明晰夢工房

読んだ本の備忘録や日頃思ったこと、感じたことなどなど

2020-01-01から1年間の記事一覧

【感想】市川裕『ユダヤ人とユダヤ教』

ユダヤ人とユダヤ教 (岩波新書) 作者:裕, 市川 発売日: 2019/01/23 メディア: 新書 これを読んでいて、ユダヤ史についての知識に穴があることに気づいた。それは中世、とりわけイスラーム世界におけるユダヤ人についてだ。この本では4つの視点からユダヤ人と…

原始仏教の最もわかりやすい入門書『ゴータマは、いかにしてブッダとなったのか』

本当の仏教を学ぶ一日講座 ゴータマは、いかにしてブッダとなったのか (NHK出版新書) 作者:佐々木閑 発売日: 2013/03/29 メディア: Kindle版 1日、6時限かけて著者の授業を聞くという形式の原始仏教講座。内容はきわめてわかりやすい。ブッダの生涯を語る…

【感想】天野純希『燕雀の夢』

燕雀の夢 (角川文庫) 作者:天野 純希 発売日: 2020/01/23 メディア: Kindle版 織田信秀、武田信虎、松平広忠など「英雄の父」を主人公とした短編集。6つの短編はどれも読みごたえがあるが、中でも『虎は死すとも』と『楽土の曙光』の二編がとくに印象に残っ…

【感想】宮部みゆき『ぼんくら』の善人描写の巧みさについて語る

ぼんくら(上) (講談社文庫) 作者:宮部 みゆき 発売日: 2004/04/15 メディア: 文庫 ぼんくら(下) (講談社文庫) 作者:宮部 みゆき 発売日: 2004/04/15 メディア: 文庫 いまさら言うまでもなく、宮部みゆきはすぐれたミステリ作家だ。だからもちろん『ぼんくら…

呉座勇一氏による明智光秀の人物評が『明智光秀と細川ガラシャ 戦国を生きた父娘の虚像と実像』で読める

明智光秀と細川ガラシャ (筑摩選書) 作者:章一, 井上,勇一, 呉座,クレインス,フレデリック,南燕, 郭 発売日: 2020/03/13 メディア: 単行本(ソフトカバー) 四人の著者が明智光秀とガラシャについて論じている本。第一章の『明智光秀と本能寺の変』では、呉…

【感想】佐藤巖太郎『会津執権の栄誉』

会津執権の栄誉 (文春文庫) 作者:巖太郎, 佐藤 発売日: 2019/07/10 メディア: 文庫 渋い。この一言につきる。本作は会津芦名家の興亡を描いた連作短編だが、それぞれの作品の主人公は皆あまりなじみのない人物で、大河ドラマの主人公になるような華々しい活…

【感想】パオロ・ジョルダーノ『コロナの時代の僕ら』

コロナの時代の僕ら 作者:パオロ ジョルダーノ 発売日: 2020/04/24 メディア: Kindle版 このエッセイ集を貫くものがふたつある。明晰さと真っ当さだ。パオロ・ジョルダーノは素粒子物理学を修めた科学者らしく、COVID-19が人間社会にもたらす影響を、ビリヤ…

【書評】山本太郎『感染症と文明 共生への道』

感染症と文明――共生への道 (岩波新書) 作者:山本 太郎 発売日: 2011/06/22 メディア: 新書 文明化とは感染症との共存だ、ということがこの本の一章『文明は感染症の「ゆりかご」だった』を読むとわかる。文明化以前の人類は小規模な集団で狩猟生活を行い、移…

『新もういちど読む山川世界史』はコラムの人物伝が面白い

新 もういちど読む 山川世界史 発売日: 2017/08/01 メディア: 単行本(ソフトカバー) 世界史本なら山川出版社は安心のブランドだ。なにしろ教科書をつくっているのだから、この手の「大人の学び直し」的なものの内容も無難で偏りがなく、間違いのないものに…

【書評】岩波新書シリーズ中国の歴史3『草原の制覇 大モンゴルまで』

草原の制覇: 大モンゴルまで (岩波新書) 作者:崇志, 古松 発売日: 2020/03/21 メディア: 新書 王朝別の歴史記述を乗りこえるため、中国史を地域ごとに分けてマクロな視点からみていくシリーズの三冊目となる本。本書では鮮卑が華北を征服した南北朝時代から…

