明晰夢工房

読んだ本の備忘録や日頃思ったこと、感じたことなどなど

日本史

確証バイアスが「日本人は集団主義的」という文化ステレオタイプを生んだ──高野陽太郎『日本人論の危険なあやまち ―文化ステレオタイプの誘惑と罠―』

www.u-tokyo.ac.jp 「日本人は集団主義的である」という通説は間違っている、という記事が一部で反響を呼んでいた。この記事の参考文献としてあげられている高野陽太郎氏の『「集団主義」という錯覚 ― 日本人論の思い違いとその由来』は、2008年に刊行されて…

飢饉・間引き・百姓一揆……木枯し紋次郎は江戸天保期の社会矛盾に翻弄された男だった

木枯し紋次郎(一)~赦免花は散った~ (光文社文庫) 作者:笹沢 左保 光文社 Amazon 「あっしには関わりのねぇこって」──『木枯し紋次郎』をリアルタイムで視聴していない私でも、この台詞くらいは知っている。原作小説を読んでみたところ、この有名な台詞は…

鬼はいつから退治できる存在になったのか──香川雅信『図説日本妖怪史』

図説 日本妖怪史 (ふくろうの本/日本の文化) 作者:香川雅信 河出書房新社 Amazon 平安時代、鬼は妖怪として最も恐れられる存在になっている。その証拠に、『今昔物語集』には数多くの鬼にまつわるエピソードが収録されている。だが『図説日本妖怪史』によれ…

平維盛は本当に憶病な武将だったのか

平家物語 Blu-ray box(特典なし) 悠木碧 Amazon アニメ『平家物語』が6話で富士川の戦いを描いていた。この戦いで平家の大将を務めた平維盛はアニメ中では弟の資盛に「怖がり」と言われており、実際富士川の戦いでは源氏の大軍を前におびえる様子をみせてい…

【書評】呉座勇一『頼朝と義時 武家政権の誕生』

頼朝と義時 武家政権の誕生 (講談社現代新書) 作者:呉座勇一 講談社 Amazon 本書の特徴をかんたんに言うと、「公武対立史観にとらわれない歴史叙述」になる。公武対立史観とは、公家と武家の対立関係を宿命的なものとみなす歴史観のことだ。この史観に立つと…

【書評】荘園を知れば日本中世史が圧倒的にわかる!伊藤俊一『荘園-墾田永年私財法から応仁の乱まで』

荘園 墾田永年私財法から応仁の乱まで (中公新書) 作者:伊藤俊一 中央公論新社 Amazon 学問とは本来面白いもの、ということがこの本を読むとよくわかる。本書『荘園-墾田永年私財法から応仁の乱まで』は、荘園という一見地味で硬いテーマを扱っているが、そ…

【書評】山本博文『殉教~日本人は何を信仰したか~』(kindle unlimited探訪4冊目)

殉教~日本人は何を信仰したか~ (光文社新書) 作者:山本 博文 光文社 Amazon これはキリシタンの殉教の様子をくわしく記録した貴重な一冊だ。一読して驚くのは、キリシタンたちの宗教的情熱の強さだ。彼らは微塵も死を恐れない。捕まれば火刑になるとわかっ…

【感想】火坂雅志『軒猿の月』

軒猿の月 (PHP文芸文庫) 作者:火坂 雅志 PHP研究所 Amazon 最近kindle unlimitedを使っているので、ここで読んだものの感想をいくつか。 『軒猿の月』は火坂雅志作品としては異色の作品集になる。大河ドラマ化された『天地人』をはじめとして骨太な歴史小説…

戦国時代に大進歩を遂げた京都のトイレ事情

京都〈千年の都〉の歴史 (岩波新書) 作者:高橋 昌明 岩波書店 Amazon 前近代の都市は大体どこもそうだが、古代の京都もかなり不衛生な都市だった。『京都<千年の都>の歴史』では、平安京の路上の様子について以下のように紹介している。 10世紀後半成立の『…

逃げ上手の若君1巻感想:新田義貞の影が薄い理由とは?

