明晰夢工房

読んだ本の備忘録や日頃思ったこと、感じたことなどなど

2022-01-01から1年間の記事一覧

ミイラ職人や陶工・書記・農夫など古代エジプト人の生活が物語風にわかる本『古代エジプトの日常生活』

古代エジプトの日常生活: 庶民の生活から年中行事、王家の日常をたどる12か月 作者:ドナルド・P・ライアン 原書房 Amazon 原書房からは古代ローマやギリシャ・中世イングランド・古代中国などの日常生活を扱った本が出版されているが、今冬『古代エジプトの…

「信長の軍隊は兵農分離していたから強い」は本当?平井上総『兵農分離はあったのか』

兵農分離はあったのか (中世から近世へ) 作者:平井 上総 平凡社 Amazon 「信長は特別な戦国大名」というイメージはいまだ根強く存在している。「特別さ」の要素のひとつとして、「信長の軍隊は兵農分離が進んでいたから強かった」というものがある。他の戦国…

【書評】信玄を外交戦で追い詰める家康、ついにはキレる信玄……三方ヶ原の戦いの全貌がわかる快著『新説家康と三方ヶ原合戦 生涯唯一の大敗を読み解く』

新説 家康と三方原合戦 生涯唯一の大敗を読み解く (NHK出版新書) 作者:平山 優 NHK出版 Amazon 家康の印象が大いに変わる一冊だった。従来、家康には忍耐強いイメージがある。武田信玄のや秀吉のような強大な勢力に苦しめられる姿を、大河ドラマなどで何…

「番長」の語源は平安時代の下級官人?

平安京の下級官人 (講談社現代新書) 作者:倉本一宏 講談社 Amazon 「番長」なんて言葉を聞かなくなって久しい。というより、現実世界でそんな存在を一度も目にしたことがない。クラスの不良集団は中学校の頃にはいたが、そのリーダー格が番長などと呼ばれて…

チェコとスロヴァキアの歴史を一冊で学べる良書『図説チェコとスロヴァキアの歴史』

図説 チェコとスロヴァキアの歴史 (ふくろうの本/世界の歴史) 作者:薩摩秀登 河出書房新社 Amazon チェコとスロヴァキア、両地域の歴史を通覧できる良書。著者の薩摩秀登氏は中公新書から『物語チェコの歴史』を上梓しているが、こちらでカバーしていないス…

ミャンマー軍はなぜ自国民を撃つのか?中西嘉宏『ミャンマー現代史』

ミャンマー現代史 (岩波新書) 作者:中西 嘉宏 岩波書店 Amazon ミャンマー軍が2021年のクーデターでスーチー政権から権力を奪って以来、大規模な抵抗運動が市民の間で広がった。これに対し、軍は弾圧で臨んだ。『ミャンマー現代史』5章を読むと、クーデター…

確証バイアスが「日本人は集団主義的」という文化ステレオタイプを生んだ──高野陽太郎『日本人論の危険なあやまち ―文化ステレオタイプの誘惑と罠―』

www.u-tokyo.ac.jp 「日本人は集団主義的である」という通説は間違っている、という記事が一部で反響を呼んでいた。この記事の参考文献としてあげられている高野陽太郎氏の『「集団主義」という錯覚 ― 日本人論の思い違いとその由来』は、2008年に刊行されて…

飢饉・間引き・百姓一揆……木枯し紋次郎は江戸天保期の社会矛盾に翻弄された男だった

木枯し紋次郎(一)~赦免花は散った~ (光文社文庫) 作者:笹沢 左保 光文社 Amazon 「あっしには関わりのねぇこって」──『木枯し紋次郎』をリアルタイムで視聴していない私でも、この台詞くらいは知っている。原作小説を読んでみたところ、この有名な台詞は…

ネット炎上の激化は社会比較説・沈黙の螺旋・集団的浅慮などが原因

眠れなくなるほど面白い 図解 社会心理学 日本文芸社 Amazon kndle unlimitedで『眠れなくなるほど面白い図解社会心理学』を読んでいたら、ネット炎上が激化する原因を解説している箇所があった。この本の28ページでは、ネット炎上が加速する原因として「社…

ウクライナに直接千羽鶴を送った人はいなかったらしい(ロザンの部屋の感想)

www.youtube.com ロザンの二人が「ウクライナに折り鶴」の件について語っているのをきのう知った。この動画で宇治原史規が語っているところによると、戦地のウクライナに直接折り鶴を送ろうとした人は確認できなかったそうだ。「ウクライナに折り鶴」議論の…