【感想】ケン・リュウ選『現代中国SFアンソロジー 月の光』

月の光 現代中国SFアンソロジー (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ) 作者:劉 慈欣 発売日: 2020/03/18 メディア: ハードカバー 一言で中国SFといっても多様だ。とはいえ、中国ならではのSF作品というものもやはり存在する。当人もすぐれたSF作家であるケン・リュウ…

【麒麟がくる17話感想】そして、道三は伝説になった

www.nhk.or.jp 『麒麟がくる』17回「長良川の対決」は大河ドラマ史上、長く語り継がれるであろう回になった。第1回からていねいに積み上げられた斎藤道三・高政父子の相克の物語は、ついにここに決着を見た。長良川河畔に鳴り響く陣太鼓のリズムが悲壮感を盛…

日本史リブレット『蝦夷の地と古代国家』に見る蝦夷アイヌ説と蝦夷非アイヌ説

蝦夷の地と古代国家 (日本史リブレット) 作者:熊谷 公男 発売日: 2004/04/01 メディア: 単行本 古代蝦夷とは何者かを考えるとき、蝦夷はアイヌなのかそうでないのか、が古くから考察の的となってきた。だが、この問いははっきり二者択一で答えを出せるもので…

大学生の「読書離れ」はいつ始まったのか?津野海太郎『読書と日本人』

www.asahi.com 1日の読書時間がゼロという大学生が、2017年にはじめて5割を超えたという。今の大学生は経済的にあまり余裕がなく、アルバイトに忙しいからだといわれることもあるが、とにかく大学生の読書時間は減る傾向にあるようだ。齋藤孝氏などはよくこ…

『岩波講座世界歴史12 遭遇と発見』に見るギリシア人のスキタイ観の変化

岩波講座 世界歴史〈12〉遭遇と発見―異文化への視野 作者:樺山 紘一 発売日: 1999/02/25 メディア: 単行本 この巻では『古代ギリシア人のスキュタイ観』が特におもしろい。遊牧騎馬民族は野蛮で農耕民族は文明的、というステロタイプはすでに克服されつつあ…

【感想】青山文平『白樫の樹の下で』

白樫の樹の下で (文春文庫) 作者:青山 文平 発売日: 2013/12/04 メディア: 文庫 貧乏御家人の主人公村上登と冷静で温厚な青木昇平、少々ひねくれたところのある仁志兵輔という二人の友がくりひろげる江戸青春活劇──とまとめてしまうには、この作品はあまりに…

【感想】映画『感染列島』はコロナ禍前後で評価が変わる

感染列島 発売日: 2017/06/16 メディア: Prime Video 感染列島 [Blu-ray] 発売日: 2009/07/24 メディア: Blu-ray 最近ビフォーコロナ、アフターコロナという言葉をよく耳にする。コロナ禍前後では世界のありようが一変するとあちこちで言われる。となると、…

【書評】一坂太郎『吉田松陰とその家族 兄を信じた妹たち』

吉田松陰とその家族-兄を信じた妹たち (中公新書) 作者:一坂 太郎 発売日: 2014/10/24 メディア: 新書 大河ドラマ『花燃ゆ』の前半は、ほぼ伊勢谷友介演じる吉田松陰の魅力でもっていた。主人公の兄である松陰が処刑され、夫の久坂玄瑞もまた刑死したため、…

【書評】オスマン帝国600年の歴史が新書一冊でわかる『オスマン帝国 繁栄と衰亡の600年史』

オスマン帝国-繁栄と衰亡の600年史 (中公新書) 作者:小笠原 弘幸 発売日: 2018/12/19 メディア: 新書 大変読みごたえのある一冊だった。オスマン帝国600年の歴史の概略を、この一冊で知ることができる。この本ではオスマン帝国歴代スルタン全員の事績を追い…

【感想】『ビジュアルパンデミック・マップ 伝染病の起源・拡大・根絶の歴史』

ビジュアル パンデミック・マップ 伝染病の起源・拡大・根絶の歴史 作者:サンドラ・ヘンペル 発売日: 2020/02/14 メディア: 単行本 ジフテリアや天然痘・コレラ・マラリア・ペスト・梅毒など、人間を苦しめてきた数々の伝染病の歴史を図解で解説している本。…

