明晰夢工房

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眺めているだけでワクワクする。『世界をまどわせた地図』にはムー大陸からパタゴニアの巨人まで怪しい伝承満載

ドラゴンクエストはなぜ面白いのか、とたまに考える。

もちろんストーリーに惹き込まれるとか、レベル上げが楽しいということはある。

しかしやはり欠かせない要素として、「知らない世界を冒険できる」ということが挙げられるのではないだろうか。

ワールドマップを眺めてまだ見ぬ土地に思いを馳せつつ、この大陸にどんな町があるのか、この島にはどんな宝物が眠っているのか、といったことを想像するのが何より楽しいのだ。

 

こういうことをゲームで楽しむということは、逆に言えばリアルの世界では「まだ見つかっていない土地に夢を託す」ということができなくなっているということでもある。

現代は世界はどんな姿をしているかがすべて判明していて、グーグルマップでほぼ世界中の土地を空から眺めることもできる。

便利にはなったものの、もうこの世界には未発見の大陸も、伝説の黄金郷も存在しない。結局、そういうものはフィクションの世界に求めるしかないのだ。

 

しかし、まだ世界の全貌が知られていなかった時代、人類は未踏破の大陸に向けて困難な航海を重ね、未知の国家を訪れ、名も知らぬ民族や動物を目にする機会があった。

ごく限られた人間だけの特権であったとはいえ、「マップを埋める楽しさ」をリアルワールドで体験できた時代が確かにあったのだ。

大航海時代に我々が心を惹かれたりするのも、そうした過去へのあこがれがあるからではないかと思う。

そう言えばドラゴンクエスト3の世界は現実の世界地図を模したものだし、ポルトガでは船を手にれることができる。あの世界を探索する楽しみは、大航海時代の探検家の味わったものとどこか似ている。

 

そのような世界に生きていた人たちに、見知らぬ土地はどう映っていたのか?

それを教えてくれるのが、この『世界をまどわせた地図』だ。

 

世界をまどわせた地図 伝説と誤解が生んだ冒険の物語

世界をまどわせた地図 伝説と誤解が生んだ冒険の物語

 

 

本書では、ムー大陸やプレスター・ジョンの国などの有名な伝説から、パタゴニアの巨人伝説やカラハリ砂漠の古代都市、オーストラリアの内陸海など、古今東西の実在しない地図や伝承などを、豊富な図解付きで解説している。こういうのは、見ているだけで楽しい。

 

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北極点にあると信じられていた磁石島ルペス・ニグラ。こういうのがたくさん出てくる

「幻の地図」は人間の欲求の集大成

本書を読んでいて思うのは、こういう「幻の地図」や伝承というのはあらゆる人間の欲望の集大成である、ということだ。

 プレスター・ジョンの国の伝説というのは十字軍がイスラムに敗北を続けるなかで強力な友好勢力がほしいという願望から広まったものだし、エルドラドの存在は当然、金を求める欲求が生み出したものだ。長い航海の果てに陸地にたどりつきたいという船乗りたちの切実な欲求は、なにもない南米の南端にオーロラ諸島という幻の島を見出した。

既知の世界では荒唐無稽と片付けられる出来事も、まだ見ぬ土地ならば起こり得ると思えるのが人間なのだ。

 

となると、当然そのような欲求につけこむ人間もまた現れる。

本書で紹介されている「ポヤイス国」は、稀代の詐欺師グレガー・マクレガーがでっち上げた国だ。不景気に悩む19世紀のロンドンに現れたグレガーは「ポヤイス国の領主」を名乗り、できたばかりの自分の国に投資してくれる人物を求めた。

ポヤイス国は800万エーカーの土地と豊富な資源に恵まれていると吹いて入植者を募り、グレガーは新天地を目指したが、待っていたのは未開の密林と沼地だけだった。この土地は現在のホンジュラス付近らしい。ポヤイス国に旅立った270人の男女のうち、無事に帰還できたのは50人足らずだったといわれている。

 

ここまで大掛かりな詐欺となるとさすがに珍しいが、コロンブスが心惹かれていた『東方見聞録』の著者のマルコ・ポーロの仇名は「百万のマルコ」、いわば嘘つきだ。実際、東方見聞録にはとても事実とは思えないことがたくさん書かれている。旅行家や探検家と詐欺師の距離はそう遠くはない。彼らの作り上げた地図や伝承は、読み手のニーズに応えていたからこそ残っている。彼らが現代に転生していたら伝奇作家にでもなっているかもしれない。

 

本書に取り上げられている幻の土地は数多いので、気になったものを3つだけ紹介してみる。

 

5世紀に中国僧が渡った幻の国「扶桑」

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この国のことは全く知らなかったが、中国の正史『梁書』に慧深という僧がたどりついたという「扶桑」という国のことが記されている。この扶桑とはアメリカのことではないか、という説が本書では紹介されている。本当ならヴァイキングより先にアメリカ大陸に到達していた人物が存在していたことになるのだが、さすがににわかには信じられない。

トナカイを飼い、身体に入れ墨をした人々がいると慧深は語っており、これはイヌイットではないのかというのだが、トナカイ遊牧民中国東北部にもいたのでこのあたりのことを言っている可能性はないだろうか。扶桑の位置に関してはメキシコやロッキー山脈付近、北海道などという説まであり、どれが本当かは判然としない。もちろんすべて慧深の空想である可能性もある。

 

ワクワク

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読んでいるだけでワクワクすると書いたが、かつて本当にこんな名前の国があると信じられていたことがある。トルコやアラビア、インドの伝承だが、ワクワクの存在する場所は朝鮮半島か中国のどこか、だと考えられていた。

このワクワクは日本のことではないか、という説がある。ワクワク=倭国、というわけだ。だがワクワク国では山頂の木が叫び声をあげ、人間の形をした実がなると言われている。イドリースィーはこの国の女性は真珠で飾った象牙の櫛以外は何も身に着けないと書いているが、これらの伝承と日本との共通点はどこにもない。ワクワク国の正体は依然として霧の中だ。

 

パタゴニアの巨人

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 この伝承の起源はマゼランの同行者、アントニオ・ピガフェッタの記録による。

ヨーロッパ人の頭が腰にまでしか届かなかったという巨人は、マゼランによりパタゴニと名付けられた。この巨人の目撃報告はマゼラン以降も続いていて、18世紀にはイギリスのバイロン船長が身長が2.6mもある住民ばかりがこの地に暮らしていると報告している。これが理性と啓蒙の時代の話だというのだから面白い。結局、人は信じたいことを信じてしまう生き物だということだろうか。

現在、巨人の正体は原地の遊牧民テウェルチェ族だと考えられている。彼らの身長は1.8m程度で、巨人というほどでもない。真実とは知ってしまえば拍子抜けするようなことが多いものだ。