性善説と性悪説、どっちで生きるのが得?下園公太『寛容力のコツ──ささいなことで怒らない、ちょっとしたことで傷つかない』

寛容力のコツ―――ささいなことで怒らない、ちょっとしたことで傷つかない (知的生きかた文庫) 作者:下園 壮太 三笠書房 Amazon 萱野稔人『名著ではじめる哲学入門』によると、20世紀以降の哲学では性善説的な考えが優勢になっているそうだ。ヒューマニズムが…

「表現の自由」などとっくになくなっていた令和日本

みんなのユニバーサル文章術 今すぐ役に立つ「最強」の日本語ライティングの世界 (星海社 e-SHINSHO) 作者:安田峰俊 講談社 Amazon 安田峰俊氏の『みんなのユニバーサル文章術 今すぐ役に立つ「最強」の日本語ライティングの世界』を読んだ。1記事2000万PVを…

幸せになる方法は科学的に解明されつつある──『「幸せ」について知っておきたい5つのこと NHK「幸福学」白熱教室』

「幸せ」について知っておきたい5つのこと NHK「幸福学」白熱教室 (中経出版) 作者:NHK「幸福学」白熱教室制作班,エリザベス・ダン,ロバート・ビスワス=ディーナー KADOKAWA Amazon 幸せとは何か。どうすれば幸せになれるのか。これは古来、宗教や哲…

kindle unlimitedが2ヶ月99円キャンペーン開催中なので古典を読みたい人におすすめしてみる

プライム会員限定なのかよくわかりませんが、kindle unlimitedが2ヶ月99円のキャンペーンを開催中です。 前回(2020年年末ごろ)のキャンペーンは2ヶ月299円だったので、これにくらべてもかなりお得です。 このサービスは、古典がたくさん読みたい人には間違…

【感想】逢坂冬馬『同志少女よ、敵を撃て』

同志少女よ、敵を撃て 作者:逢坂 冬馬 早川書房 Amazon 本作の帯には桐野夏生の「これは武勇伝ではない。狙撃兵となった少女が何かを喪い、なにかを得る物語である」という一文が書かれている。「喪い」が先に来ているのは、この物語が大きな喪失で幕を開け…

鬼はいつから退治できる存在になったのか──香川雅信『図説日本妖怪史』

図説 日本妖怪史 (ふくろうの本/日本の文化) 作者:香川雅信 河出書房新社 Amazon 平安時代、鬼は妖怪として最も恐れられる存在になっている。その証拠に、『今昔物語集』には数多くの鬼にまつわるエピソードが収録されている。だが『図説日本妖怪史』によれ…

【書評】ウクライナ史を新書一冊で概観できる良書『物語ウクライナの歴史』

物語 ウクライナの歴史 ヨーロッパ最後の大国 (中公新書) 作者:黒川祐次 中央公論新社 Amazon この本のまえがきでは、「ウクライナ史最大のテーマは国がなかったこと」というウクライナ史家の言葉を紹介している。多くの国家においては歴史最大のテーマが民…

平維盛は本当に憶病な武将だったのか

平家物語 Blu-ray box(特典なし) 悠木碧 Amazon アニメ『平家物語』が6話で富士川の戦いを描いていた。この戦いで平家の大将を務めた平維盛はアニメ中では弟の資盛に「怖がり」と言われており、実際富士川の戦いでは源氏の大軍を前におびえる様子をみせてい…

キエフ・ルーシ公国の後継者はウクライナかロシアか──黒川祐次『物語ウクライナの歴史 ヨーロッパ最後の大国』

物語 ウクライナの歴史―ヨーロッパ最後の大国 (中公新書) 作者:黒川 祐次 中央公論新社 Amazon いま注目の既刊、黒川祐次著『物語 ウクライナの歴史 ヨーロッパ最後の大国』。ロシア帝国、ソ連時代を経ても、独自の文化を守り続けたウクライナ。本書は、スキ…

山田風太郎『人間臨終図鑑』で知る「かわいそうセンサー」の反応する場所

人間臨終図巻1<新装版> (徳間文庫) 作者:山田 風太郎 徳間書店 Amazon 中年男性が過労死しても顧みられないのは「かわいそうランキング」が低いからだ、といわれることがある。一般論としてはそうかもしれない。だが、山田風太郎『人間臨終図鑑』を読んでい…

kindle unlimitedを2ヶ月使ってみた感想とおすすめ本

kindle unlimitedを去年の11月9日から使いはじめて2ヶ月になろうとしている。2ヶ月299円の価格につられて試してみたサービスだが、100分de名著シリーズや光文社新訳の古典がたくさん読めること、新書もけっこう幅広く読めることなどが魅力で、最初の1ヶ月く…