糸井重里氏のツイートと「他人は変えられないから自分を変えよ」という自己啓発的メッセージの限界

先日、糸井重里氏のこんなツイートが話題になっていた。 わかったことがある。新型コロナウイルスのことばかり聞いているのがつらいのではなかった。ずっと、誰ががが誰かを責め立てている。これを感じるのがつらいのだ。 — 糸井 重里 (@itoi_shigesato) 202…

【感想】中村光博『「駅の子」の闘い 戦争孤児たちの埋もれてきた戦後史』

「駅の子」の闘い 戦争孤児たちの埋もれてきた戦後史 (幻冬舎新書) 作者:中村 光博 発売日: 2020/01/30 メディア: 新書 2010年、「伊達直人」を名乗る人物から児童福祉施設に寄付が行われる「タイガーマスク現象」が起きた。「伊達直人」からプレゼントが届…

【書評】岩波新書シリーズ中国の歴史2『江南の発展 南宋まで』

江南の発展: 南宋まで (岩波新書) 作者:充拓, 丸橋 発売日: 2020/01/23 メディア: 新書 従来のような時代別ではなく、地域史にも着目した新たな中国史概説をめざす岩波新書シリーズ中国の歴史の二冊目が出た。本書では古代の長江流域の文化から筆を起こし、…

【感想】戊辰戦争で百姓がどう戦ったかよくわかる『百姓たちの幕末維新』

文庫 百姓たちの幕末維新 (草思社文庫) 作者:尚志, 渡辺 発売日: 2017/04/04 メディア: 文庫 日本人の8割をしめた百姓たちは、幕末維新をどう戦い、生き抜いたのか。本書『百姓たちの幕末維新』を読めば、激動の時代を百姓たちがどうサバイバルしたかがよく…

【書評】出口治明『人類5000年史Ⅲ』

人類5000年史 III (ちくま新書) 作者:治明, 出口 発売日: 2020/03/06 メディア: 新書 人類5000年史のシリーズもこれで3冊目となった。この巻では東洋史では宋からモンゴル帝国のユーラシア制覇、そして明王朝までが語られ、西洋史は中世ヨーロッパ世界の成立…

カーネギー『人を動かす』が語るリンカーンの煽りスキルの凄さ

人を動かす 文庫版 作者:D・カーネギー 発売日: 2016/01/26 メディア: 単行本 若き日のリンカーンは煽りの達人だった D・カーネギー『人を動かす』はタイトル通り、人を説得するノウハウの書かれた実用書だ。だがこの本は読み物としてもなかなかおもしろい。…

アマプラで『少女終末旅行』を観ていたらすっかり絶望と仲良くなった

『少女終末旅行』は癖になる 「星空」「戦争」 発売日: 2017/10/13 メディア: Prime Video このアニメ、最初は「きれいなfallout?」と思っていた。ユーリとチトが食料をみつけたり魚を食べていたりするたびに、いかんRAD値上がるぞ、なんて考えていた。fall…

世界史の流れを商業ネットワークから理解できる『教養のグローバル・ヒストリー』が面白い

教養のグローバル・ヒストリー:大人のための世界史入門 作者:北村 厚 出版社/メーカー: ミネルヴァ書房 発売日: 2018/05/11 メディア: 単行本 グローバルヒストリーに基づく世界史入門として最適 1冊だけで「世界史の流れ」をおさえられる本はないものか、と…

ヒジャブ姿で日本のアニソンを歌うインドネシアのユーチューバー・RainychRan

先日、ユーチューブで女王蜂の動画を観ていたら関連動画にこれが出てきた。少し舌足らずで透明感のある歌声に一瞬で心をつかまれ、気がついたらほぼすべての動画を再生していた。 日本のアニソンを歌う人は世界中にいるが、イスラム圏の人を見たのははじめて…

dTVチャンネルの番組『歴史のじかん』がなかなか濃くて面白かったので感想を書く

山崎怜奈さんが司会を務めるdTVチャンネル『歴史のじかん』 れな歴ご視聴ありがとうございました!番組の感想は#歴史のじかんか#れな歴をつけて呟いて下さい!次回のテーマは『上杉謙信』!戦国武将イチの軍神と恐れられるも、意外に恐くない?素顔に山崎さ…