読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

明晰夢工房

主に自分語りです。

高橋祐一『緋色の玉座』感想:スニーカー文庫で読める東ローマの歴史小説

スポンサーリンク

 

 

こういう作品がスニーカー文庫から出るというのがまず驚き。

東ゴートやヴァンダル、ササン朝の地図が見られるラノベはなかなかない。

 

表紙を飾る主人公は東ローマ帝国の名将ベリサリウス(ベリス)で、隣りにいるのがベリスの書記官を務めたプロコピオス(プロックス)。登場人物が全員実在の人物で、脇を固めるシッタスやユスティン(ユスティニアヌス)、テオドラ、アナスタシアなどのキャラクターも魅力的に書き分けられている。

 

本書の特徴は、ストーリー自体は骨太な歴史小説でありながら、キャラクターはラノベであるということ。テオドラの妹であるシアは魔法が使え、これがストーリーにも関わってくる。とはいえそれほど全面に出てくるわけでもなく、ストーリーの核となっているのは主人公ベリスの軍人としての強さと「軍師」であるプロックスの頭脳だ。

 

時代は後に東ローマ皇帝となるユスティンが即位する前の時点から始まる。

戦記ファンタジーらしく冒頭はペルシアとの戦いから始まり、戦争が集結すると一転して帝都コンスタンティノープルで探偵のようなこともやる。ここで後にユスティンの皇妃となるテオドラの怖さも存分に描かれる。まさに魔性の女。

 

そして再びペルシアとの戦いが描かれ、王子であるホスローも登場するが、この王子がまた敵役としての魅力に富んでいる。まだまだシリーズは続くようなので当然決着はついていないが、この先のベリスの戦いについて大いに期待の持てる一巻だった。

 

史実のベリサリウスはユスティニアヌスにとってはまさに至宝とも言うべき家臣で、名称中の名将だ。劉邦にとっての韓信、シャルル五世にとってのデュ・ゲクランのようなものである。しかしベリスの活躍を史実通りに描くなら、結局最期は悲惨なことになってしまうのでは?という危惧もある。とはいえそこは小説なのでうまくまとめてくれるだろう。

 

本作ではベリサリウスの書記官を務めたプロコピオスが軍師役になっているため、そのぶんベリサリウスが純粋な武将タイプと言った感じになっていて、戦士としてもかなり強い。このプロコピオスは『秘史』という書物を著しており、この中では「自ら実見した皇帝と妃テオドラ、将軍と妻アントニナらの悪行を暴露した」とある。そのせいか、本作でもプロコピオスはかなり癖の強い人物になっており、とにかく口が悪い。だがベリスの力量は認めていて、彼がローマ皇帝になることを願っている。

 

 あとがきを見ると、すでに二巻の発売は決定しているようだ。べリスとプロックスが今後どのような活躍を見せてくれるのか、大いに期待したいシリーズだ。