明晰夢工房

読んだ本の備忘録や日頃思ったこと、感じたことなどなど

2020-01-01から1年間の記事一覧

【感想】古市憲寿『絶対に挫折しない日本史』

絶対に挫折しない日本史(新潮新書) 作者:古市憲寿 発売日: 2020/09/17 メディア: Kindle版 好き嫌いの分かれそうな本だ。この手の概説書はなるべく著者の色を消して通説とされているものを淡々と記述していくものと、著者の個性を前面に押し出すものとがあ…

【感想】冒険も結婚も「中動態」でしか記述できない?角幡唯介『そこにある山 結婚と冒険について』

そこにある山 結婚と冒険について 作者:角幡唯介 発売日: 2020/10/21 メディア: Kindle版 冒険と結婚を哲学する、といった趣の本だった。著者のことをよく知らないで読んだのだが、この本は冒険そのものを求めて読むと当てが外れるかもしれない。一方で、角…

岩波新書『シリーズアメリカ合衆国氏』『シリーズ中国の歴史』が電子書籍化

岩波書店の電子書籍、12月はすごいことになっています。『孤塁』『ブルシット・ジョブ』といった単行本から、少年文庫70点(!)、そして新書は『シリーズアメリカ合衆国史』『シリーズ中国の歴史』の配信が始まります。https://t.co/1t8HOadMsi pic.twitter…

【感想】佐藤厳太郎『伊達女』にみる歴史研究と歴史小説の幸福な関係

伊達女 作者:佐藤 巖太郎 発売日: 2020/11/06 メディア: 単行本 歴史小説には「そう来たか」がほしい。ここで言う「そう来たか」とは、史実(とされているもの)を意外な方向で解釈する、ということだ。この作品を読む人の多くは、伊達政宗の生涯についてお…

念仏は信じられない人も救ってくれる?ひろさちや『日本仏教史』

日本仏教史 posted with ヨメレバ ひろさちや 河出書房新社 2016年05月27日頃 楽天ブックス Amazon Kindle B'zの曲に「信じる者しか救わないセコい神さまより僕と一緒にいるほうがいいだろ」みたいな歌詞があるが、信じていない者を救ってくれる神様はいるだ…

ブログに「本当の感想」をもらうことの難しさ

togetter.com もうとっくにこの話題の旬は過ぎてしまっているが、改めて上記のまとめを読み返し、いろいろと思うことがあったのでここに書いておく。 作家もそうだが、何かしら創作をしている人は、単に創りたいものがが創れればそれで満足、という人ばかり…

小林一茶の夜の営みの回数を記録した『七番日記』に何を読みとるか

性からよむ江戸時代――生活の現場から (岩波新書) 作者:沢山 美果子 発売日: 2020/08/21 メディア: 新書 小林一茶の残した『七番日記』という日記がある。これは大変貴重なものである。というのは、なんと一茶が妻との房事の回数を記録しているからである。江…

ヴァイキングは人間を生贄に捧げていたか

ドラマ『ヴァイキング』ではウプサラで人が神の犠牲に捧げられるシーンがある。アセルスタンもシーズン1ではここで殺されかけていたが、まだキリスト教を信じていることを見抜かれて犠牲になる資格がないということになり、助かった。 シーズン2ではアセルス…

【感想】『ヴァイキング』シーズン2(1話)でさらにヴァイキングの略奪の理由付けが明確になった

Vikings: Season 2 [DVD] [Import] メディア: DVD ドラマ『ヴァイキング』はシーズン1のドラマ終盤に入るとラグナルの兄、ロロの存在がクローズアップされてくる。ロロはヴァイキングの英雄として名声を勝ち得る弟に対し、いまひとつ冴えない己の現状に忸怩…

【感想】ドラマ『ヴァイキング』(シーズン1)はヴァイキングの残酷さとの距離の取り方が絶妙な歴史ドラマ

Vikings: Season 1/ [DVD] [Import] アーティスト:Vikings 発売日: 2013/10/15 メディア: DVD このドラマを観る前は、感情移入が難しいのではないかと思っていた。ヴァイキングを主人公に据える以上、どうしても略奪を描かざるをえない。ヴァイキング側から…

