明晰夢工房

読んだ本の備忘録や日頃思ったこと、感じたことなどなど

NHKEテレ『3か月でマスターする世界史』が面白そうな件

www.nhk.jp

 

4月3日からEテレで『3か月でマスターする世界史』が始まる。テキストのサンプルを見てみると、第1回と2回のタイトルは「古代文明のはじまり カギは”遊牧”」「ローマもオリエント?」といった興味深いものになっており、番組を観る価値はありそうだ。テキストの「はじめに」にでは岡本隆司氏が「アジアから世界史をひも解くと、新しい世界史が見えてくる」と語っている。「西洋中心主義とは?」「キリスト教の発祥はヨーロッパ?」といった回もあるようで、全体としてアジアの視点から世界史をとらえ直すシリーズになりそうだ。

 

 

この番組にはゲストとしてローマ史家の井上文則氏が登場するが、井上氏は東洋史への関心も深い研究者で、宮崎市定の評伝も上梓している。井上氏はローマ帝国シルクロードとの関係を重視していて、『軍と兵士のローマ帝国』でもシルクロード交易がローマの常備軍を支えていた、と書いている。常備軍の維持は多大な財政的負担をともなうもので、シルクロード交易の関税収入がなければそれは不可能だったという。シルクロード交易は、漢の西方進出とローマの東方進出の結果実現したもので、井上氏はカエサル凱旋式パレードで沿道に絹の日よけを用いたことをその象徴として紹介している。ローマ史はローマ史として完結しているわけではなく、ユーラシア史全体の枠組みのなかで捉える必要がある、という視点がここにはある。第2回ではこのような井上氏の史眼を楽しめる回になりそうだ。

 

saavedra.hatenablog.com

番組のナビゲーターを務める岡本隆司氏には数多くの著書があるが、『「中国」の形成』で書かれている『アジアと西洋の「大分岐」』は非常に面白い内容で、豊かだったはずの清朝産業革命が起きなかった理由を教えてくれるものだった。今回の講座でもこの「大分岐」に触れてくれることを期待したい。

 

(追記)第一回では古代文明誕生の背景に遊牧民の活動があったことに焦点を当てていた。古代の都市は農耕地域と遊牧地域の境界に生まれているが、これは両者が交易をおこなっているからで、交易の拠点として都市が必要になる。商業が盛んになると貧富の差が拡大し、富める者はその富を守るため都市を城壁で囲む。遊牧民は都市の交易相手でもあるが、外敵でもあるため、強固な城壁が必要になる。農耕民と遊牧民の対立関係はシュメール諸国とセム系の遊牧民族の間にはじめて見出せるが、同様の関係を漢と匈奴のあいだにも見てとれる。アジアに共通する文明の「型」を見ていくのがこの番組の特徴のようだ。