ゲームさんぽの動画は面白いものが多いですが、藤村シシンさんはゲームさんぽに出演することを目的にしていただけあって、藤村さんが出ている回は解説の巧みさと気合の入り方が見事です。
一番新しい上の動画ではアサシンクリードオデッセイのDLCで出てくる死後の世界「エリュシオン」を見ながらギリシャ神話やギリシャ人の死生観、宗教などについて語っていますが、最初から最後まで見どころしかない回でした。
ペルセポネの頭に飾られた水仙からギリシャ神話におけるペルセポネの役割、ハデスとの関係性、ヘルメスの性格などが語られる部分ではギリシャ神話のカオスな魅力を存分に味わえます。「ヘルメスは軽い性格で後腐れなく別れるが、アポロンが関わると相手が死ぬか自分が殺すかになる」「ハデスは冷酷だが愛情で結びついている夫婦には弱い」といった話は神様のキャラ付けを明確にしてくれるので、ギリシャ神話への親しみも増すと思います。この動画はコメント欄のレベルも高くて藤村さんが返信していることもあります。
全部の質問には答えられないんですが、たまにコメント欄でお答えしています〜。あと他の方の小話が面白すぎたので乗る。https://t.co/nuI70paOoV pic.twitter.com/u4uqFTpeCq
— 藤村シシン🏛NHKギリシャ講座開講中 (@s_i_s_i_n) 2021年5月19日
この回ではギリシャ人の宗教観についての話が特に面白く、藤村さんは古代ギリシャでは信心よりも行動が大事、という話をしています。心の中でいくら祈ってもダメで、極端にいえば信心などなくても儀式をちゃんとするほうが大事なのです。藤村さんは律儀に初詣に行く日本人とギリシャ人の共通性を指摘していますが、信仰を行動にあらわすのが大事、という意味ではイスラーム教にも似た面はあるかもしれません。
意外なことですが、ギリシャではじめて「魂は不死」と言い出したのがピタゴラスであることもこの動画で語られています。ギリシャの人々がエリュシオンの存在を信じ始めたのが、ピタゴラス以来なのです。生前の行いによって死後行く世界が変わるかもしれない、という考えがピタゴラスの影響によって出てきたので、藤村さんはピタゴラスの出現を日本における仏教伝来にたとえています。とはいえギリシャ人の考えもさまざまで、「魂に不死性があるなら人は神に近くなる、それは不遜だ」と考える人もいるのです。死後の世界があるのかないのか、あるとしてエリュシオンはどのような世界か、は個人によってかなり考えに差があったようです。
古代ギリシャ人の宗教観を変えたピタゴラスがどれほどの超人だったかがこちらの動画では語られています。藤村さんが挙げるピタゴラスの古代ギリシャでの設定はこういうものです。
・何度でも蘇る
・輪廻転生ができる
・イケメン過ぎて川が挨拶する
・矢に乗って空を飛べる
・娘がオリンピック選手と結婚
というわけで、とうてい数学者という枠だけにおさまる人物ではありません。上の4つはほぼ伝説ですが、このように神話と史実がときに混ざってしまうところにも古代ギリシャの魅力があります。もっとも、藤村さんによれば古代ギリシャ人もこうした神話や伝説をすべて信じていたわけではなく、現代人と同じように疑うこともあります。ギリシャ神話の神々はゼウスのように浮気性だったり、時には犯罪すら犯すので、こんな神を信じてもいいのかと葛藤もするのです。古代人だから迷信深いとは限りません。ピタゴラスが生きていたのはアサシンクリードオデッセイの時代(ペロポネソス戦争の時代)より200年くらいさかのぼるので、なかば伝説化されていましたが、同時代に生きているソクラテスについては特に伝説らしいものはありません。あるのはせいぜい「悪妻伝説」くらいのものですが、時代が下るにつれて人間の評価も現実的になっていくのは興味深いところです。