明晰夢工房

読んだ本の備忘録や日頃思ったこと、感じたことなどなど

書店は「宝探し」をする場所ではなくなった

ネットが普及する前、書店はどういう場所だったか

news.yahoo.co.jp

この記事を読んでいて、ネットが普及する前の書店の状況について考えていたのですが。

 

思えば昔は書店というのが、本に関する情報を得られるほぼ唯一の場であったように思います。

ネットがないんだから世の中にどういう本が出回っているのかは書店に行かなければわからないし、何が面白いのかも実際自分で手にとって読んでみるまではわからない。

周囲の人に本の評判を聞くことができても、そこで得られる情報はかなり限られている。

新聞や雑誌の書評で気になる本のレビューが読めるとも限らない。

 

結局、書店に足を運ばなければ何も始まらない、という状況があったわけです。

 

その分、書店という場所は今よりもずっと貴重な場所であったように思います。

そこに行けば、知らない本と出会うことができ、新しい知的体験ができるかもしれない。

ネットがない時代ではアクセスできる情報が限られているため、書店という場所が脳内世界を広げてくれる場所として、大きな存在感をもっていたという記憶があるのです。

リアル書店は知らない本と出会う場所ではなくなった

それが、ネットが普及したことでどう変わったのか。

今ではかなりマイナーな本でも読書メーターのようなレビューサイトがあるし、アマゾンにも当然レビューがあるし、どちらにもレビューがなくてもtwitterで検索してみればかなり容易に本の評判を知ることができます。

 

そして、どのジャンルにどういう本があって何を読めばいいのか、各分野にそれぞれの目利きがいて、そういう人をtwitterでフォローしておけば各ジャンルの新刊情報が流れてくるし、そこをチェックしておけば良い本の情報をかなり詳しく知ることができるようになりました。

もう自分で書店に行って一から本を探さなくても、それぞれの分野に精通したレビュアーがいい本を探して紹介してくれる時代なわけです。

 

こういう時代なので、今は自分でもあまり大型書店で何か面白そうな本を探そう、ということは少なくなっています。

書店に行くのは、すでに事前に情報を仕入れて欲しくなった本を探しに行く時です。

リアル書店で知らない本を買うことは、最近はほとんど無い気がします。

もっとも、このあたりは個人差も大きいだろうとは思いますが。

先入観のない状態で本と接する機会が少なくなっている

これは読む側としては利便性が向上したということで、良い本を狙って手に入れることができるのは間違いなく良いことです。

おかげで、最近は本を買ってハズレを掴んだと思うことがほとんどありません。

しかし、一方でこうも思うわけです。

我々は、もう純粋な自分自身の「感想」を持つことができないのではないか?と。

 

目利きが選んだ評判の良い本を買うというのは、行列のできるラーメン店に行くようなものだと思います。

行列のできる店では当然、待たされるので、期待値が嫌が上でも高まります。

だから、出てきたラーメンが少々期待と違っていたとしても、それまでに払った時間というコストを考えると、「これは美味いんだ」と思って食べないといけない。

これと同じように、本に接する時、「目利きがいいと言っているんだからこれはいい内容のはずだ」という先入観がどうしてもそこに入り込むのではないか。

 

大袈裟に言うと、真っ白な状態で本と接したのでない場合、その本を読んで感じたことというのが本当に自分自身の感想なのか、と思ったりするわけです。

影響力の強いレビュアーが褒めていたりした場合はその意見を取り込んでしまうか、逆に妙に反発してしまうかして、いずれにせよ何かしら色眼鏡をかけた状態で本と対峙することになるので。

 

そうした先入観もあって、良いと評判の本が評判通り良かった、という安心感に浸って終わり、ということが自分自身としては増えているように思います。

では、今の書店はどういう場なのか

情報の入手源が多様化したおかげで、良い本を手にする機会は格段に増えました。

一方で、書店での偶発的な本との出会いは確実に減っているように思います。

他の人はどうかわからないのですが、自分自身では書店に行くのはもうある種の「答え合わせ」のような感じがしています。

 

すでに良いと評判のある本を買って、やっぱり良い、と感じるための行為。

そこには自分の勘だけを頼りにこの本の山から宝を探し当てよう、という手探りの感覚はもはやありません。

全てが予定調和で、予想外の喜びも落胆もなく進んでいく。

そうした安心感と引き換えに、知られざる名著を探索する楽しみは少なくなっているように思います。

 

最近はむしろ、知らない本を探索するなら古本屋に行くほうが面白いと感じます。

古書店もまたリアル書店のライバルなので、こういう行為がさらに書店の経営を厳しくしているのでしょう。

リアル書店では得にくくなった宝探しの楽しみに代わる何かを、書店は提供できるのか。

その点が問われているような気がします。

 

僕の地元でも、この10年間で、知っているだけでも5つの書店が閉店しました。

そのうちの一つは、以前よく利用していたところです。

書店経営の厳しさは、外野から見ていてもよく伝わってきます。

大きな書店はその街の文化発信基地だと思っているので、何とか残って欲しいし、なるべく本はそういった所で買うようにはしているのですが、こういう自分自身古本屋もよく利用していますし、その分そうした書店に行く機会も減っていると思うので、なかなか難しいところです。