明晰夢工房

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伊東潤『敗者烈伝』における明智光秀の評価

 

敗者烈伝 (実業之日本社文庫)

敗者烈伝 (実業之日本社文庫)

 

 

「汁二杯」のエピソードのせいでどうしても良いイメージを持たれない北条氏政だが、この本においては意外と評価が高い。上杉謙信との間に結ばれた越相同盟を解消し、再び震源と同盟を結んだため氏政は謙信を関東から撤退させ、武蔵・下総の完全領有を達成できた。氏政には大局観があったのだ。

 

城郭ネットワークを強化し、小田原城周辺に惣構を構築したことも評価されている。商人町や農地を城郭の中に取り込む建築は、領民の生活ごと城を守るという意思の表れらしい。領国統治に力を入れるという早雲以来の方針を、氏政も受けついでいる。氏康や家康のような果断さは欠いていたと書かれているが、氏政もそれなりの人物だったとみるべきだろうか。北条氏照や氏邦などに領国統治や軍事指揮権を委任し、北条家という大組織を運営していた手腕はもっと評価されていいかもしれない。

 

なお、明智光秀については「白と黒の二面性を持つ」と評価しつつも、「黒光秀」の面がまさっているという評価。「裏切りや密会を好み、刑を処するに残酷」というフロイスの記述を肯定する立場だ。実際、光秀は比叡山の焼き討ちを率先して進めたという一面がある。光秀をよい人と評価する人は家臣や領民への配慮をその証拠として挙げるが、磯田道史の言葉を借りれば、光秀は「近親者利益最大化主義者」あたりが妥当な評価になるだろうか。黒と白を整合させるなら、光秀は味方には優しく敵には容赦がなかったとするしかない。 

 

saavedra.hatenablog.com

 

ちなみに、こちらは「白光秀」のエピソード。『老人雑話』の内容はどれほど信じていいものか。