明晰夢工房

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落ちこんだときはどんな本を読めばいい?寺田真理子『心と体がラクになる読書セラピー』

 

心と体がラクになる読書セラピー

心と体がラクになる読書セラピー

  • 作者:寺田 真理子
  • 発売日: 2021/04/23
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

古代ギリシャのテーバイの図書館のドアには「魂の癒しの場所」と書かれていたという。読書にセラピー効果があることは、古代人もよく理解していた。このことはさまざまな研究成果でも裏づけられていて、読書によりストレスレベルが68%も下がること、共感力の低いカウンセラーよりも本を読むほうがクライアントの経過が良好であることなどがこの本では紹介されている。こうした効果があるため、イギリスでは読書セラピーを代替療法として認定し、イスラエルでは読書セラピストが国家資格になっている。

 

読書セラピーにははっきりした定義はないが、著者は「読書によって問題が解決されたり、なんらかの癒しが得られたりすること」と定義している。なぜ、本を読むことでこのような効果が得られるのだろうか。この本では、「読書セラピーでできること」として、以下の4つをあげている。

 

1.対応能力の改善

2.自己理解の向上

3.対人関係の明確化

4.現実認識の深化

 

この4つはそれぞれ関連しているものだが、落ちこんでいるときには特に3が大事だと感じた。これは、「読書によって万人共通のものとしての感情を認識すること」だと解説されている。つらい経験をしたとき、そのつらさを味わっているのが自分だけではないと知ることで、人は孤独感から解放される。これが読書によるセラピー効果のひとつだ。

 

人間が孤独になるのは、つらいことを経験し、しかも「こんなにつらいことを経験しているのは自分だけだ」と思うときです。だけど読書をすることで、登場人物が自分と同じような経験をしていたり、同じような感情を味わっていたりして、「こういうことは誰にでもあることなんだな」と認識できます。たとえ登場人物がとった解決策が自分には当てはめられない場合でも、登場人物が奮闘していたこと自体が力になります。(p103)

 

落ち込んでいる自分にふさわしい本をみつけるために、この本では「同質の原理選書術」を紹介している。疲れているときに自己啓発書を読んでも余計に疲れてしまうから、今の自分の気分に合うトーンの本を選ぶという方法だ。ただし、落ちこんでいるときに重いトーンのものを読むのには注意も必要だ。そういう本を読みすぎると落ち込みから抜けられなくなることもあるし、自殺した著者の本を読むことでその思考に引きずられるこてしまうこともある。重いものを読んだ後は、少しづつ感情を引き上げていくことが大事だ。

 

感情を引き上げていく読書として著者がすすめているのは、「お気に入りのマンガの一気読み」だ。特に主人公が成長していくタイプのものなら自分の精神状態も高まっていく効果が期待できる。また、落ちこんでいるときはあえて関係ないジャンルの本を読むのもいいらしい。自分の悩みと関係ないものを読むことで、うまく気分転換がはかれるようだ。

 

読書セラピーには自分が欲しい要素をもっている作品を読むことで、その要素を自分に取り入れるという方法もある。決断力がない自分が嫌なら、即断即決で次々とチャンスをものにしていく主人公の作品を選ぶこともできる。でも落ち込んでいるときはここでも注意が必要になる。気分が下がっていると、自分の欠落した部分に注意が向いてしまい、すぐれた主人公と比較してかえってつらくなってしまうからだ。『うつヌケ』にはうつ当事者と思われる読者からの批判が意外と多かったが、これも自分と作中の登場人物の境遇を比較してしまうからだろう。

 

saavedra.hatenablog.com

私はこの本を読んで、永田カビ作品のようなネガティブな内容の多い漫画を読みたくなる理由をはっきり理解できた。気分が落ちているときは、そういうものこそが自分にふさわしいのだ。逆にいえば、今読みたい本によって、今の自分の精神状態を知ることもできる。人は必要とするものに心が惹きつけられるようになっているのだろう。どんな素晴らしい本でも、今の感情に合わないものは活かすことができない。病人は粥しか食べられないことがあるように、落ちこんでいる自分にふさわしい「粥」としての読書とはなにか、を意識するとその時の精神状態に合った本を摂取できそうだ。