明晰夢工房

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『王様でたどるイギリス史』

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『パスタでたどるイタリア史』は面白い本だったが、それに比べるとこれはかなり個性は控えめな印象。パスタやお菓子など、あまり普通の歴史書ではテーマにならないものから一国の歴史をたどるところに面白みのあったこのシリーズだが、為政者を軸に歴史を語るのはごく普通の政治史でしかない。

 

イギリス史はわかりにくい。この本もジュニア新書だけあってわかりやすく記述してあるとは思うが、それでもわかりにくいのは、イギリス史というものがブリテン島の内部で完結しないからだろう。中世の時点でノルマン・コンクェストや百年戦争など大陸と深い関係を持っているのがイギリス史で、近世に入ってからはオランダやアメリカとも深い関わりが出てくる。結局、イギリス史は他国との関係性の中で書かざるをえないため、川北稔は世界システム論を用いて名著『砂糖の世界史』を書いた。

 

 

多くのトピックが語られていて面白いことは面白いが、少々詰め込み過ぎな感もあり、あまり内容が頭に入ってこない。イギリス史にそこまで関心がないこともあるだろうが、やはり王の個性で英国史を語るというコンセプトに無理があったか。これを読んでいても、今までわからなかった清教徒革命のことはやはりわからない。こちらにキリスト教の知識が不足していることはあるだろうけれども。

 

一番印象に残ったのは近世のイギリス人の好戦性だ。決闘を好み、喧嘩っ早いことが良しとされる風潮が紳士の国であるはずのイギリスには存在し、ナポレオンの時代に軍隊の鞭打ちを廃止するキャンペーンもイギリスでは定着しなかった。パブリック・スクールでも体罰が横行している。17世紀末ころからイギリスでは憂鬱症や心気症が多くなっているが、これはこうした好戦性の裏返しであると著者は言う。イギリスで推理小説の名作が生まれたのも、死と隣り合わせの好戦性が原因ではないかと書かれている。

 

イギリス史で一番新しいトピックと言えばEU離脱だが、失業や貧困の原因をEU移民に押し付ける議論が横行していたと簡潔に触れられている。イギリスは本来大陸とは距離を起きたい国で、EUには功利主義から加盟していたにすぎないと書かれているのだが、実利を重んじるイギリス人からすればそんなものなのだろうか。