明晰夢工房

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「古代文明は都市と遊牧民の交易から生まれた」という観点が面白かった第一回『3か月でマスターする世界史』

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NHKEテレ『3か月でマスターする世界史』が先日スタートした。番組冒頭から岡本隆司氏が佐藤あゆみアナに「コロンブスと聞くと何を思い浮かべますか」と問いかけ、佐藤アナが「新大陸の発見です」と答えると、「新大陸の発見という視点は、ヨーロッパという特殊な地域から見たものです」と指摘する一幕があった。「世界史をアジアの視点からとらえ直す」という番組の軸がここで示された形になる。

 

第一回は、古代文明の誕生と遊牧民との関りについて見ていく回。とかく大河とのかかわりが強調されがちな古代文明について、この視点は新しい。古代の都市は農耕地域と遊牧地域の境界に生まれているが、これは両者が交易をおこなっているからで、交易の拠点として都市が生まれる。商業が活発になると貧富の差が拡大するため、富める者は富を外敵から守るため都市を城壁で囲む。遊牧民も外敵になるため、強固な城壁が必要になる……といった内容だった。中国については、古代都市と遊牧民の関係性は『紫禁城の栄光』で明確に描きだされている。

 

 

それではどうしてシナの古代都市は、みなモンゴル、山西の高原と北シナの平野部の接点に多く発生したのだろうか。この謎を解くカギは、モンゴル高原遊牧民族と、北シナの平野部の農耕民族とのあいだの貿易関係にある。遊牧民は家畜の皮を着、ミルクやヨーグルトを飲み、バターやチーズを食べ、羊毛をかためてつくったフェルトのテントに住む。これは一見まったくの自給自足経済のようであるが、人体の維持に絶対必要な炭水化物、つまり穀物は農耕民族から買い入れなければならない。そこで歴史時代以前から、高原の遊牧民たちはキャラヴァンを組織しては北シナの平野に降りていって、そこの農耕民と貿易をしなければならなかった。そうした取引場、定期地位は当然農耕地帯のへりにある。北京、邯鄲、安陽、洛陽、西安、咸陽あたりでひらかれたわけで、ここには農耕地帯の奥地からも多くの人びとが交易のためにあつまってきて、やがて定期市は常設の市場となり、そのまわりに集落が発達しはじめた。これが北シナの古代都市の発生である。(p22)

 

これと同様の関係性が、シュメール諸国とセム系の遊牧民族のあいだにも見出せる。ウルではラピスラズリを用いた財宝が出土しているが、これはバダフシャーンで採れたものだ。アフガニスタンとウルを結びつけたのは遊牧民で、他にもメソポタミアで不足している木材や金属をもたらしたものは遊牧民だと考えられる。メソポタミアは大麦の収穫倍率が20~80倍になるほど農耕に適していたが、それでも文明が発達するには遊牧民との交易が欠かせなかった。このように各地の古代文明に共通項を見つけていくのが第一回の特徴だった。他にもメソポタミアにおいて、アッシリアの過酷な支配が失敗したのちアケメネス朝の寛容な統治が長続きしたことが、中国における秦と漢の関係と相似形であることも語られていた。

 

広大な領域国家の誕生にも遊牧民がかかわっている。馬の騎乗をはじめたスキタイがオリエントまで勢力を伸ばすと、オリエントでも同様に騎乗をはじめる。騎兵は敵の背後に回り込んで包囲殲滅ができるため、騎兵を擁する国家は強大となり、アッシリアのような強大な帝国が生まれることが番組中で触れられていた。同様に中国でも趙や秦のように軍馬を確保しやすかった国が戦国時代に強国となり、やがて秦が中華を統一する流れがある。

 

全体として、細かな知識を追うより歴史の構造を大づかみに把握する番組内容には好感が持てたので、次回にも期待したい。

 

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