逃げ上手の若君 1 (ジャンプコミックスDIGITAL) 作者:松井優征 集英社 Amazon そつなくうまい漫画には感想が書きにくい。南北朝時代を舞台に少年漫画をやるのは難しそうだが、冒頭から鎌倉幕府が滅びるという逆境のなかで、三人の郎党と友情を育みつつ成長し…

かつて日本人が「猫食い」をしていた時代があった──真辺将之『猫が歩いた近現代──化け猫が家族になるまで』

猫が歩いた近現代―化け猫が家族になるまで 作者:真辺 将之 吉川弘文館 Amazon 現代ほど猫が愛されている時代もない。テレビをつければ岩合光昭が野良猫にカメラを向ける姿が映り、ツイッターを開けば「我が家の黒い妖怪」といった一文とともに日夜猫画像が流…

【書評】総勢31人の武人の生涯から南北朝時代を俯瞰できる『南北朝武将列伝 南朝編』

南北朝武将列伝 南朝編 戎光祥出版 Amazon 楠木正成や新田義貞・北畠顕家など有名どころから、南部師行・諏訪直頼などちょっとマイナーな人物まで南朝を支えた人物を網羅した本。「武将列伝」なので後醍醐天皇や後村上天皇の列伝はないが、執筆陣は全員が日…

末摘花はソグド人の血を引いていた?八條忠基『「勘違い」だらけの日本文化史』

「勘違い」だらけの日本文化史 作者:八條忠基 淡交社 Amazon 源氏物語のヒロインのなかでも末摘花が不器量だったことはよく知られている。末摘花のモデルは醍醐天皇の四子・重明親王の子源邦正だと考えられているが、この人物の容姿は末摘花に酷似している。…

戦国日本における「水軍」と「海賊」はどう違うのか?小川雄『水軍と海賊の戦国史』

水軍と海賊の戦国史 (中世から近世へ) 作者:雄, 小川 発売日: 2020/04/27 メディア: 単行本(ソフトカバー) 戦国時代の「海賊」としては瀬戸内海の来島村上氏や能島村上氏がよく知られている。ところで「海賊」とはなんだろうか。本書『水軍と海賊の戦国史…

【感想】ゆうきまさみ『新九郎、奔る!』7巻が描き出す疫病流行と室町時代の「健康格差」

新九郎、奔る! (7) (ビッグコミックススペシャル) 作者:ゆうき まさみ 発売日: 2021/05/12 メディア: コミック 『新九郎、奔る!』のおもしろさは言語化しにくい。7巻の時点でも新九郎はまだ若く、本格的な戦いを経験したこともない。領地経営の苦労話も地味…

「日出処の天子」は倭と隋が対等という意味ではない?河上麻由子『古代日中関係史 倭の五王から遣唐使以降まで』

古代日中関係史-倭の五王から遣唐使以降まで (中公新書 2533) 作者:河上 麻由子 発売日: 2019/03/16 メディア: 新書 「日出づる処の天子より、日没する処の天子に書を致す」──これは、聖徳太子が隋の煬帝に送ったとされる書状の文言としてあまりに有名だ。だ…

マギレコのPAPA先生が描く武田信虎のマンガが面白い

なんと平山優先生監修の武田信虎のマンガがツイッターに投稿されていた。描いているのはマギレコでお馴染みのPAPA先生。信玄のパパだからPAPA先生という人選?かわいい絵柄なのに内容は本格派だ。 こちらのマンガ「信玄のパパ 武田信虎のほんとの話」は、信…

【感想】筒井忠清編『昭和史講義 戦後編(上)』はシベリア抑留の入門書として使える

昭和史講義【戦後篇】(上) (ちくま新書) 発売日: 2020/08/07 メディア: 新書 全20講の構成で昭和史の様々なトピックを取りあげているが、この本の内容ではとくにシベリア抑留について興味を引かれた。第3講「シベリア抑留」は22ページ程度の内容だが、この講…

【感想】田中優子・松岡正剛『江戸問答』

江戸問答 (岩波新書 新赤版 1863) 作者:田中 優子,松岡 正剛 発売日: 2021/01/22 メディア: 新書 2章の浮世問答の「学問のオタク化と多様化」がおもしろい。明治維新は江戸時代の「学び」から出ているが、江戸時代の学びとは「実」と「遊」の間にあるものだ…

【書評】古代蝦夷の入門書として最適の本:工藤雅樹『蝦夷の古代史』

蝦夷の古代史 (読みなおす日本史) 作者:雅樹, 工藤 発売日: 2019/05/17 メディア: 単行本 古代日本を語るうえで、蝦夷の存在は欠かせない。奈良時代から平安時代初期にかけて、律令国家はかなりの力を傾けて「征夷」をおこなった。蝦夷はそれだけ日本にとっ…

