明晰夢工房

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dTVチャンネルの番組『歴史のじかん』がなかなか濃くて面白かったので感想を書く

 山崎怜奈さんが司会を務めるdTVチャンネル『歴史のじかん』

 

こちらの動画の内容で興味を持ったので、dTVチャンネルの番組『歴史のじかん』を視聴してみました。

上記のツイートの上杉謙信の回なんですが……謙信、冒頭からさんざんな言われようです。

 

山崎怜奈さん:「上杉謙信はどのような人物だと思われますか?」

黒田基樹氏:「性格的にはねちっこいというかしつこいというか、その一方で典型的な成り上がり戦国大名

丸島和洋氏:「短期でせっかち、でも自分自身がせかされるのは大嫌い、わがままで嘘つき

 

……いいところが何もないのでは?と思われそうですが、最後まで観ればちゃんと謙信のいいところも紹介されています。

詳しい人からすれば「うん知ってた」かもしれませんが、戦国研究者から見た謙信の実像は一般的なイメージとはまるで食い違っています。

黒田基樹さんと丸島和弘さんは二人とも『真田丸』の時代考証を担当していました)

 

義理堅いのは上杉謙信だけではない

 

上杉謙信通俗的なイメージとして「義理人情に厚い」というものがあります。

これは間違いではありません。信玄に信濃を追われた村上義清を助けるため出兵するなど、確かに謙信には義理堅い一面があります。

ですが、黒田さんの見解によれば、別に上杉謙信だけが義理堅いわけではありません。戦国大名は皆一様に義理堅いし、そうでなければ領国を維持していくことができないのです。

 

戦国大名の領国はそれぞれが独立国家で、そのなかに大名に従属している国衆が存在しています。国衆は戦国大名の従属国のようなものです。

領国の国境付近で国衆同士の争いが起き、国衆から救援を求められたら、戦国大名は助けに行かなくてはいけません。助けなければ国衆が離反し、敵方についてしまうかもしれないからです。国衆が頼りにならない戦国大名に従う理由はありません。戦国大名は国を維持していくためにも、国衆への義理を果たさなくてはいけないのです。

 

saavedra.hatenablog.com

 

武田勝頼は徳川勢に包囲された高天神城を救援できなかったので、国衆の木曽義昌が信長に寝返り、これをきっかけに信長は信濃へ向かい総攻撃をかけています。この後武田家はあっけなく崩壊してしまいましたが、これは勝頼が「天下の面目」を失っていたからです。国衆の支持を失うと、領国が滅びてしまうことすらあるのです。

 

新書713戦国大名 (平凡社新書)

新書713戦国大名 (平凡社新書)

 

 

黒田基樹さんは著書『戦国大名』の中でこう書いています。

 

実際に戦国大名の軍事行動について、その政治的契機をみていくと、そのほとんどは、従属する国衆からの支援要請に応えたものであった。そもそも敵方への最前線にあった国衆は、その敵方大名から離反して従属してきた者であったり、あるいは隣接する国衆が敵方大名に従属したために、最前線に位置するようになっていた。(p199)

 

この番組は上杉謙信の話から、こうした戦国大名の本質にまで切り込んでいるのです。村上義清や高梨政頼などの国衆のため北信濃に出陣した謙信の行動も、戦国大名の行動としてみればまず普通のものということになります。

謙信は感情的になりやすい人

『歴史のじかん』では謙信の性格についてもふれています。謙信は当人の書状を読むだけでも感情をストレートに出す人だということがよくわかります。証拠として、謙信は「馬鹿者にて候という表現をよく使います。

最近有名になってきましたが、謙信の書状には「腹筋にて候」なんて表現も出てきます。これは「(北条氏政が)佐竹ごときにも負けたにもかかわらず、戦いを挑んでくるとは腹筋にて候」という流れで出てくるもので、要は「腹筋崩壊」です。自信家で煽り能力も高い謙信の一面がうかがえる表現です。

 

上杉謙信 「義の武将」の激情と苦悩 (星海社新書)

上杉謙信 「義の武将」の激情と苦悩 (星海社新書)

  • 作者:今福 匡
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2018/11/01
  • メディア: 新書
 

 

 このようにあまり人格者とはいいがたい謙信ですが、こうした性格について自覚はしていたようです。今福匡さんの『上杉謙信「義の武将」の激情と苦悩』には、謙信が臼井城攻略に失敗したのちに捧げた願文の中で「短慮をやめ」と記しています。謙信は短気な性格を改めたいと思っていたのです。このような神格化されていない、生身の上杉謙信像を山崎さんは「チャーミングだけど友達にはなりたくない」と言っていました。

 

こう見ていくとあまりいいところがなさそうな謙信ですが、番組の最後で黒田さんは「気に入った人には優しいし、情が深い。気にかけてもらっている側からすれば頼りがいのある親分」とフォローしています。丸島さんは謙信が冬から春にかけて、兵士を食べさせるために出陣していることを評価していますが、攻め込まれる側からすればたまったものではありません。

 

島津歳久の話も面白かった

島津四兄弟の回(2月3日)も四人の個性がそれぞれ要領よく紹介されていてよかったですが、私は特に島津歳久のエピソードに興味を惹かれました。四兄弟の仲では一番地味というか目立たない歳久ですが、目立たないのは病気のためあまり戦の前線に出られなかったからです。

この歳久が切腹するとき、病気のため切腹するのも大変だったせいなのか、「今出産する女性の痛さがわかった」と言ったというのです。この逸話のせいで、歳久は安産の神様として祀られています。

 

登録日から31日間は無料で視聴できます

dTVチャンネルは登録日から31日間は無料なので、『歴史のじかん』が気になる方は無料期間の間だけでも観てみればよいかと思います。ただし上杉謙信の回は2月6日までです。第1回放送の『徳川家康が最も恐れた男(真田幸村の回)』はずっと観られるようです。

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