明晰夢工房

読んだ本の備忘録や日頃思ったこと、感じたことなどなど

【感想】修道女フィデルマシリーズ長編第一作『死をもちて赦されん』

死をもちて赦されん (創元推理文庫) 作者:ピーター・トレメイン 東京創元社 Amazon 若くて美貌、学識豊かで弁護士資格を持ち頭脳明晰……と超ハイスペックな修道女フィデルマが難事件を解決するフィデルマシリーズの第一作。本作『死をもちて赦されん』ではイ…

戦国日本における「水軍」と「海賊」はどう違うのか?小川雄『水軍と海賊の戦国史』

水軍と海賊の戦国史 (中世から近世へ) 作者:雄, 小川 発売日: 2020/04/27 メディア: 単行本(ソフトカバー) 戦国時代の「海賊」としては瀬戸内海の来島村上氏や能島村上氏がよく知られている。ところで「海賊」とはなんだろうか。本書『水軍と海賊の戦国史…

落ちこんだときはどんな本を読めばいい?寺田真理子『心と体がラクになる読書セラピー』

心と体がラクになる読書セラピー 作者:寺田 真理子 発売日: 2021/04/23 メディア: 単行本(ソフトカバー) 古代ギリシャのテーバイの図書館のドアには「魂の癒しの場所」と書かれていたという。読書にセラピー効果があることは、古代人もよく理解していた。…

ゲームさんぽの藤村シシンさんの動画は古代ギリシャ文化入門として圧倒的におすすめ

www.youtube.com ゲームさんぽの動画は面白いものが多いですが、藤村シシンさんはゲームさんぽに出演することを目的にしていただけあって、藤村さんが出ている回は解説の巧みさと気合の入り方が見事です。 一番新しい上の動画ではアサシンクリードオデッセイ…

【感想】ゆうきまさみ『新九郎、奔る!』7巻が描き出す疫病流行と室町時代の「健康格差」

新九郎、奔る! (7) (ビッグコミックススペシャル) 作者:ゆうき まさみ 発売日: 2021/05/12 メディア: コミック 『新九郎、奔る!』のおもしろさは言語化しにくい。7巻の時点でも新九郎はまだ若く、本格的な戦いを経験したこともない。領地経営の苦労話も地味…

「日出処の天子」は倭と隋が対等という意味ではない?河上麻由子『古代日中関係史 倭の五王から遣唐使以降まで』

古代日中関係史-倭の五王から遣唐使以降まで (中公新書 2533) 作者:河上 麻由子 発売日: 2019/03/16 メディア: 新書 「日出づる処の天子より、日没する処の天子に書を致す」──これは、聖徳太子が隋の煬帝に送ったとされる書状の文言としてあまりに有名だ。だ…

【感想】「うつヌケも運のうち」なのか?田中圭一『うつヌケ うつトンネルを抜けた人たち』

うつヌケ うつトンネルを抜けた人たち 【電子書籍限定 フルカラーバージョン】 (角川書店単行本) 作者:田中 圭一 発売日: 2017/01/19 メディア: Kindle版 サンデルの新刊『実力も運のうち 能力主義は正義か?』が話題だ。一見実力で勝ちとったようにみえる社…

【感想】火坂雅志・伊東潤『北条五代(上)(下)』

北条五代 上 作者:火坂 雅志,伊東 潤 発売日: 2020/12/07 メディア: Kindle版 火坂雅志が執筆中に急逝したため未完になっていた作品を伊東潤が引き継ぎ完成させた『北条五代』を読んだ。後北条氏五代の興亡を描くこの作品で、火坂雅志は三代目当主・北条氏康…

【感想】謎解き×怪異×人情全部入りの宮部みゆきよくばりセット『きたきた捕物帳』

きたきた捕物帖 作者:宮部みゆき 発売日: 2020/05/29 メディア: 単行本 宮部みゆきの時代ものには怪異要素のあるものとないものがある。怪異入りなのは『三島屋変調百物語』『荒神』『あかんべえ』などで、これらの作品は捕物ではない。いっぽう怪異なしの作…