オオカミはどんな過程を経てイヌになったのか?アリス・ロバーツ『飼いならす──世界を変えた10種の動植物』

飼いならす――世界を変えた10種の動植物 作者:アリス ロバーツ 発売日: 2020/10/16 メディア: 単行本 イヌと人間とのかかわりは、従来思われていたより古いようだ。この本ではアルタイ山脈のラズボイニクヤ洞窟でみつかった動物の頭蓋骨を紹介しているが、3万…

森本公誠『東大寺のなりたち』に見る東大寺造立の社会的効果

東大寺のなりたち (岩波新書) 作者:森本 公誠 発売日: 2018/06/21 メディア: 新書 ピラミッドのような巨大建築物は、建設のために多くの人手を必要とするため、雇用対策として建設されるという一面がある。大仏はどうだろうか。奈良の大仏の造立に参加した人…

【感想】小川仁志・萱野稔人『闘うための哲学書』理性でいじめを止められるか?

闘うための哲学書 (講談社現代新書) 作者:小川仁志,萱野稔人 発売日: 2014/12/26 メディア: Kindle版 基本的にあまり哲学に興味がないのだが、この本のスピノザの『国家論』の内容を引きつついじめがなぜなくならないのか、を論じている箇所は面白い。萱野稔…

【感想】千葉ともこ『震雷の人』

震雷の人 作者:ともこ, 千葉 発売日: 2020/09/17 メディア: 単行本 安史の乱の混乱に巻き込まれ、敵味方に分かれた兄妹の運命を描く大河小説。主人公の采春は男以上に剣や弓を操る女傑で、安禄山の眼前では足で弓を射る腕前を披露する場面もあるなど、武侠小…

【書評】パニコス・パナイー『フィッシュ・アンド・チップスの歴史』

フィッシュ・アンド・チップスの歴史: 英国の食と移民 (創元世界史ライブラリー) 作者:パニコス・パナイー 発売日: 2020/09/17 メディア: 単行本 イギリス料理といえばフィッシュ・アンド・チップスをまず思い浮かべる人は多い。イギリスを代表する国民食で…

【朗報】講談社『中国の歴史』シリーズが講談社学術文庫に来る!

なんと累計150万部を達成したシリーズ「中国の歴史」全12巻、ついに学術文庫で発売開始ですᕦ(ò_óˇ)ᕤ pic.twitter.com/iISrdGp16P — 講談社学術文庫&選書メチエ (@kodansha_g) 2020年10月2日 日本だけでなく中国でもずいぶん売れた講談社の中国の歴史シリーズ…

森山至貴『10代から知っておきたいあなたを閉じ込める「ずるい言葉」』に見る「社会学者が嫌われる理由」

10代から知っておきたい あなたを閉じ込める「ずるい言葉」 作者:森山 至貴 発売日: 2020/08/18 メディア: Kindle版 togetter.com この本は少し前に「裏表紙がクソリプ大集合みたいな本」としてツイッターで話題になった。「あなたのためを思って言っている…

【感想】ヤマザキマリ・中野信子『パンデミックの文明論』

パンデミックの文明論 (文春新書) 作者:マリ, ヤマザキ,信子, 中野 発売日: 2020/08/20 メディア: 新書 人類は何度もパンデミックの危機に直面しているが、ローマ皇帝マルクス・アウレリウス帝の時代にも大規模なペストの流行があったことはあまり知られてい…

なぜ清朝の中国では産業革命が起きなかったのか?岡本隆司『「中国」の形成』

「中国」の形成 現代への展望 (シリーズ 中国の歴史) 作者:岡本 隆司 発売日: 2020/07/18 メディア: 新書 岩波新書のシリーズ中国の歴史の最終巻になるこの本のまえがきでは、アジアと西洋の「大分岐」についてふれている。18世紀の終わりころからイギリスな…

【感想】平山優『戦国の忍び』で「忍者」の最新研究に触れられる

戦国の忍び (角川新書) 作者:平山 優 発売日: 2020/09/10 メディア: Kindle版 この本の著者の平山優氏は『真田丸』の時代考証を務めていたことで知られている。大河ドラマにかかわって以来、氏はテレビ局や出版社から忍者についての問い合わせを受けていたが…

