を黙らせるために使われた点では、日本における「蒙古が来た」と似たようなフレーズだが、実は「遼来来」では「張遼さん来て来…

「三方ヶ原の戦いは偶発的に起こった」という説

徳川家康の最新研究 伝説化された「天下人」の虚構をはぎ取る (朝日新書) 作者:黒田 基樹 朝日新聞出版 Amazon 三方ヶ原合戦の戦いについて、実態を伝える当時の史料はない。このため従来は『三河物語』の内容に基づき、家康が自領を通過する武田軍を見過ご…

かっこいいチョンマゲのやめ方

日本史を暴く-戦国の怪物から幕末の闇まで (中公新書 2729) 作者:磯田 道史 中央公論新社 Amazon 磯田道史氏は「江戸人はどんな手順でチョンマゲを切って新しいヘアスタイルにしたのか」と子どもに訊かれ、答えに窮したことがあったという。子供が考えた手順…

【書評】脚光を浴びたことのない古代ローマ人50人の生活を描く『古代ローマごくふつうの50人の歴史 無名の人々の暮らしの物語』

古代ローマ ごくふつうの50人の歴史 ―無名の人々の暮らしの物語 作者:河島思朗 さくら舎 Amazon 古代ローマの生活史の本は何冊か出ているが、中でもこれは充実している。古代ローマ時代を生きた無名の人々が50人も紹介されているので、これらの人々の暮ら…

『完訳 華陽国志』の巴志の部分が志学社のサイトで読めます

【試し読み公開】ご好評頂いている『完訳 華陽国志』、最初の「巴志」がまるっと読める約30ページ太っ腹の試し読みPDFをご用意致しました! 購入の検討にぜひお読み頂けましたら幸いです!!https://t.co/qD6tTWeoxi — 志学社 (@shigaku_sha) 2023年4月4日 …

『中世への旅 都市と庶民』『中世への旅 農民戦争と傭兵』も復刊決定!

『中世への旅 騎士と城』につきまして、皆様本当にありがとうございました。と、いうわけで。『中世への旅 都市と庶民』『中世への旅 農民戦争と傭兵』も復刊のはこびとなりました。詳細きまりしだい告知いたします。#ヒストリ屋#中世ヨhttps://t.co/a8JMYsU…

「カール禿頭王は本当に禿げていたか」を考察した論文があった

saavedra.hatenablog.com 中世ヨーロッパはあだ名の時代だ。似たような名前が多くて区別しにくいので、カロリング朝時代には単純王や短躯王、敬虔王など、さまざまなあだ名が歴史書に登場してくる。これらカロリング朝諸王の中、とりわけ印象に残るのは「禿…

緑色の表紙の本ばかり選ぶと何が読めるのか

togetter.com 表紙が緑色の本ばかり選ぶ人がいるらしい。緑が表紙のどれくらいの割合を占めていればいいのか、表紙とは背表紙も含むのか、などの疑問がわくが、そこはあまり細かく考えないことにして、「とにかく緑っぽい本」を選ぶと何が読めるのか試してみ…

『中世への旅 騎士と城』が無事重版決定したので内容を紹介する

『中世への旅 騎士と城』(H.プレティヒャ/平尾浩三/白水社)書泉限定復刊!新刊での入手が困難だった本書がこの度、弊社限定で大復活!!騎士文化最盛期、12世紀から13世紀のドイツを中心に、騎士たちの日常を生き生きと描き出す最良の手引書!#中世ヨ#ヒス…

「風流天子」徽宗皇帝の野心とチベットへの軍事行動

草原の制覇: 大モンゴルまで (岩波新書) 作者:崇志, 古松 岩波書店 Amazon 宋の徽宗皇帝は、一般的には風流人のイメージがある。水滸伝における徽宗は、芸術好きでプロレベルの画才をもつが、政治に無関心なため高俅や蔡京などの奸臣に朝廷を牛耳られる「被…

白起の最後の台詞と史記の因果応報論

中国の歴史(二) 陳舜臣 中国の歴史 (講談社文庫) 作者:陳舜臣 講談社 Amazon 陳舜臣『中国の歴史』2巻を読み返している。この巻は諸子百家の活躍や始皇帝の中国統一、項羽と劉邦の対決、漢と匈奴の戦いなど古代中国史のハイライトを描いているので、読みど…

ツッコミ過多の社会では「なんもしない」人の価値が高まる『レンタルなんもしない人の"もっと"なんもしなかった話』

レンタルなんもしない人の“もっと”なんもしなかった話 作者:レンタルなんもしない人 晶文社 Amazon マキタスポーツ氏が『一億総ツッコミ社会』で、誰もがプチ評論家と化した世の中の息苦しさを分析したのは2012年のことだ。あれから11年が経ち、令和の日本で…

【書評】まるで見てきたように古代アテネの一日を再現する一冊『古代ギリシア人の24時間 よみがえる栄光のアテネ』

古代ギリシア人の24時間: よみがえる栄光のアテネ 作者:フィリップ・マティザック 河出書房新社 Amazon 歴史本のジャンルではここ最近、生活史を扱った本が増えてきた。この『古代ギリシア人の24時間 よみがえる栄光のアテネ』古代ギリシア人の生活に光を当…

行動ダイアリーをつけてみたら読書量がかなり増え、日々の充実感もアップした

最近、余暇の時間に何をしても充実感を感じられない日々が続いていた。状況を打開するため、「行動ダイアリー」をつけ始めた。行動ダイアリーとは認知行動療法の創始者アーロン・ベックの考案したもので、実践方法は簡単。日々の行動について、1時間ごとに「…

kindle unlimitedにようやく中公新書が登場……でも読めるのはまだ一冊(2023年1月26日現在)

2カ月99円のキャンペーンをやっていたので、今月6日からkindle unlimitedを利用している。このサービスはいろいろな新書が読み放題になるのが強みだが、残念ながら中公新書はまだ読めず…… と思っていたら、先日偶然読み放題対象になっている新書を発見した。…

性善説と性悪説、どっちで生きるのが得?下園公太『寛容力のコツ──ささいなことで怒らない、ちょっとしたことで傷つかない』

寛容力のコツ―――ささいなことで怒らない、ちょっとしたことで傷つかない (知的生きかた文庫) 作者:下園 壮太 三笠書房 Amazon 萱野稔人『名著ではじめる哲学入門』によると、20世紀以降の哲学では性善説的な考えが優勢になっているそうだ。ヒューマニズムが…

「表現の自由」などとっくになくなっていた令和日本

みんなのユニバーサル文章術 今すぐ役に立つ「最強」の日本語ライティングの世界 (星海社 e-SHINSHO) 作者:安田峰俊 講談社 Amazon 安田峰俊氏の『みんなのユニバーサル文章術 今すぐ役に立つ「最強」の日本語ライティングの世界』を読んだ。1記事2000万PVを…

鬼はいつから退治できる存在になったのか──香川雅信『図説日本妖怪史』

図説 日本妖怪史 (ふくろうの本/日本の文化) 作者:香川雅信 河出書房新社 Amazon 平安時代、鬼は妖怪として最も恐れられる存在になっている。その証拠に、『今昔物語集』には数多くの鬼にまつわるエピソードが収録されている。だが『図説日本妖怪史』によれ…