【書評】殷の女性兵士から兵馬俑の髪型の秘密まで、古代中国史の最新知見を得られる『戦争の中国古代史』

戦争の中国古代史 (講談社現代新書) 作者:佐藤信弥 発売日: 2021/03/17 メディア: Kindle版 古代中国史の入門書として文句なしにおすすめできる本が出た。本書『戦争の中国古代史』はタイトル通り軍事についての記述が多いものの、殷~前漢の政治史を要領よ…

マギレコのPAPA先生が描く武田信虎のマンガが面白い

なんと平山優先生監修の武田信虎のマンガがツイッターに投稿されていた。描いているのはマギレコでお馴染みのPAPA先生。信玄のパパだからPAPA先生という人選?かわいい絵柄なのに内容は本格派だ。 こちらのマンガ「信玄のパパ 武田信虎のほんとの話」は、信…

【感想】菊池英明『太平天国 皇帝なき中国の挫折』

太平天国――皇帝なき中国の挫折 (岩波新書 新赤版 1862) 作者:菊池 秀明 発売日: 2020/12/19 メディア: 新書 なぜ太平天国軍は清朝にかわり、中国の支配者になれなかったのか。そう問いを立てつつこの本を読みはじめた。読み進めると、太平天国側の体制にはあ…

【感想】筒井忠清編『昭和史講義 戦後編(上)』はシベリア抑留の入門書として使える

昭和史講義【戦後篇】(上) (ちくま新書) 発売日: 2020/08/07 メディア: 新書 全20講の構成で昭和史の様々なトピックを取りあげているが、この本の内容ではとくにシベリア抑留について興味を引かれた。第3講「シベリア抑留」は22ページ程度の内容だが、この講…

【感想】田中優子・松岡正剛『江戸問答』

江戸問答 (岩波新書 新赤版 1863) 作者:田中 優子,松岡 正剛 発売日: 2021/01/22 メディア: 新書 2章の浮世問答の「学問のオタク化と多様化」がおもしろい。明治維新は江戸時代の「学び」から出ているが、江戸時代の学びとは「実」と「遊」の間にあるものだ…

【感想】今村翔吾『くらまし屋稼業』

くらまし屋稼業 (時代小説文庫) 作者:今村翔吾 発売日: 2020/05/15 メディア: Kindle版 松永久秀を主人公とする『じんかん』で話題になった今村翔吾の人気シリーズの第一作。希望する者を江戸の外に逃がす「くらまし屋」を裏家業とする堤平九郎が主人公。『…

【書評】古代蝦夷の入門書として最適の本:工藤雅樹『蝦夷の古代史』

蝦夷の古代史 (読みなおす日本史) 作者:雅樹, 工藤 発売日: 2019/05/17 メディア: 単行本 古代日本を語るうえで、蝦夷の存在は欠かせない。奈良時代から平安時代初期にかけて、律令国家はかなりの力を傾けて「征夷」をおこなった。蝦夷はそれだけ日本にとっ…

【書評】蝦夷が武士の成立に与えた影響とは?桃崎有一朗『武士の起源を解きあかす』

武士の起源を解きあかす ──混血する古代、創発される中世 (ちくま新書) 作者:桃崎有一郎 発売日: 2018/11/23 メディア: Kindle版 この本の著者、桃崎有一朗氏によれば、武士がどこからどう生まれたのか、という問いに日本の歴史学界は答えられていないのだと…

ソクラテスの妻クサンティッペの「悪妻伝説」はどのように生まれたか

ソクラテス (岩波新書) 作者:田中 美知太郎 発売日: 2019/11/28 メディア: Kindle版 ソクラテスの妻クサンティッペは「悪妻」だったといわれる。彼女はときにソクラテスに水を浴びせかけたり、上着をはぎ取ったりしたという。そんな扱いを受けてもソクラテス…

【感想】古市憲寿『絶対に挫折しない日本史』

絶対に挫折しない日本史(新潮新書) 作者:古市憲寿 発売日: 2020/09/17 メディア: Kindle版 好き嫌いの分かれそうな本だ。この手の概説書はなるべく著者の色を消して通説とされているものを淡々と記述していくものと、著者の個性を前面に押し出すものとがあ…

【感想】冒険も結婚も「中動態」でしか記述できない?角幡唯介『そこにある山 結婚と冒険について』

そこにある山 結婚と冒険について 作者:角幡唯介 発売日: 2020/10/21 メディア: Kindle版 冒険と結婚を哲学する、といった趣の本だった。著者のことをよく知らないで読んだのだが、この本は冒険そのものを求めて読むと当てが外れるかもしれない。一方で、角…