【書評】蝦夷が武士の成立に与えた影響とは?桃崎有一朗『武士の起源を解きあかす』

武士の起源を解きあかす ──混血する古代、創発される中世 (ちくま新書) 作者:桃崎有一郎 発売日: 2018/11/23 メディア: Kindle版 この本の著者、桃崎有一朗氏によれば、武士がどこからどう生まれたのか、という問いに日本の歴史学界は答えられていないのだと…

【感想】古市憲寿『絶対に挫折しない日本史』

絶対に挫折しない日本史(新潮新書) 作者:古市憲寿 発売日: 2020/09/17 メディア: Kindle版 好き嫌いの分かれそうな本だ。この手の概説書はなるべく著者の色を消して通説とされているものを淡々と記述していくものと、著者の個性を前面に押し出すものとがあ…

【感想】佐藤厳太郎『伊達女』にみる歴史研究と歴史小説の幸福な関係

伊達女 作者:佐藤 巖太郎 発売日: 2020/11/06 メディア: 単行本 歴史小説には「そう来たか」がほしい。ここで言う「そう来たか」とは、史実(とされているもの)を意外な方向で解釈する、ということだ。この作品を読む人の多くは、伊達政宗の生涯についてお…

小林一茶の夜の営みの回数を記録した『七番日記』に何を読みとるか

性からよむ江戸時代――生活の現場から (岩波新書) 作者:沢山 美果子 発売日: 2020/08/21 メディア: 新書 小林一茶の残した『七番日記』という日記がある。これは大変貴重なものである。というのは、なんと一茶が妻との房事の回数を記録しているからである。江…

森本公誠『東大寺のなりたち』に見る東大寺造立の社会的効果

東大寺のなりたち (岩波新書) 作者:森本 公誠 発売日: 2018/06/21 メディア: 新書 ピラミッドのような巨大建築物は、建設のために多くの人手を必要とするため、雇用対策として建設されるという一面がある。大仏はどうだろうか。奈良の大仏の造立に参加した人…

【感想】平山優『戦国の忍び』で「忍者」の最新研究に触れられる

戦国の忍び (角川新書) 作者:平山 優 発売日: 2020/09/10 メディア: Kindle版 この本の著者の平山優氏は『真田丸』の時代考証を務めていたことで知られている。大河ドラマにかかわって以来、氏はテレビ局や出版社から忍者についての問い合わせを受けていたが…

『講談社学習まんが日本の歴史』が本当に最新学説を取り入れているか確認してみた

rekishimanga.jp 日本史の学習マンガとしては一番新しいシリーズになる『講談社学習まんが日本の歴史』シリーズなのですが、監修者を見てみると6巻から9巻までは『応仁の乱』著者の呉座勇一氏の監修になっていました。 「古代から令和まで最新研究を網羅」と…

鉄砲一挺60万円、人間一人が10万円~……戦国時代の経済を俯瞰できる『戦国大名の経済学』

戦国大名の経済学 (講談社現代新書) 作者:川戸貴史 発売日: 2020/06/17 メディア: Kindle版 戦国大名の領国経営にはどれくらいお金がかかるのか?あるいは収入はどれくらいなのか?こういう疑問を持ったことがないだろうか。銭がなくては築城も戦争もできな…

【感想】天野純希『燕雀の夢』

燕雀の夢 (角川文庫) 作者:天野 純希 発売日: 2020/01/23 メディア: Kindle版 織田信秀、武田信虎、松平広忠など「英雄の父」を主人公とした短編集。6つの短編はどれも読みごたえがあるが、中でも『虎は死すとも』と『楽土の曙光』の二編がとくに印象に残っ…

呉座勇一氏による明智光秀の人物評が『明智光秀と細川ガラシャ 戦国を生きた父娘の虚像と実像』で読める

明智光秀と細川ガラシャ (筑摩選書) 作者:章一, 井上,勇一, 呉座,クレインス,フレデリック,南燕, 郭 発売日: 2020/03/13 メディア: 単行本(ソフトカバー) 四人の著者が明智光秀とガラシャについて論じている本。第一章の『明智光秀と本能寺の変』では、呉…