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【感想】映画『武士の家計簿』

 

武士の家計簿

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武士の家計簿(初回限定生産2枚組) [DVD]

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地味と言えば本当に地味な映画だ。加賀藩に仕えた「御算用者」一族である猪山家の借財整理がメインの内容であるため、どうしたって地味なものになる。主人公の直之の実直な「そろばん侍」としての働きを息子である成之の視点から描いているのだが、直之が役人の不正な使い込みを探ろうとするなど一部フィクションも加えているものの、基本的には原作に忠実な内容となっている。

 

といってこれは決して退屈な映画ではない。刀ではなく算術を武器とする侍の姿そのものが興味深い存在だからだ。主人公の直之は、父の葬儀の夜にすらソロバンをはじいているほどの「算盤バカ」なのだが、この直之が猪山家の積もり積もった借金を返済するために武士としての見栄も面子もかなぐり捨てるところが、この映画の見どころのひとつだ。出費を節約するために、長女お熊の「髪置祝い」のために用意する鯛を絵ですませているところなど、なんともいえない哀しさとおかしみがある。原作でも書かれているとおり、武士の家計を大きく圧迫しているのはこうした子供の通過儀礼にかかる費用であったため、ここを引き締めないことには家計は好転しないのだ。

 

のちに成之が海軍に仕え、猪山家の命運が好転していくのも、もとをたどればこの直之が詳細な「武士の家計簿」をつけ、借財を整理できたことがきっかけだ。一度は大村益次郎に仕え、幕末の動乱にも巻き込まれた成之を主人公にしたほうがドラマチックな内容になっただろうが、算盤職人としての生き方を描くなら直之の方がふさわしいということだろうか。直之は本来なら映画の主人公になるような人物ではないかもしれないが、たまにはこういう実直な人間の静かな一生を眺めるのも悪くない。

 

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