明晰夢工房

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【感想】師走トオル『ファイフステルサーガ2 再臨の魔王と公国の動乱』

 

 

1巻は冒頭で魔物との戦いもありましたが、今回は全編人間同士の争いになります。

具体的にはアレンヘム公国と隣国のフライスラント自治領との戦いで、これにさらにアレンヘム内部での内乱も起きてしまいます。本来なら魔王の復活に向けて人間同士で団結しなければいけないのに、結局近視眼的な理由で争ってしまうのもリアルといえばリアル。

内乱の起きる原因は、セシリアが予知夢でカレルが暗殺される未来を見てしまったこと。この暗殺の犯人を探るところから2巻の物語はスタートします。

今回は全編にわたって陰謀と戦争の話でファンタジー色は薄めですが、カレルが訪れる地下のドワーフ王国の描写は面白い。この世界ではドワーフ錬金術師もいて、地下でキノコ栽培をしているなどドワーフの食生活にも少し触れられています。ストーリー上それほど重要な部分ではないものの、こういう細部の設定が丁寧に作られていると作品内でのリアリティが増しますね。

 

1巻に引き続き、今回もカレルと狂嗤の団の前に立ちはだかるのはフライスラント自治領ですが、今回はフライスラントの内部の情勢も見えてきます。フライスラントは奴隷の売買で儲けている国なので、兵士も奴隷が多いという特徴がありますが、今回フライスラントとの戦いでカギを握るのがこの兵士の構成です。奴隷はフライスラントへの忠誠心は高くなく、ここにカレルがどうつけこむのか、が戦術の鍵になるのです。今回は兵士に狩りだされた父を追って国を出た少女をカレルがうまく使っていますが、どんな作戦なのかは読んでのお楽しみ。無駄な兵力の損耗を避けるのがすぐれた将の条件です。

 

フライスラント軍は前巻では夜襲を受けて全滅しているだけに、今回はフィクトル総督の息子クンラートが万全の準備をして攻め込んできますが、兵力の上ではアレンヘム側が圧倒的に不利。この兵力差をどう覆すか、も今回の見どころのひとつ。フライスラント軍に対してカレルの仕掛けた戦術は目が覚めるような奇策というわけではありませんが、それだけに地に足の着いた、現実的な作戦です。今回はカレルとヴェッセルの初顔合わせもあり、この二人の知将同士の関係性が今後どうなるかも気になるところ。

 

あとがきでは3巻では脳ひとりの主人公ともいうべき灰エルフが登場し、かなり重要な役割を果たすと書かれていました。灰エルフの英雄は知将系のカレルやヴェッセルに対し、どうやら猛将系?のキャラになるようですが、次巻にも期待したいと思います。

 

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