明晰夢工房

主に自分語りです。

「挫折した貴方は魅力的ですよ」とあの人は言った。

 

kakuyomu.jp

第二回カクヨムウェブ小説コンテストの結果は、周囲に大きな波紋を投げかけた。

僕の知人でも大賞を受賞した人もいるし、結果に落胆して筆を折ると言い出した人や、もうウェブでは戦えないので公募に切り替える、と宣言する人も見た。

 

自分自身はこのコンテストに関してはほぼ傍から見ているだけだったが、それにしても三部門は大賞どころか特別賞すら該当者なしという結果に終わったことには驚きを禁じ得ない。SF部門・ラブコメ部門・ドラマ・ミステリー部門では、大いに健闘した作品も書籍化の栄誉は与えられなかった。

 

また、他ジャンルでは僕がこれは大賞を取るのではないか、と思っていた作品が特別賞にも届かなかった。作品の評価というものは本当にわからない。いくら読者の支持を集めようが、ウェブ上で人気作となろうが、賞は取れないときは取れない。文学賞はいつだってごく一握りの勝者に栄光を、圧倒的多数の参加者に敗北感を植え付けることになる。

 

僕は夢を諦めることが悪いことだとは思っていない。

冷静に見れば作家というのはそれほど旨味のある商売ではないだろうし、首尾よくデビューを飾ることができたとしても大変なのはそれから先だ。

作家になることができる人はそれなりに存在するが、作家であり続けることのできる人は多くはないのだ。

 

しかし大事なことは、一度は情熱を賭けていたことを諦めるということを、自分の中でどう納得するかということだ。

挫折するのは仕方がない。人のモチベーションは無限ではないし、身になるかどうかもわからないことをやり続けるくらいなら、もっと確実に手応えのあることにリソースを割いたほうがいいのかもしれない。

だが、ずっとエネルギーを注ぎ続けたことをやめるのには、心の中でそれなりの手続きというものが必要だ。その対象が小説であれ何であれ、夢を断念することは、その先に続いているかもしれない人生の可能性を捨てることを意味するからだ。

 

 こういう時、あの人ならどう言うだろう?と気になる人がいる。

子供の頃から夢中になってきたことを仕事にしているような人の言葉は、やはり心に響く。

たとえばウメハラが以前講演会で語っていたようなことも、大いに参考になるだろうと思う。

saavedra.hatenablog.com

しかし、こと「挫折」ということになると、ウメハラの話で思い出すのはまた別のことだ。

以前、アマゾン本社で行われたウメハラの講演会がニコ生で中継されていたことがある。確か二冊目の著書の出版記念講演だったと思うが、この時の講演会にも質疑応答のコーナーがあった。うろ覚えだが、このときに会場にいた人から「自分はある夢(確か服飾関係の仕事だったと思う)に向けて努力していたが、その夢は叶わなかった。こういう時、精神的にどう折り合いをつけていけばいいのだろうか」といった質問が出た。

 

こういう質問に、どう答えればいいのか。

「それまで何かに打ち込んでいた経験は他の分野にも活かせる」といったことなら誰にでも言えそうだし、現実を見据えて「時間をかけてもものにならないジャンルからは足を洗ったほうがいい」ということもできる。事実、為末学はそういう感じのことも言っている。

 

しかし、この時ウメハラが言ったことは全く予想外の一言だった。

彼はこう言ったのである。

 

「挫折している人って、魅力的なんですよね」

 

これは、アドバイスといえるようなものではない。

しかし、およそどのようなしたり顔のアドバイスよりも胸に染み入る言葉ではないかと思う。

実際、この言葉をリアルタイムで聞いたときには本当に驚いた。こんな優しいことを言える人がいるのか、と思ったからだ。

 

あまりはっきり覚えていないが、ウメハラが言っていたのはこういうことである。

 

「挫折するということは、それだけ物事に真摯に取り組んでいたということだ。その道に自分を賭けていない人は挫折という感情を味わうことはない。だから挫折している人は素敵なのだ」

 

この手の話では、多くの人は落ち込んでいる人を励まそうと通り一遍なことを言うか、あるいは根性論を持ち出して説教をするか、ということになりがちだと思う。しかしウメハラのかけた言葉はどちらでもなかった。

役に立つような台詞でもないが、このように肯定してもらえれば、挫折したことによる負の感情もほどけていくものなのではないだろうか。

挫折したことも役に立つのだとか、落ち込んでいても前には進めないのだとか、そんなことは当人だって百も承知なのである。その上で、自分でもどうにもならない敗北感に当人は打ちのめされているのだ。だとすれば、その人に必要なのはその感情を解きほぐし、身軽にしてやることだ。

 

ウメハラという人がそういう効果を狙ってこう言ったのかはわからないし、それこそ単に個人的な感想を漏らしたにすぎないのかもしれないが、それにしたってこういう場でこの台詞はなかなか出てこない。この場で求められる優等生的な回答をしよう、という発想がここにはまったくないのだ。

 

もっとも、こういう台詞もウメハラが言うからこそ意味のあることではある。よく知りもしない人から「挫折している人って魅力的ですよね」なんて言われていてもバカにしているのか?とも取られかねない。結局この種の言葉は、誰が言うかだ。今勝っている人間だからこそ、言えることがある。そのことを彼はよく自覚しているのだろう。

saavedra.hatenablog.com

ウメハラ 結局のところ、おまえ、いい人生を送ってるじゃん」って言えるのは、自分以外にはいない。

ちきりん ですね。……なんだけど、その「外からの評価じゃない。自分で自分を評価すればいいんだ」っていうのも、勝ち組だから言えることだったりしない?

ウメハラ そうですね。うん、やっぱりこれは「勝ち組の人生論」でしょう。

ちきりん おっ、言い切った!