明晰夢工房

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磯田道史『江戸の備忘録』には磯田史学のエッセンスが詰まっている

 

江戸の備忘録 (文春文庫)

江戸の備忘録 (文春文庫)

 

 よく「処女作にはその作家のすべてが詰まっている」などと言われる。

『江戸の備忘録』は磯田道史の処女作ではないが、初期の著作だ。

これを読むと、その後の磯田氏の著作に出てくるネタがほぼこれに詰まっていることがわかる。なので、一冊で磯田史学のエッセンスを吸収したければこれを読むのがいいかもしれない。ただし、それぞれの内容はあまり深くは掘り下げられない。これは分量の問題で仕方がない。

 

『土芥寇讎記』の話は『殿様の通信簿』にも書かれているし、坂本龍馬の手紙の話は『龍馬史』にも出てくる内容だ。幕末の尼僧太田垣蓮月は『無私の日本人』でも取り上げられているし、西郷の犬好きのエピソードは『素顔の西郷隆盛』でも登場する。江戸時代の鉄砲の話は『歴史の読み解き方』により詳しく出てくる。この時点で興味のあったネタをそれぞれ膨らませて一冊の本にしているのだろうか。

 

この本にあってまだ一冊の本として磯田氏が書いていないテーマに教育がある。本書によれば、寺子屋の教師には女性が3割くらいいたそうだ。といっても、これを江戸時代の「女性の社会進出」の証拠とは必ずしもいえない。女の子には女の師匠の方がふさわしいという理由で教えていたのが実際のところだからだ。藩学校のような公的な教育機関では女性は働いていない。このあたりのテーマでいずれなにか一冊書いてほしいところだ。

 

一つ一つの項は短いので、どこでも気になったところを拾い読み的に読める。その意味で、本書は磯田道史入門として格好の一冊と言えそうだ。

 

saavedra.hatenablog.com

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