『講談社学習まんが日本の歴史』が本当に最新学説を取り入れているか確認してみた

rekishimanga.jp 日本史の学習マンガとしては一番新しいシリーズになる『講談社学習まんが日本の歴史』シリーズなのですが、監修者を見てみると6巻から9巻までは『応仁の乱』著者の呉座勇一氏の監修になっていました。 「古代から令和まで最新研究を網羅」と…

【感想】葉室麟『蛍草』

螢草 (双葉文庫) 作者:葉室 麟 発売日: 2015/11/12 メディア: 文庫 葉室麟作品の中でも『蛍草』はもっともストーリーがシンプルな部類の作品だ。武家の娘が女中になり、世話になった優しい主人夫婦の恩に報いるため、主人の危機を救おうと奔走する。最後には…

【感想】水野良『ロードス島戦記 誓約の宝冠1』は純然たる「戦記」になるか?

ロードス島戦記 誓約の宝冠1 (角川スニーカー文庫) 作者:水野 良 発売日: 2019/09/01 メディア: Kindle版 前作が神話や伝説だったとすれば、こちらは現実の歴史そのものというイメージになる。今回、ロードス島には英雄と呼べる人物はもういない。『ロードス…

【書評】中国歴史人物選『秦の始皇帝 多元世界の統一者』

秦の始皇帝―多元世界の統一者 (中国歴史人物選) 作者:籾山 明 メディア: 単行本 始皇帝の本は古いものだと、どうしても史記のエピソードを並べることに終始しがちだ。長平の戦い、呂不韋と出生の秘密、嫪毐の乱、荊軻の暗殺未遂事件、焚書坑儒と長城建設、全…

【感想】加藤九祚『シルクロードの古代都市 アムダリヤ遺跡の旅』

シルクロードの古代都市――アムダリヤ遺跡の旅 (岩波新書) 作者:加藤 九祚 発売日: 2013/09/21 メディア: 新書 94歳で亡くなるまで発掘の最前線に立ち続けた加藤九祚氏が、アムダリア遺跡で出土した発掘品についてまとめたもの。一番興味をひかれたのはやはり…

【感想】鈴木董『大人のための「世界史」ゼミ』

大人のための「世界史」ゼミ 作者:鈴木 董 発売日: 2019/09/28 メディア: 単行本(ソフトカバー) この本には「文化」「文明」に独自の定義がある。シュペングラーやトインビー、サミュエル・ハンチントンなどあまたの知識人がこれらの言葉を独自に定義して…

鉄砲一挺60万円、人間一人が10万円~……戦国時代の経済を俯瞰できる『戦国大名の経済学』

戦国大名の経済学 (講談社現代新書) 作者:川戸貴史 発売日: 2020/06/17 メディア: Kindle版 戦国大名の領国経営にはどれくらいお金がかかるのか?あるいは収入はどれくらいなのか?こういう疑問を持ったことがないだろうか。銭がなくては築城も戦争もできな…

【感想】檀上寛『陸海の交錯 明朝の興亡』

陸海の交錯 明朝の興亡 (シリーズ 中国の歴史) 作者:檀上 寛 発売日: 2020/05/21 メディア: 新書 明代はモンゴル史家から「暗黒時代」と評されることがある。では、明代の専門家はこの時代をどう見ているのか。中国史の概説としてはめずらしく明代史のみを取…

【感想】じゃき『最凶の支援職【話術士】である俺は世界最強クランを従える』は今一番おすすめのなろう小説

最凶の支援職【話術士】である俺は世界最強クランを従える 1 (オーバーラップ文庫) 作者:じゃき 発売日: 2020/06/25 メディア: Kindle版 一言でなろう小説といってもいろいろなものがあるんだな、というのが一読しての感想だった。本作『最強の支援職【話術…

【感想】渡辺靖『白人ナショナリズム アメリカを揺るがす「文化的反動」』

白人ナショナリズム アメリカを揺るがす「文化的反動」 (中公新書) 作者:渡辺靖 発売日: 2020/05/29 メディア: Kindle版 ブラック・ライブズ・マター運動が全世界で盛り上がりをみせる中、タイムリーな新書が出た。本書『白人ナショナリズム アメリカを揺る…