岩波新書『シリーズアメリカ合衆国氏』『シリーズ中国の歴史』が電子書籍化

岩波書店の電子書籍、12月はすごいことになっています。『孤塁』『ブルシット・ジョブ』といった単行本から、少年文庫70点(!)、そして新書は『シリーズアメリカ合衆国史』『シリーズ中国の歴史』の配信が始まります。https://t.co/1t8HOadMsi pic.twitter…

【感想】佐藤厳太郎『伊達女』にみる歴史研究と歴史小説の幸福な関係

伊達女 作者:佐藤 巖太郎 発売日: 2020/11/06 メディア: 単行本 歴史小説には「そう来たか」がほしい。ここで言う「そう来たか」とは、史実(とされているもの)を意外な方向で解釈する、ということだ。この作品を読む人の多くは、伊達政宗の生涯についてお…

念仏は信じられない人も救ってくれる?ひろさちや『日本仏教史』

日本仏教史 posted with ヨメレバ ひろさちや 河出書房新社 2016年05月27日頃 楽天ブックス Amazon Kindle B'zの曲に「信じる者しか救わないセコい神さまより僕と一緒にいるほうがいいだろ」みたいな歌詞があるが、信じていない者を救ってくれる神様はいるだ…

ブログに「本当の感想」をもらうことの難しさ

togetter.com もうとっくにこの話題の旬は過ぎてしまっているが、改めて上記のまとめを読み返し、いろいろと思うことがあったのでここに書いておく。 作家もそうだが、何かしら創作をしている人は、単に創りたいものがが創れればそれで満足、という人ばかり…

小林一茶の夜の営みの回数を記録した『七番日記』に何を読みとるか

性からよむ江戸時代――生活の現場から (岩波新書) 作者:沢山 美果子 発売日: 2020/08/21 メディア: 新書 小林一茶の残した『七番日記』という日記がある。これは大変貴重なものである。というのは、なんと一茶が妻との房事の回数を記録しているからである。江…

ヴァイキングは人間を生贄に捧げていたか

ドラマ『ヴァイキング』ではウプサラで人が神の犠牲に捧げられるシーンがある。アセルスタンもシーズン1ではここで殺されかけていたが、まだキリスト教を信じていることを見抜かれて犠牲になる資格がないということになり、助かった。 シーズン2ではアセルス…

【感想】『ヴァイキング』シーズン2(1話)でさらにヴァイキングの略奪の理由付けが明確になった

Vikings: Season 2 [DVD] [Import] メディア: DVD ドラマ『ヴァイキング』はシーズン1のドラマ終盤に入るとラグナルの兄、ロロの存在がクローズアップされてくる。ロロはヴァイキングの英雄として名声を勝ち得る弟に対し、いまひとつ冴えない己の現状に忸怩…

【感想】ドラマ『ヴァイキング』(シーズン1)はヴァイキングの残酷さとの距離の取り方が絶妙な歴史ドラマ

Vikings: Season 1/ [DVD] [Import] アーティスト:Vikings 発売日: 2013/10/15 メディア: DVD このドラマを観る前は、感情移入が難しいのではないかと思っていた。ヴァイキングを主人公に据える以上、どうしても略奪を描かざるをえない。ヴァイキング側から…

オオカミはどんな過程を経てイヌになったのか?アリス・ロバーツ『飼いならす──世界を変えた10種の動植物』

飼いならす――世界を変えた10種の動植物 作者:アリス ロバーツ 発売日: 2020/10/16 メディア: 単行本 イヌと人間とのかかわりは、従来思われていたより古いようだ。この本ではアルタイ山脈のラズボイニクヤ洞窟でみつかった動物の頭蓋骨を紹介しているが、3万…

森本公誠『東大寺のなりたち』に見る東大寺造立の社会的効果

東大寺のなりたち (岩波新書) 作者:森本 公誠 発売日: 2018/06/21 メディア: 新書 ピラミッドのような巨大建築物は、建設のために多くの人手を必要とするため、雇用対策として建設されるという一面がある。大仏はどうだろうか。奈良の大仏の造立に参加した人…